第16話 <家> 魔道具の製作
魔導騎士団がまさに戦いを挑むころ、王都ではローザ、エルメリア、彼女の友人であり魔道具職人のローレンス、フィンの祖父のルード・ヴァリエール。
と、なぜか商人。
最後の人物にかなりの違和感を感じつつ、使えるものは使ってやると家は4人を迎え入れる。
「さも当然招き入れたかのようにしつつ、さらっと外に追いやるとは、どういうことですか!?」
『なんのことだ?』
くそっ。
「こんにちは、家様。今日は皆様の護衛としてではありますが、お邪魔いたします」
この娘はフィンに惚れている娘だ。
当然歓迎する。
「びっくりして声も出ないよ。はじめまして、家さん。僕はローレンスです」
「わたくしもです。でも、心強いお見方だと思います。よろしくお願いいたします、家様。わたくしはエルメリア・ハザウェイですわ」
この2人は礼儀正しいので当然歓迎する。
「孫がお世話になっていると伺っておりますじゃ。また、このような素晴らしい魔道具たる方にお会いできるとは恐縮ですじゃ」
この人は感激しすぎてる気がするが……。
フィンのお祖父様だから当然歓迎だ。
領地が大丈夫なのか心配したところ既に爵位は子供に譲ったとのことだったからこうやって自由に動けるんだろう。
「売ってからほんの少ししか時間が経ってないのに、ビックリな展開ですな。この私も商人として、もし何か入用のものがあれば調達いたします」
全く信頼できない。
お願いしたものとは全く違ったものをさも当然のように売りつけてきそうだ。
いや、決して私がフィンの要望に合わない家ということではない。
むしろ気に入られているはずだ。
……きっと。
気に入ってるよな?
いかんいかん、許可を貰ってないのにフィンにつなぎそうになってしまった。
まったく。無駄な思考を加速させおって。
こいつは当然却下だ。
なに勝手に入ってるんだ。
くそっ。まぁいっか。
『まぁいい。では制作を始めよう。2階の奥に作業場を用意したので上がってくれ』
その声に従って2階にあがる4人。
ローザはついてこない。
どうやらここで待機、警戒しているそうだ。
真面目な娘だな。
「でははじめるのじゃ」
「はい、ルード様」
ローレンスとルードが図面と素材を取り出す。
ローレンスは10日ほどで魔道具の構成図を書いたらしい。
緊急性もあって、エルメリアがフィンの母親を通じてルードに連絡を取り、そこからはルードもやってきて協力していたようだ。
そこに商人が近寄り、追加の素材を出す。
若く、恐らく経験が浅いローレンスが商人から素材を受け取ってしまう。
流れるようにものを売りつける。
「こちら、ワイバーンの胆石です。どうぞお使いください。ルード様よりご依頼いただいておりましたものですので」
「助かります」
さすが商人だと思ったが、フィンのお祖父さまが注文していたらしい。
「お代は結構ですので。フィン様にはよくして頂いておりますから」
「ありがとうございます。感謝いたしますとともに、フィン様にもお伝えいたします」
エルメリアが丁寧に礼を言う。
礼なんか言う必要ない気がするのはなんでだろうか。
作業台の上に素材を置き、横に設計図を置くローレンス。
用意された素材は聖銀の塊、魔法陣を描くために液体に溶かされた魔銀、満月草、水晶、あとはワイバーンの胆石だ。
聖銀の塊を基盤として主に魔銀で魔法陣を描いていく。
体力回復だけならそれで充分なのだが、今回は魔力放出のために水晶を組み込みそこに吸収させる。
さらにワイバーンの胆石の効果を使って心臓の問題点を治し、満月草の効果によって傷んだ心臓自体を回復させる。
そのため、水晶、ワイバーンの胆石、満月草を魔道具に組み込み、魔法陣と連結する必要がある。
結構緻密だけどローレンスは大丈夫かな?
