第11話 <フィン> 兄への見舞い
僕は兄上のところを訪れる。本当に心臓病なのかの確認と、会話可能なら兄上と選定会議のことで話したい。できれば魔導具のことも。
兄上はずっと病床に伏せっている。
来るのは久しぶりだ。
訪問を断られたらまずいので使いを出した後、図書室を出てすぐに使いを出し、食事をして風呂に入って身だしなみを整える。
そうしているうちに使いが戻り、訪問の許可を貰えた。
「兄上、失礼します」
「……」
兄上は無言で横になっている。
弱弱しい。こんなにも細ってしまって。
「フィン……殿とお呼びしますわね。ミカエルの見舞いに来てくださってありがとうございます」
「レオノーラ様。突然の訪問、お許しください」
「もちろんです。このような時期だからこそ、思い出してくださって嬉しいわ」
レオノーラ様もご一緒だった。
彼女は正妃、つまりミカエル様の母上だ。
嬉しいと言いつつ、その表情は決して明るいものじゃない。
「少しお伺いしたいことがあって参りました。兄上のことで、聞いていただきたいことがあります」
兄上は話をできる状態ではなさそうだ。なら、レオノーラ様に伺うしかない。しかも彼女が味方になってくれたら……。
「わかりました」
聞いてくれるようだ。
「兄上が倒れられたとき、胸を押さえていたと伺いました。また、その前から体力が低下していたと」
「どうしたのですか?何かを探っていらっしゃるのですか?」
「はい」
「魔力病は何かの呪いなどで起こるものではないと聞いておりますが……?」
いけない。誤解されてる。怪訝な表情をされている。
「いえ、そういうことではないのです。実は魔力病を治す術を探っておりまして」
「治す?あなたはミカエルを治すために活動しているの?」
「はい」
「それはいけません」
「えっ?」
どういうことだ?治したらいけない?
「てっきり、仲の良かったミカエルに王位継承への決意を聞いてほしいのかと思いました。いえ、そうあるべきです」
「レオノーラ様、私は……」
「その考えは危険です。なぜ今なのですか?」
「……それは」
「今はご自分のことを考えなさい。ミカエルを道具にしないで」
「レオノーラ様、違います」
「何が違うというの?魔力病は治りません。そしてもしミカエルを治しても、ここまで弱ってしまっては元には戻りません。それでも慈悲深きものとして王位継承に役立てようと、そうお考えなのではありませんか?」
「違います、レオノーラ様……」
「あなたがそんな子だとは思いませんでした。どうか出て行ってください」
違うんです、レオノーラ様。どう言えばいい?どう言えば伝わる?
「……ふぃん、か……」
「!?」
兄上?
「ダメです、ミカエル。あなたは喋れるような状態では……」
「ははうえ……。ふぃんはちがう……。きいて……くれ」
「ミカエル……」
レオノーラ様は泣いていた。
ミカエル様を心配して取り乱して。
「申し訳ございません、レオノーラ様」
「いえ、ごめんなさい、フィン。ミカエル。取り乱しました」
落ち着いてくれてよかった。
兄上、申し訳ない。苦しいだろうに。
「ミカエル、わかりました。フィンの話を聞きます。だからあなたは休んで」
それを聞くと兄上は目を閉じる。
ありがとう、兄上。
そうして僕はレオノーラ様に兄上のことを聞く。
やはりエルメリアさんの言う通り、初期症状はあったようだ。
レオノーラ様はそれも治療術師や神官、魔導士に離したそうだが、魔力病と診断されて捨て置かれたようだ。
僕は自分の想いもレオノーラ様に説明する。
僕は王位を望んでいないこと、兄上に王になってほしいこと、そのためには魔道具を認めさせる必要があること、そもそも魔道具を作らないといけないことだ。
レオノーラ様も落ち着いて聞いてくれて、理解してくれたと思う。
エルメリアさんが協力してくれていることを伝えたら、また泣いていた。
やはりエルメリアさんは兄上の婚約者だったようだ。
正式に発表する前に兄上が病に倒れてしまったのに、エルメリアさんは未婚のままだ。
そうして話し終えたあと、レオノーラ様は僕に助言をくれた。
「あなたは前を向いて行きなさい。今は王位継承権を手放すのではなく、思い切り前を向いてね。表立っては応援できないのが申し訳ないけれど、あなたの無事を祈るわ」
「ありがとうございます。レオノーラ様」
受け入れてくれたことに感謝の念でいっぱいだ。
「もし本当に魔導具ができたら教えてちょうだいね。全てを捨ててでも使わせていただくわ」
「はい、もちろんです」
そうしてくれたら本望だ。
魔導騎士団長なんて気にする必要はないことになる。
やっと視界が開けた。
家さんの言った通り進めてよかった。
僕は兄上の魔力病の原因が心臓病であることを確信し、エルメリアさんに使いを送る。
そして仮眠を取り、夕方に向かったのは母さんのもとだ。
僕の決意を話さないといけない。
「母さん、今いいかな?」
襟を正して母上と呼ぶべきかもしれないが、ちゃんと心の中を話すために、あえて普段通り呼ぶ。
「フィン。どうしたの?入って」
母さんは優しく招き入れてくれた。
本音を話したらがっかりさせないだろうか。
それだけが心配だ。
でも、もう動き始めたんだ。
「選定会議のことで話がしたくて」
「フィン。危ないことはダメよ。王になる必要なんてないのだから……」
母さんは相変わらず優しい。
「王位が自分に向いてないのはよく理解してるよ。だから、僕は兄上を治したい」
「ミカエル様を?」
母さんが驚いているのがわかる。
それはそうだろう。
僕と兄上にそんなに接点はなかった。
「前にも行ったとおり、あなたが思うようにやればいいわ」
「ありがとう、母さん。でも、もし……」
「何かあったらあなたと一緒に行くわ。王城に未練があるわけではないのよ。特にそんな状況になる王城にね」
母さんは母さんで考えてくれていた。
そして応援してくれる。
そこで僕は1つ頼みごとをする。
「お願いがあるんだ、母さん」
「何かしら?」
「今魔道具の設計をしてくれている。協力してくれる人がいればその人が、ダメなら自分で書く。それができあがったら、お祖父さまに意見を聞いてほしい。手紙は書くから一緒に送ってくれないか?」
「わかったわ」
「ありがとう。できれば来てもらえると嬉しいけども……」
「伝えておくわ。あなたからのお願いなんて今までなかったから喜んでやってきそうね」
僕は改めて慎重に動くことを伝えてお守りを貰って自室に帰った。
自室にはエルメリアさんから返事が届いていた。
内容は労をねぎらってくてるものでとても暖かかった。
そして友人の研究者が図面の案を書いてくれるらしい。
来週それを見て、次はお祖父さまに相談だ。
ここまで来たよ。
あと一息だ。
そう思ったのはつかの間だった……。
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