第14話 <フィン> まさかの……
「魔導騎士団の勇士たちよ、今日我々は戦場に赴く。敵は卑怯にも選定会議の合間を狙って攻め込んできたラザクリフ王国だ。我々はこの国の平和と民の命のために立ち上がり、奴らを打破する。
恐れることはない。我々の心は勇気と希望で満ちている。我々は自らの信念に従い、道を進む。決して折れずに立ち向かうのだ。
我々の任務は偉大だが、我々の意思はそれ以上に強大だ。困難に打ち勝ち、挑戦に立ち向かい、勝利を捧げるのだ。
我々の名誉と正義のために、進め!」
家さんのおかげで落ち着いた僕は翌朝の出陣に際するブレイディ団長の演説を冷静に聞いた。
こういうところは、さすが団長だと思う。
魔導騎士団の士気は高い。
彼らの熱に僕もあてられる。
勝つぞ。
そうして魔導騎士団2,500名が出陣する。
その姿は自信に溢れている。
団員たちの高揚に溢れ出した魔力がこの空間を覆っている。
その揺らぎは荘厳だ。
僕はあてがわれた馬に乗ってブレイディ団長の後方を行く。
彼の要望に応え、指揮は任せた。
出陣前によろしくお願いしますと言った僕をきょとんとした顔で眺めている彼の表情に笑いそうになった。
もっと何か主張してくると思ったのだろうか。
まぁいい。いつか話をすることもあるだろう。
もう出陣なのだ。
仲互いしている場合ではない。
これから恐らく3日は移動だ。
王都から国境まで馬で3日と考えると近いようにも感じるが、魔法を使って強化した馬を使い、さらに全軍に対してスピードアップの魔法をかけて進む。
要所要所で休憩と補給、使えなくなった馬の交換を行う。
さすがに魔導騎士団の出陣とあって、少し予想していた妨害のような物資不足は起きていないらしい。
そこまであからさまなことはできなかったようだ。
逆に王国軍の進軍には懸念がある。
出陣を見送りに来てくれたアストガ侯爵からは全力で準備して追いかけると言ってもらったが、どうだろうか。
僕たちはリシャルデに向けて急ぐ。
全員会話もせず黙々と馬で駆ける。
そうして僕たちは2日間走りきり、予定通りルーカスという街の外側に布陣した。
今日はここで休み、明日リシャルデまで進む。
「お疲れ様です、王子」
「ありがとうございます……団長」
設置された天幕で状況の確認を簡単に済ませ、予定通り明日リシャルデ付近まで進むことを指示したあと、僕を労う言葉をかけてきたのはまさかのハゲ……じゃなかったブレイディ団長だ。
相手が畏まっているのだから誹謗中傷するのは失礼だな。
「正直言って予想外でした。あなたはもう少し主張されるものと……」
「作戦についてですか?」
「そうです。最初に挨拶に来られた時に言われていた作戦。あれを再度主張されるかと思って軍議の時に身構えておりました」
どうやら警戒されていたらしい。
団長の立場からすると全員いる前でお飾りでも総大将である僕から予定している計画と別の作戦を語られるのは面倒だろう。
「この時になって反対はしません。ぜひ作戦を成し遂げてほしいと、そう思っております」
「そうですか。少し甘く見ていたようです……いや、単刀直入に言うと見くびっておりました。謝罪します」
「私はこうして話してもらえることに驚いておりますよ。お互い様……でしょうか」
言葉の通り、僕は驚いている。
団長は敵だと思っていた。
「あなたは文句も言わず走りきられた。魔道具のこともあってあなたのことをよく思っていない団員たちですら、驚いておりましたよ」
「馬が良かったのでしょう……」
無我夢中だったさ。
遅れるのはさすがにかっこ悪いし。
もしかしたら音を上げたら運んでもらえたのかもしれないが。
「今でも防衛戦を準備すべきという考えが変わったわけではないのです」
「……では、なぜ?」
ブレイディ団長は不思議そうに僕を見る。
「ただ、状況はここまで進んでしまっています。士気が高いのも事実です。よい演説でした。なので僕は僕のできることをします」
「それは?」
「無駄なことをするなと言われるかもしれませんし、不吉かもしれません。それでも皆さんが成功すれば問題なし。もしダメだった場合の行動です」
「……」
「僕を嫌うならどうぞ。それでも僕は動きます」
「嫌うことなどありません。あなたの立場なら当然そうすべきでしょう。我々は全力でことに当たりますが」
「もちろんです。どうか勝ってください。僕に、お前が間違ってたと言ってください。期待しています」
思いのほかブレイディ団長は冷静だった。
直情的で強情で、魔道具を一方的に否定するハゲとしか思っていなかったが、意外だった。
これは僕が……僕の視野が狭かったのかもしれない。幼かった。
1つ否定されただけで嫌ってしまったのか……。
『……フィン……』
「ん?」
「どうされました?何か?」
「いや、なんでもないです」
『……フィン……』
もしかして家さんか?