私がローレンスを見ていると、彼は意外に丁寧な仕事で魔道具を作っていく。
それを見守るルードがたまに手を貸すが、ほとんどの部分をローレンスが組んだ。
「見事ですね。かなり上手い」
「ありがとうございます!」
褒めようと思ったら商人が褒めていた。
私の出番を奪うな。
そうして出来上がる魔道具。
結局1時間ほどで完成してしまった。
私の出番がない……。
しかしここで問題が生じる。
待ってましたとか言えないのは辛いな。
出来上がった魔道具をエルメリアが手に取り、彼女はその魔道具に魔力を流し込む。
魔道具は一瞬光を放ったものの、暗いままだ。
これは魔力不足か。
「すみません、私では魔力不足のようです」
エルメリアの魔力は……MP 204……。
フィンよりは高いが確かにこれでは無理だな。
この魔道具を動かすには1,000くらい必要だろう。
1回に1,000だが、1回動けばいいのだ。
気になった私は全員のステータスを覗き見るが、誰も当てはまらない。
1人おかしいのがいるがもう無視だ。
ルード MP 316(最大352)
ローレンス MP 174(最大229)
ローザ MP 182(最大182)
商人 MP [覗きはダメ]
ルードとローレンスの魔力が減っているのは魔道具の製作で使ったからだろう。
しかし、仮に全回復状態でも誰も動かせない。
「え~とその、家様?この魔道具を動かすのに必要な魔力は……」
戸惑いながら聞いてくるエルメリアに私は答える。
『1,000だ』
王城であれば誰かしらいるのではないだろうか。
しかし、私の発言を聞いて項垂れるエルメリア。
ローレンスが支える。
『もしかして心当たりがいないとか?』
「はい……」
まじかよ。
みんな魔力低いんだな……。
「家様、なにか手立てはないでしょうか?」
『もちろんある。魔石を組み込めばいい』
「それは……」
一瞬明るくなった顔が次の瞬間には暗い。
この娘は面白いな……。
すまん、不謹慎だった。
「家様。この国では魔石は採れませんし、魔道具を抑制しているのと同時に魔石の輸入も行っていないのです」
それは徹底しているな。
日用生活の魔道具はあるはずなのに、まさか全部人が動かしているのだろうか。
さすがに通信の魔道具とかは結構魔力を使うと思うのだが。
それがあるから宣戦布告がすぐに王都に届いているんだろうから、使っていると思うんだけどな。
『それなら晶貨を使うしかないな』
「晶貨を???」
明らかに驚くエルメリアとローレンス。
しかしルードは普通に聞いている。
「さすがに晶貨を使うわけには。神殿に何と言われることか」
『そうなのか?』
それはおかしい気がする。
晶貨は使えばいいし、使ってエネルギーを失ったら大神殿で再度充電して晶貨に戻してもらえるのだから。
もしかして知らない?
むしろ神殿は使えって言ってたと思うよ?
『晶貨から魔力を取り出すことは可能だし、逆に充電することも可能だぞ?』
「そうなのですか?」
『だから神殿が黒貨を集めているだろう?』
エルメリアは仕組みを理解していないのだろうか?
「神殿で充電できるのですか?」
『神殿では無理だな。充電は大神殿だ』
「?」
「全く知りませんでした。家様は博識ですね」
星の加護を持つものじゃないとだめだから普通の神殿だと無理なところが多い。
その加護、私が持ってるけどもな。
「大神殿じゃなくても充電できるのではないでしょうか?というか家、あなたは充電できるのでは?」
なんでこの商人が知ってるんだ。
やっぱり怪しいやつだな。
『できるけども』
「!?!?」
使った晶貨を私が充電すると言ったら逡巡しながらも了承するエルメリアとローレンス。
「ワシは晶貨も魔道具みたいだなと思っていたからあまり驚きはないですじゃ。むしろミカエル様に溜まった魔力を晶貨で吸収できないかと考えたことがありましたが」
『それは無理だ。ただ魔力があっても晶貨は吸収しない。星の加護持ちが吸収を介助する魔法を使ってはじめて晶貨に魔力を流し込めるんだ』
「そうだったのですか。ひとつ勉強になりました。ありがとうございますですじゃ」
ルードは素直でよろしい。
この年でこんなに素直なのは珍しいのではないだろうか。
ましてや貴族なのに。
こういったところはフィンに受け継がれているように思う。
今は状況もあって考えすぎなところが邪魔をしているときがあるが。
「神殿に怒られたりはしないという事であれば、ぜひお願いしたいです」
エルメリアが気にしているのは政治的なものかな。
大丈夫だ。
晶貨はいろんな色があるけど、色は入っている魔力量によるんだ。
一番魔力が多いのが虹貨で、最も少ないのが灰貨だ。
魔力がなくなると黒貨になる。
今回は1回だけ起動できればいいのでMP1,000を取り出そうと思えば青貨を入れておけばいい。
交換できるようにするのがいいな。
「晶貨を組み込むというのはどうすればいいでしょうか?」
『そこは私がやろう』
それだけは経験がある。
他は経験もないのに何を手伝うつもりだったんだとか言うなよ?
必要になったらなった時考える。
そして私は商人から青貨を巻き上げ、魔道具に組み込む。
ちゃんと交換可能だ。
起動実験も勝手にやって、商人からもう1枚青貨をせしめた。
しめしめ。
「家よ」
ぞわり……。
こいつやっぱりおかしい。
私が気圧される威圧とか人間じゃないぞ?
しかも誰も気づいていない。
こわい……。
いずれにせよ、魔道具は完成した。
その魔道具をエルメリアに渡す。
ミカエルの調子が良い日に面会して使う予定とのことだ。
すぐにでも行けばいい気がするが、相手は第1王子だから例え元婚約者だと言っても手続きは必要らしい。
上手くいくことを祈る。
△△△△家のつぶやき△△△△
ここまでお読みいただきありがとう!
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