第5話 <家> 日常

「おはよ~」


 とても明るい雰囲気でやってきたな。

 何かいいことでもあったんだろうか?

 とりあえずお茶を出してやりつつ、私は話しかけた。

 

『どうした?国王にでもなったのか?』

「どどど、どうしてそれを……」


 ん?なんか変なこと言ったか?


『どうしてって?』

「いや、僕は、その。名乗ってないし、家さんも『貴族か?』って言ってたと思うんだけども」

『あぁ……』


 やってしまった。

 息をするかのように自然に鑑定をしてしまったのだ……。


『すまん、覗き見てしまった』

「えぇ?」


 悪気はなかったんだ。


「そ、そ、そ、その、どこを?」

『なかなかひ弱なあれ……じゃなかった、その……すまん』

「ガ―――ン」

『すまん』

「ひ弱……」

 

 なんかめっちゃ落ち込んでる。

 王子だとばれたのがそんなにショックなんだろうか。

 それともステータスの低さがバレたのが嫌なのか?


『私はその、なんだ。まぁいろいろと万能だからな。主となるもののステータスくらい見ておくかと思って……というか自然な流れで見ていてな』

「ん?ステータス?」

『あぁ、何の悪気もなかったのだ』

「見たって、僕のステータスを?」

『あぁ、すまん』

「そんなことなら別に構わないよ。焦った~」

 コロっと表情が変わった。

 なにを見たと思ったんだろう。

 "ひ弱"で落ち込むとしたら……。


『フィンよ。私は遠見は使えんぞ?』

「ぶはっ」

 こいつ、お茶を吐きやがった。

 なに勝手に勘違いして慌ててるんだよ。


『フィン……』

「ごめんよ。家さんいろいろできるから、もしかして王城での僕を覗き込んだのかと」

『なるほど。どうせメイドでも連れ込んでXXXしてたから、それを見られたと思って焦ったわけか』

「違うから!」

『違うのか?じゃあ、なんだ?』

「あの……その……(恥)」

『聞こえんぞ?なんだ?』

「もう!遊んでるでしょ!」


 バレたか。

 なかなか楽しいやつだな。

 そしてこいつ何やら誤解しているな。

 

『私は主人の私生活を覗き見たりはせんぞ?』

「やっぱり、そう作られてる?」

『いや、知らん』

「えぇえええ」


 知らんもんは知らん。

 私は決してこのような形で作られたわけではないし、製作者に会ったこともないのだから当然知らん。


「商人さんからその昔たくさん作られた家型の魔道具だって聞いたんだけども」

『私は違うぞ?私をコピーした魔道具が作られていたのは知っているし、私は擬態してよくその中に混じっていたがな』

「えぇ!?」

『私は本当は魔道具ではないから製作者なんか知らない。召喚されてきたんだ。確かレファリアという国だったと思うが、もう今はないんじゃないか?』


 私がこの世界に召喚されて最初に降り立ったのがレファリア王国だ。

 なぜ王都ではなく地方都市だったのかはわからないが、そこで出会った魔道具職人に調べらさせてやったら私に似せた魔道具の家を作り始めた。

 自力での移動や戦闘が可能な家として王族の目に止まり、結構な数が作られたはずだ。

 ただ、隣国との戦争の中で敗戦濃厚となったレファリアが家型魔道具に爆弾を積んで行ってこいという作戦を使ったから、私は離脱した。

 魔道具職人は謝っていたが、彼には悪いが戦後、設計図は燃やした。

 

 そんな昔話をしてやると、フィンは興味深そうに聞いていた。


「家さんも苦労したんだね(涙)」

『いや、特に?』

「えぇえええ」

『私はただそこにあっただけだし、特攻は拒否って逃亡して、戦後に設計図を燃やしただけだ。そして移住した』

「レファリアは魔道具を生み出した国だよね。歴史で習ったよ」

『そうだったのか。獣人が多くて魔法力が弱く、戦争では奇襲以外でなかなか勝てない国だったから仕方なかろう』


 今は減ったが昔は戦争もあった。

 獣人の大陸に魔族や人が渡ってきたのだから、縄張り争いだな。

 そんな中で略奪され続ける状況を嫌って他種族の魔法を研究し、獣人でも使えるように生み出されたのが魔道具だ。

 おそらく妖精族も協力していたはずだ。


「魔道具って便利だよね」

『この国でも魔道具研究は盛んなのか?』

「いや、全くだね」

『は?』

 どういうことだ?


