第2話 <家> 召喚(ダイジェスト版)

 はじめまして。

 私は家だ。


 待って!意味分からんとか言わないで!


 いや、私にもよくわからない。

 どうしてこんな場所にいるのだろうか。

 

 さっきまでは穏やかな湖畔のふちで別荘生活を満喫していたのに……。

 美しい景色の中、洗練されたフォルムを持つ私……。

 控えめに言って最高だった。


 なのに突然不気味な雲が現れたかと思うと大きな衝撃が沸き起こり……あれは地震だったのだろうか?

 ふと気付けばここにいたんだ。

 

 なぜ私は……?

 

 家ってこんな風に考えるものだったか?

 

 

『混乱しているようだね……』


 誰だ?


『はじめまして、私は神だ』


 紙?弱そうだな。


『君はラーハーグ様によって、この世界に召喚された』


 ラーハーグ様というのは?


『ラーハーグ様は古代神の1人だね。この世界に8人いた古代神の1人で世界の安定化のために異世界からの召喚を行うときがある』


 だいぶ曖昧だな。


『実際そうなのだ。今はお隠れになっているが、これまでの召喚は人、武器、お菓子、楽器、下着、本……そして家だ』


 どうしたらそうなるのだろうか?

 家は私だとして、まぁ武器や楽器やぎりぎりで本もわかるとして、お菓子と下着?

 なにを召喚しているのだ。


『ラーハーグ様にはあまり明確な意識はないんだ。ただ、世界の状況を鑑みてその時やそれ以降の世界で必要なものを召喚していると言われている。そして……』


 長い説明を要約すると、こうだ。

 この世界には神が存在する。

 ……。

 それだけかよとか言わないで。現代神は1~4級神がいるとか、古代神や魔神がいるとかって言われたけどよくわかんないんだから。

 

『そんな現代神であり2級神である僕が君を迎えてあげた、というのが今までのところだね』


 ここでは省略しているが結構な時間を使ってまだ迎えただけなのが笑える。あっはっはっはっは。


『笑うなよ!』


 すまんすまん。

 それで?


『偉そうだね、キミ。まぁいいや。君について今調べさせたんだけども、わかったことは、君は生物扱いされていることと、生物なので加護が授けられているというだね』


 加護とはなんだ?


『加護というのは』


 祝福だ!とかで済ますなよ?


『なに先読みしてんだよ!』


 で?


『あっ、はい。えーと加護というのはね、誰かが誰かに与えるもので、与えられた側には加護に見合ったスキルや能力が付与されたり、もともと持ってたスキルの効果が高まったりするんだ。キミの場合は……はぁ??』


 なんだ?何か凄い効果でもあったのか?

 格闘技のスキルとかついてても意味ないぞ?家なんだから。


『そりゃそうなんだけども……』


 まぁとりあえず教えてくれ。


『わかった。ステータスを開くから確認してくれ』


 <家のステータス>

 名前:ハーシル湖畔の別荘 [改名可能]

   HP: 10,031,200

   MP: 6,784,000

   物理攻撃力: 743,500

   魔法攻撃力: 500,250

   物理防御力: 1,034,400

   魔法防御力: 774,720

   速度: 5,000

   知性: 8,740

   魅力: 800

   運勢: 500

   加護 星の加護

   スキル

     格闘技Lv4、火魔法Lv4、水魔法Lv4、風魔法Lv4、

     地魔法Lv4、雷魔法Lv4、木魔法Lv4、光魔法Lv4、

     闇魔法Lv4、空間魔法Lv4、星魔法Lv6(加護の効果)、

     支援魔法Lv4、回復魔法Lv4、計算Lv7、思考速度upLv4、

     念話Lv4、鑑定Lv4、分割Lv4


 格闘技……、冗談だったのに……。


 で?ステータスの説明はしてくれるんだろう?


