第15話 <フィン> 落とし穴
僕たちは今、リシャルデから少し離れた場所に陣を構えている。
これは明日の襲撃のためだ。
今日一日移動してきて、ここで休止したのだ。
ようやく到着した。
先ほど強襲に向けた最後の軍議を行った。
進軍は無事完了し、2,500人の魔導騎士団は特に離脱者もなく予定通り計画を進められている。
「それではブレイディ団長、ご武運を」
「ありがとうございます、閣下」
僕はブレイディ団長と短い挨拶を終える。
それを見る魔導騎士団の表情は明るい。
ついに来た戦闘を前に興奮を抱えているようだ。
出発前には僕に対する悪印象は確かにあったが、少しは軽減したのかもしれない。
ブレイディ団長が言うように、何とかついてこれたからかな。
それなら頑張った甲斐がある。
魔導騎士団はこのあと仮眠をとってから3つに分かれて移動する。
3部隊それぞれ約800人は3方向から敵に魔法攻撃を浴びせた後、騎馬で接近して敵を強襲する流れだ。
魔導騎士団自慢の攻撃魔法の嵐が戦場に吹き荒れるはずだ。
敵軍は5,000。
こちらの倍だが、魔導騎士団の接近を知って、リシャルデから少し離れた平野部で布陣しているとの報告があった。
僕らがリシャルデに入る前に叩きたいのかと思っていたが、そうではない?
不安がよぎる。
しかし魔導騎士団の魔法は強力だ。
加えて騎馬の機動力を生かせれば死傷者が増えることはないだろう。
魔導騎士団は騎馬で動きながら魔法が撃てる。
こんな部隊は他国には存在しない。
僕は魔導騎士団とは別れてリシャルデに入る予定だ。
入って準備を行う。
どうか無駄足にしてほしい。
翌早朝、まだ日が明ける前に魔導騎士団は行動を開始する。
消音の魔法の効果で音もなく移動する騎士団。
迫力ある進軍にもかかわらず全く音がしない状況に、もし見たものがいれば自分の感覚がおかしくなったのかと錯覚してしまうだろう。
予定された地点にひっそりと展開した魔導騎士団は合図を待つ。
合図となる魔法を撃ち込むのはブレイディ団長だ。
彼の強力な火魔法を全員が待つ。
そして……。
「いくぞ、憎きラザクリフ。我が炎を受けよ。フレア!」
放たれたのは火の大魔法・フレアだ。
その簡素な名前に反して強力な火炎を放つ魔法で、火魔法Lv5以上の熟練者にしか打てない魔法だ。
その威容は魔導騎士団長の放つ魔法に相応しいものだった。
まだ暗い夜空を照らしながら火炎が敵陣に撃ち込まれる。
その合図をきっかけに無数の火魔法が放たれる。
攻撃は東と中央から始まった。西側は少し遅れた。
本来同時攻撃のはずが、明け方の太陽の光とブレイディ団長の火魔法の明るさが重なり、少し判断が遅れた。
それでも猛威と呼べる攻撃だった。
火魔法が使えないものは支援のために風魔法や光魔法を放つ。
荘厳な景色だった。
そこに秘められた力による猛威は敵を一網打尽に食らいつくすかのように思えた。
さらに魔法攻撃に続くように騎士団が突撃していく。
中央と東はほぼ同時。西は魔法を放つのが遅れたことから少し遅いがそれでも進む。
しかし、魔法が止まる……。
「なんだと……」
放たれた魔法が敵陣に着弾するかに見えたその時、青白い光が敵陣を覆う。
「フハハハハ!やってきたなクロードの羽虫団目。貴様らの攻撃など魔導障壁の前では何の役にも立たぬわ!」
敵陣の中で大声で嘲笑し、指揮を執る大男。
消えていく魔法攻撃を尻目に部隊に向けて命令を放つ。
「全軍盾を構えよ。防ぎきるのだ。どうせ魔法という羽をもがれた蝶だ。せいぜい躍らせろ」
大盾を構えるラザクリフ軍。