「この国ではね。やっぱり人の国だからだと思うんだけど、魔法使いというか、魔導騎士団が強いんだ。特に団長のハゲ……じゃなかった、ブレイディ伯爵が。彼が魔道具は邪道と言っていて、魔道具を研究したり販売したりする人のことを良く思ってないんだ。だから、この国では魔道具はさっぱりだね」

『そうだったのか。そんな中で私に住むフィン……。魔導騎士団に喧嘩を売ってる風にとらえられないだろうか?』

「それはそうかも。僕のお祖父さまはこの国では珍しい魔道具職人だしね」

『よくそれでお前が生まれたな』

「魔道具が嫌われていると言っても、収納袋みたいに超便利なものか、魔導士が嫌がってやらない送風とかは魔道具に任せるからね」

『なるほど』


 人は相変わらず自分勝手だ。

 収納袋が便利なのは認めるが。

 あれは設定された量なら明らかに袋より大きいものも持ち運べる便利な魔道具だ。

 あれがあって嫌だったというのは運び屋くらいで、他の職種はみんな便利になるだろう。

 

『お前は魔道具が嫌いか?』

 もしそうだったらどうしよう。

 私は一応魔道具ではないが……。

 

「僕は使うべきだと思ってる。少なくとも研究はすべきだと。そうしないと、たとえ今は平和でもいつ戦争とかが起きるかわからないんだから」

 なるほど。

 

「父上は実は魔道具を研究したいというのは聞いてるんだけどね」

『国王が?』

「うん。兄上を治療する方法を探したいんだと思うよ」

『病気のお兄様か。治れば国王継承問題は落ち着くというわけだな?』

「そうだね。でも、そもそもお父様はお兄様が好きだから」

 優しい国王なのだろうな。

 もしそうなら大変だ。国王というのは清濁あわせ飲むようなことが多い。


『お前は治したいのか?』

「もちろん、治したい。前にも言った通り、僕は国王にはなりたくない。継承権を返上したいくらいだよ」

『言っていたな。でも母や周囲の人のために返上はできないと』

「うん……」

 こいつも優しそうだもんな。

 もし国王になったらすぐに胃に穴が開きそうだ。


『それなら兄を治せばいいのではないか?』

「それはそうだけど……」

『知力は高めだったと思うが?』

「僕には難しいよ」

『諦めてるのか?』

 無言になった。

 まだ会って間もないのに攻めすぎたか。


 人との接触はあまり得意ではない。

 長く生きてきたが相互理解を進めるような経験は少ない。

 家だから当然だか。


「諦めてるというか……なかなか難しいんだよ」

『なぜだ?』

「……」

 もし病気を教えてもらえれば披露できる知識もあるかもしれないが、もう少し親しくなってからでいいか。


『わかった。ただ、困るようなら、悩みがあるなら聴くぞ?』

「ありがとう、家さん」

 よかった、嫌われてはいないな。

 こんな家に住めるかって言われたらどうしようかと今さらながらに思い始めた。


 フィンは今日は泊っていくようだから、食事の支度をして食べさせて、風呂を沸かして入らせて、寝室に案内してやった。

 寝室で何をするかわからんからそこは覗かないのがマナーだ。

 なんてできる家なんだ私は……。


△△△△家のつぶやき△△△△

ここまでお読みいただきありがとう!

素晴らしい私に住んでみたくなったそこのキミ!

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頼んだぞ!!!

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