『はい、します……』


 神様の説明によると……。

 私のステータスは人類の最大値に近いようだ。


 あと聞いたのは、スキルLvも、魔法の多さもおかしいらしい。

 冗談だったはずの格闘技だっておかしい。

 スキルレベル4というのは人間でいうベテランレベルだという。

 ベテランクラスの格闘技を披露する家……どうやって?

 

 さらに、エアコンも水道もお風呂も照明も全部自分で再現できそうだな……。

 なんなら新しい部屋も作れそうだ。

 そのためにこういう設定になったのだろうか?


 最後に、こうやって目の前の神様と喋れるのは念話というスキルのおかげ。


『いったいラーハーグ様はこの家に何をさせたくてこんなステータスにしたのか……』


 あれかな?

 魔王とかが住むのかな?


『魔王は自分の城に住んでる』


 そりゃそうだ。

 というか魔王がいるのか。

 それなら勇者とかは……、ここまでの流れだとまさか私か。


『ないから。家が勇者とかないから』


 わからんだろう。

 そんなもの設定次第……。


『ないから。そもそもこの世界の魔王は魔族の王というだけであって、討伐の対象とかじゃないから』


 なんだつまらない。


『つまらないとか言うな!』


 せっかく可愛い魔王をいじめ倒して××しようかと……。


『家が何するっていうんだよ。あぁん?』


 ……拘束とか……。


『謝れ!読者様に謝れ!』


 こんな主人公でごめんなさい。

 どう考えても大人な展開はありえないのでごめんなさい。


 これでいいのか?


『なんでそういうところだけ真面目……』


 お前が謝れって言ったんだろうが!


『しゅん……』


 で?この世界で私は何をすればいいんだ?


『その力を持って、この世界で生きるがいい』


 はい。


『この世界は剣と魔法の世界だ。その世界で力ある君はきっと楽しい人生を歩むことができるだろう』


 ほう。


『もちろんそれはキミ次第だ。この世界を生き、様々な出会いをし、経験をし、選択をしてほしい』


 なるほど。


『そして君が思うままに、考えるままに力を振るい、楽しく過ごしてくれ』


 そんなのでいいのか?


『この世界に召喚されたというのはそういうことだ。よい影響を与えてくれるものをラーハーグ様は呼んでいるのだから』


 そのラーハーグ様とは会話できないのか?


『それはできない。ラーハーグ様に明確な意識はないんだから。ただ、そういうことになっている』


 そういう神様という事か。


『そうだ……。キミ、なんか来た時より賢くなったというか、なんか知識が増えていないか?』


 それはそう思う。

 神のことすらよくわからなかったと思うのだが、今ではわかるぞ。


『まぁいい。理由はわからなくても今は結果としてキミがここに召喚されて存在していることは変わらない。移動もできるのであれば、このまま送り出す予定の場所に送り出そう。そこからどう過ごすかはキミ次第だ』


 ひどい。

 私を放り出すのね!?


『誰だよ!キミは私の女なのか?』


 ちょっと言ってみたくなってしまって。


『キミには念話があるから現地の生物たちとも喋れるだろうし、そう考えればキミが家だろうが生物だろうが関係なかったね。いわゆる大型の魔道具だと思えば何の問題もない』


 どうでもよくなってないか?

 しかも魔道具ってなんだよ。


『魔道具は魔道具さ。魔法の力を使える道具で……』


 わかったわかった。

 また長くなるから次の機会にしてもらって。


『……ということで私の最後の役割だ。キミをこの世界に送り込むよ』


 スルーすんな。


『では、陳腐なセリフになってしまうが、よい人生……じゃないな、よい時間を過ごしてくれ』


 目の前の神様がそう言うと、あたりが光リ輝いた。


 全くもって何もかもが理解不能だが、私はこの世界とやらに放り込まれるらしい。

 いきなり空中とかに出されて墜落して壊滅とかやめてほしい。

 それだけはお願いしたい。


『……もちろんだよ……』


 なら問題ない。


 別世界とやらを覗いてやろう。

 ……景色の良い場所にっていうリクエストを忘れてたことを後悔……いや、気に入らなかったら自分で移動すればいいのか。

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