『そうだ、やっと念話がつながった』
ちょっと後にしてくれるかな?今団長と話してて……。
『オッケー』
そう言って家さんとの念話は切れた。
念話って遠隔でできるものだったっけ?
「王子?」
ブレイディ団長が急にうつろになった僕を訝しむ。
「すみません、少々疲れたようです」
「それはそうでしょう。あと1日走りますし、その次の日は作戦です。今日はゆっくりしてください」
「ありがとうございます」
あわてて言い訳してしまったが、疲れたのは事実だ。
やはり騎士団の移動はハードだ。
それに士気は高い。
今の団員からしたら初の戦争だ。
日頃の……もしかしたら一生ないかもしれないと思っていた見せ場でもある。
そんな中でいきなり防衛なんかさせたら抑えが効かなくなるかもしれない。
団長が言うのはそういう事だったのかな。
僕は軍議を行っていた天幕を後にして自分の天幕に入った。
家さん、びっくりしたよ。
……あれ?
「家さん?」
……小さい声を出してみたけど反応がない。
さっきのは幻聴だったのかな?
「家さ~ん!!」
「どうかされましたでしょうか、閣下」
護衛兵が入ってきた。
彼は王城警備隊から連れてきた兵士だ。
さすがにローザを連れてくるのは憚られたため、彼女の同僚で普段僕の警備を担っている人を数名連れてきた。
そのうちの1人だが……。
「いや、なんでもないんだ、すまない」
「はっ、何かありましたらお呼びください」
もしかして家さん……この状況を見て笑っているような……ギリィ。
『もう話しかけていいのか?』
家さん!
『悪い悪い。もし空振りさせたらどうなるかななんてこれっぽっちも思ってないから』
家さん!!!
もう、酷いや。
『ふっふっふっふ。びっくりしただろう?』
びっくりしたさ。
そもそも念話ってこんな離れた場所でつなげるの?
『念話を飛ばしているわけではない』
じゃあなにを?
『いや、お前と会話しているのは念話で、だが』
なんなのさ。
『私の研究の成果だ。お前と今念話しているのはお前に渡した私の外壁だ』
は?これで??
『そうだ。もともと意識を別の場所に飛ばすのはできたんだが、自分の一部を別の場所におくればもっと遠くにいても会話できるんじゃないかと思ってな。やってみたらこの通り。上手くいった』
仕組みが全く分かんない。
『たぶんだけど、私のスキルにある分割ってやつが効果を発揮しているんじゃないかと思う。私自身の分割だ』
そもそも意識を飛ばすって何?
『それはたぶん支援魔法だな。できるようになってから教えてもらったんだが、遠見の魔法があるらしいから、それと同じことをやってるんだと思うぞ』
それを組み合わせてる?
『直接この魔法とこの魔法って感じじゃないけど、今の状態を実現するために似たような原理を使って現象を引き起こしている感じだな』
僕にそれを教えてくれることは?
『無理だろうな。お前にはスキルが足りない』
だよね……。
それで、何かあった?
僕を心配してくれてるのかな?
『あぁ、説明しておこうと思ってな。こうやって会話できるなら、何か困ったときに言ってくれれば話せるだろう?』
話しかけ方を決めたいな。
さっきみたいなのを何回も繰り返すのはちょっと……。
『よし、では呪文を決めよう。えーと……コンクロイだな』
コンクロイ?
『あぁ、この世界の言葉とは違う響きだから偶然発音することはなさそうだろう?』
たしかに。
『今は休止中か?悪いな邪魔をした。早く寝るんだぞ』
わかった。ありがとう。
心配してくれて嬉しいよ。
『魔道具の方は進めてるからな。できたらまた連絡する』
助かるよ。お願いします。
『あぁ。お前も困ったら連絡するんだぞ!』
うん。
やはり家さんはいいな。
落ち着く。
また明日頑張ろう。
△△△△家のつぶやき△△△△
ここまでお読みいただきありがとう!
ようやくフィンの回でも出てこれるようになったぞ、あっはっは!
みんなフィンを応援してくれ!
1個だけでいいから★評価を!
頼んだぞ!!!
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