第12話 <フィン> 宣戦布告
「戦だ!」
とつぜん集められた僕らの前で父上が宣言する。
突然のことに皆大混乱だ。
僕も……眩暈がしそうだ。
「歴史と掟に従い、将軍を任命する」
ようやく見えた光明。
それがすべて消えていった。
「フィン、頼むぞ!」
「はい、陛下。謹んで拝命いたします」
僕は将軍となった。
この国の掟では、侵略戦争を受けた場合、その旗頭である将軍には国王かその長子が就任することになっている。
さらに、その両名ともが参戦できない場合には年齢順で参戦可能な王子が将軍となる。
今現在国王は選定会議の真っただ中。
これは将軍就任を妨げる理由となる。
さらに兄上は魔力病で病床に臥せっている。
当然、将軍にはならない。
この事態は当然考えられることだが、平和に目が眩んだ外務部の仕事は不十分だったのだろう。
交渉等も特になく宣戦布告を受けたらしい。
外務部トップだった伯爵ラザフェルド卿は解任された。
痛いのは彼は中立派だったことだ。
次の外務卿はべオルバッハ卿……。
第2妃イザベラの兄だ。
「べオルバッハ外務卿は周辺国との交渉を急げ。決して他国に介入させるな」
「陛下。この状況ではウディメルトへの援護要請は必要かと」
ウディメルト公国はクロード王国の同盟国で、今回攻めてきたラザクリフ王国を挟んで反対側にある国だ。
「任せる」
「はっ。まずはこの時期を狙ったラザクリフへの非難声明を出します。加えて交渉を行いますが、あまり弱みを見せると厳しい。フィン王子にはぜひとも初戦勝利をお願いしたい」
「はい」
負ければ僕が外交の失敗を被ることになる。
負けられなくなった。
「ラザクリフは既に国境を越え、リシャルデに迫っておる。魔導騎士団には準備を始めさせておるゆえ、フィンは彼らを率いて出陣せよ。王国軍は現在編成中で完了次第応援に向かう。騎馬を先行させ、物資と共に本隊が向かう。総勢2万だ。リシャルデには防御を整えさせておるが、総員急げ。なんとしても抑えよ」
「はっ!」
やるしかない。
魔導騎士団が言うことを聞かない気しかしないのが憂鬱だが……。
まずは準備だ。
そして、この場は解散となる。
僕はそのまま魔導騎士団長のもとへ向かう。
今回の戦争の将軍は僕だが、これはお飾りだ。
実質の指揮を執るのは軍のナンバー2であるアストガ侯爵。
軍が合流するまでの間は魔導騎士団長のハゲ……じゃなかった、ブレイディ伯爵だ。
アストガ侯爵は母の縁戚に当たる方で信頼できる。
でも、ハゲは中立派ではあるが魔道具のことで良い関係ではない。
前途多難だ。
それでも出陣に際して、敵国の侵略に関してまで足を引っ張るとは思っていない。
失敗すればともに責任を負うのだから。
魔導騎士副団長の姉がベオルバッハ卿の妻だから、てっきりその関係で送り込んでくるかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「失礼します。フィン・クロードです」
「よく来られた」
ブレイディ卿は僕を一応迎え入れてくれた。
以前思いっきり口論したのでちょっと緊張していたのだが。
「早速ですがフィン王子。この度の計画は全てお任せいただきたい」
「それは僕に傀儡になれということでしょうか?」
言い返した僕に胡乱な視線を向けるハゲ……。
もう言い直さなくてもいいよね?
「単刀直入に言ってそうです。王子には戦闘の経験は、失礼ながらなかったかと」
「僕は戦略も戦術も学んでいる!」
「あくまでも机上の理論ですな。実際とは異なります」
「くっ」
このハゲめ。
「ご心配なさらぬよう。座して待っていただければ勝利を届けましょう」
悔しいがここで主張しても無駄だろう。
いきなりのこの台詞だ。
「まずは先遣隊として赴き、リシャルデの兵と合流して街に籠城し、本隊を待つべきです」
リシャルデは城塞都市だ。
今はほとんど使われなくなったがかつては防衛拠点として活用されていた。
当時の外壁が残っているし、備え付けの大砲などもあると聞いている。
「王子。教科書的ではありますが、その策は読まれているでしょう。まずは魔導騎士団にて布陣している敵を強襲します。そのときの敵の損害に応じて次の作戦を決めます」
「しかし!」
「……」
睨みつけてくるハゲ。
「魔導騎士団は私の部隊です。どうか無闇な行動を取られませぬように」
「くっ」
その強襲でこちらの損害の方が大きかったらどうすると問い詰めたかった。
しかしできなかった。
長年部隊を率いてきたハゲの威圧に僕は引き下がってしまった。
「それでは予定通り明後日の朝出発します」
「……わかりました」
僕はそう言うしかなかった。
続くイベントは……なんでこのタイミングなんだよ父上。
まさかの王城食事会……。
「母上。先ほど将軍に任命されました。私は任を果たしてまいります」
「フィン……」
母さんは僕の手を握ってくれる。
暖かい。
それに比べて周りの静けさ。
重苦しい雰囲気。
なんだよ。
もっとこう応援してくれてもいいじゃないか。
「兄上……」
よってきたのはよりにもよってダリアンだ。
僕をあざ笑いに来たのか?
まさかこんな場所、こんな状況であからさまなことを言うほど馬鹿じゃないとは思うが。
「ご武運を……」
「?」
それはなんだ。
嫌みか。
イザベラを睨むとあからさまに目を背けられた。
「フィン、ダリアン、座りなさい」
「はい」
「……はい」
父上に言われ、僕らは座る。
「皆揃ったな。それでは始めよう。今日はフィンの成功を祈る場とする」
「「はい」」
父上。
やっぱり味はしないよ。
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