第13話 <家> 自分のやれることをやる

 あの悪だくみはそういう事だったのか。

 あいつら……許すまじ。

 あの女が第2妃で、あの男はベオルバッハとやらだ。


『フィン、行くのか?』

「もちろん。王命だ」


 あきらかに憔悴したフィンを前になんて言葉をかければいいか……。


『魔道具は?』

「だいぶ進んでいたんだ。魔力病の原因が心臓病であることは間違いない。今は協力してくれる人に図面を書いてもらっていて、それができたらお祖父さまに相談する予定だった」

『そうか……』

 フィンは頑張ったようだ。

 協力者まで見つけてる。

 話を聞いたら兄貴にも会ってきたらしい。


 ん?


 これ……実はチャンスなんじゃないか?


『フィン。もし今回の戦争がうまくいったらチャンスなんじゃないか?」

「えっ?」

 フィンは気付いてない。


『だってさ。魔導騎士団と一緒に出陣するんだろ?しかもその団長と。勝ったら成果を分け合うわけだ。なら、軽いお願いくらい聞いてくれそうじゃないか?』

「それは……そうかも」

 うんうん。


『魔道具全部を認めろ、ではなくて兄貴を助けるのくらい認めろ、ならさ。一緒に戦ったやつの言うことだ。聞くだろう』

「今回全部指揮させろ、お前はお飾りだって言われたけども……」

 何たる言い草。二度と髪が生えない呪いをかけてやろう。


 ……いかんいかん。

 私が引きずられてどうする。

 どうもフィンには心情的に寄り添ってしまっていかんな。

 

『例えそうだとしても、それはフィンが何か命令してくることで自分の団の被害が増えることを嫌ってるとかだろう?軍人ならよくある話だ。そんなのはとりあえず無視して交換条件で魔道具を認めさせるくらいに活用したらいい』

「!?」

 全く思い当ってなかったらしい。

 頭はいいのに、少し視野が狭くなってるな。


『フィン。深呼吸だ。落ち着けと言ってもなかなか難しいだろうけど、なるようにしかならん』

「でも、兵たちの命が、国民の命がかかってる」

 それはわかるが。


『そんなものを今のお前が背負うのか?それはちょっと自意識過剰だ』

「なんだって!」

 まずいな。怒らせたかな。


「なんでそんなことを言うんだよ、家さん。僕は将軍になったんだ。僕が勝たないと」

『まぁ落ち着け』

「落ち着けるもんか!僕が……」

『カーム』

「家さん!」

 カームをレジストしたな。

 成長したなフィン……。


「どうかしたのですか?」

『!?』

「商人さん?」

 突然入ってきたのはあの商人だ。

 なんでだよ。


「フィン様、家の言う通り少し落ち着かれては?」

「はい」

 あれ?私は商人に念話を使っただろうか?


 まぁいいか。フィンも落ち着いたようだし。


『フィン、気負うなといっても難しいだろうけど気負うな。前にも言ったように考えても仕方ないことは今考えるな』

「でも……」

『とりあえず魔導騎士団を率いての初戦はそのハゲがとるのは決まりだ。お前がやることはその後、それ以降だ』

「うん……」

 よし、聞いてくれる気になったらしい。


『まだ成功するかどうかわからない。準備すべきは失敗した時だ』

「うん」

 

 私はフィンに説明する。

 失敗するということは、戦死者が多いか、負傷者が多いか、捕虜が多いか。それから、リシャルデの駐留兵と合流する国軍の士気低下だろうな。

 軍の士気はむしろ上がるかもしれないが。それは国軍を率いる者に任せよう。

 戦死者が多い場合も諦めるしかない。

 面倒なのは負傷者が多い場合と、捕虜が多い場合だ。

 

 捕虜に関しては盾にされるかもしれない。

 その場合の対応を決めておくべきだ。

 今魔導騎士団長とこの状況を想定した議論はできないからフィンが心に決めておけ。

 

 負傷者が多い場合は回復させる必要がある。

 可能なら神殿や治療院と話をつないでおけ。

 リシャルデの神殿と治療院に話を送っておくのと、周辺都市から応援に来てもらえ。


 そういったことを説明すると、フィンは理解してくれた。

 あとはフィンの中で対応を決めておくことだ。

 それしかできない。


 それから……。


「魔道具のことなんだけど」

『うむ』

「家さんに……その、手伝ってもらえないかと……」

『もちろんだ』

 なにを改まって言ってるんだろうか、こいつは。

 

「いいの?」

『当たり前じゃないか。誰が魔道具で治ることを教えたんだ?』

 そっか。

 人にものを頼むのが苦手なんだな。

 プライドではなく、経験の問題だ。あとは思考か。

 手に余ることばっかりだろうに。

 ここはひとつ私が片肌を脱いでやろう。


 ……どこら辺が片肌なんだとか言うなよ?