そこに魔法が消されるとは夢にも思わなかった魔導騎士団の中央と東の2つの部隊が、止まることはできずに接敵する。
が、魔法攻撃を受けて慌てているところに斬りかかるはずが、完全防御を整えた重装歩兵の盾の上からの攻撃では効果的なダメージを与えられない。
受け止められる剣や槍。
さらには状況を改善するために追加の魔法を唱えるが発動しない。
魔法は完全に無力化されていた。
それを見て西側の部隊は停止を試みる。
少し遅れたことが功を奏した。
慌てているのは魔導騎士団の本陣も同じだった。
魔法攻撃に続く3部隊の攻撃で敵の混乱を拡大し、あわよくば本体で敵の本陣中央部まで切り込んで敵の総大将を倒してしまうことまで想定していた。
にもかかわらず現実は魔法は消され、2部隊の攻撃は受け止められている。
止められているどころか、逆に盾の間から槍の攻撃を受けて次々と落馬している。
魔法が使えない魔導騎士団は普通の騎士団と変わらない。
そこに防御を固めた大盾部隊が当てられ、攻撃を完全に無力化されている。
完全にしてやられていた。
「くそ、応援に行くぞ」
「お待ちください団長。今行っても状況はかわりません」
「少しでも友軍が脱出する隙を作るのだ。ガウェル、本陣の指揮は任せる。貴様の部隊は西側と合流してリシャルデに入れ!」
そう言うとブレイディ団長は飛び出していく。
ガウェルは魔導騎士団の中隊長だ。
彼は悔しさを抱えて西側に向かう。
明らかに負け戦だった。
それでもブレイディ団長たちは果敢に戦う。
前面から攻撃を防ぐ敵の大盾部隊に対して機動力を生かして横から攻撃する。
武器を大剣やこん棒に持ち替えて突撃した団長の部隊は大盾の部隊を崩していく。
その混乱に乗じて敵中で身動きを取れなくなっていた一部の騎士が離脱する。
どうやら回復魔法は作動するらしく、攻撃を受けたものの自力で回復できるものはまだ動けていた。
しかし元より多勢に無勢な上、序盤で大きく削られてしまった魔導騎士団は1人また1人と倒れていく。
ここまでかと悟ったブレイディ団長の前に、現れたのは……。
「魔導騎士団長のブレイディだな?」
「貴様は?」
「我はバッシュ•ロドフェルド。誇り高きラザクリフの将である」
ラザクリフの将軍ロドフェルドだった。
「はっ。国王動けぬ今、コソコソと攻め入った腰抜けのどこが誇り高いのだ?」
悠然と歩み寄るロドフェルド将軍をブレイディ団長は挑発する。
ここで将軍を倒せば形勢は一転する。
「貴様……」
「ぐぅ」
挑発に見事に乗ったロドフェルド将軍は大剣を手にブレイディ団長を斬りつける。
それを自らも大剣によって防ぐブレイディ団長。
力での押し合いは互角のようだった。
「魔法を封じられてなおその強さか……やるではないか。しかしここは投降すべきだ。周りが見えているのならな」
「くっ」
ブレイディ団長が辺りを見渡すと多くの団員が地に倒れ、または剣を突きつけられて動きを止めていた。
ブレイディ団長は一瞬の逡巡のあと、剣をおろした。
「状況判断はできるようだな。それでは従ってもらおう」
「団員の回復が条件だ。それを断るなら命ある限り戦う」
「む。わかった。そうさせよう」
ブレイディの威圧を受け流しつつロドフェルド将軍が約束したことで捕虜となる魔導騎士団員たち。
彼らの胸は悔しさと情けなさで溢れる。
そして今後やってくる王国軍本隊への申し訳無さを抱え、ラザクリフ軍に連行されていった。
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