『魔道具の方は今どういう状況なんだ?』

「手伝ってもらってる友人から魔道具職人に依頼して設計をしてもらっている。それをお祖父さまに見てもらおうかと思ってる」

『なるほど』

 そっちはちゃんと手伝ってもらってるようで安心した。

 自分で設計するとか言い出したら困ってるところだった。


『その魔道具を作るときは私の部屋を提供しよう。かつて魔道具職人が使っていた設備を入れてある』

「ありがとう家さん!」

『なんなら作るのもやってやってもいいが、それはお祖父さまや魔道具職人と相談しよう』

 あまり手を出すのはよくないだろうしな……。


「お前は魔道具を作れるのか?」

 まだいたのか商人。

 気配を消すのはやめてくれないか?


『……黙秘する』

「ブフォっ!あれだけ喋っておいてか???」

 吹き出す商人。

 うるさいよ。


「なぜそんなに警戒しているのかわからんが、私が売った家なのだから悪いようにすることはないぞ?」

 いや、これっぽっちも全く信用できないが……。


『全くもって信用できないが、商売には誠実だと思うから、何かあったら聞くと良い』

 商人は無視して私はフィンに話しかける。


『フィンがいる間にこれ以上話を進めることはできないから、一旦魔道具の設計とフィンのお祖父様が到着するのを待つことにしよう』


 そう言って私は皆に食事を振る舞う。

 私が突然食事を出したことに驚く商人と、商人が普通に食事を食おうとしていることに驚く私……。

 仲良しか!


 食事を終えるとフィンは王城に戻るらしい。

 そりゃそうだ。

 明日は出陣だ。


 私はフィンに伝える。

『協力者にはここに来るように言えばいい。お祖父様にもな。歓迎しよう』

「よろしく頼むよ、家さん」

『うむ』


 フィンはだいぶ落ち着いたようだな。

 来た時とは表情が大違いだ。


『これを持っていけ』

「これは?石?」

『失礼な。私の外壁の欠片だ。お守りにと思ってな』

「あっ、ありがとう。肌身離さず持っておくよ」

 

 無事を祈る……だけじゃなく、手助けをする準備をしておこう。

 このお守りはその一環だ。

 無事帰ってきて、また軽いやり取りがしたいしな。

 

 あとは、なにをするにしても情報収集だな……。

 私は意識を王城に飛ばす。

 この前と同じ部屋はっと。


 あった。


「うまくいったな」

 あの怪しい男……こんなのが外務卿で大丈夫なのだろうか。


「もちろんですとも。あとの計画は?」


「戦争となればフィンを討つ機会は何度もある。魔導騎士団長を焚きつけておいたし、根も張った。ぬかりない」

 なるほど。

 こいつのせいで魔導騎士団長は指揮権をよこせと言ったんだな。


 フィンに伝えるか……。

 いや、やめておこう。

 ようやく落ち着いて前向きに考え始めたのだ。

 今こいつらを相手にしている暇はない。


 私は支援する準備をしておいて、かっこよく登場してやろう。


 最初から手を貸してくれたらいいのにと言うだろうか。

 そうなったら少し寂しいな……。

 さすがに今の段階で騎士団の移動に付き添ったらむしろ魔物扱いされて攻撃されるだろう。

 警戒されてしまえばその後もきっと上手くいかない。

 フィンには騎士団の犠牲は飲み込んでもらうしかないな。

 仕方ない。

 そこまで私の手は長くない。



△△△△家のつぶやき△△△△

ここまでお読みいただきありがとう!

フィンに戦争で勝ってほしいと願うそこのキミ!

1個だけでいいから★評価を!

頼んだぞ!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る