番外編その2 見よ!これが私の格闘技だ!
番外編その2 第1話 <家> 魔道具のコンテスト
「家さんはさぁ、格闘技なんて持ってるけど、実際どうやって戦うのかな?」
『見たいのか?』
「ちょっと興味はあるかな~」
ある日のんびりしていると突然フィンに問われた。魔道具研究の中で何かあったのだろうか。
実際私は格闘技を駆使して戦うこともできるのだが、こんな素敵な庭園で披露したら庭師たちが泣いてしまうのでやめた方がよいだろう。
しかし、考えることはみんな同じなのだな。
全く同じことを問われたことが昔ある。
当時はまだ自分自身でも格闘技ってなんだ?と思ってた頃だったな。懐かしい……。
私は格闘技を披露する代わりに昔話をフィンに聞かせることにした。
* * * * * * *
「家さんはさぁ、格闘技なんて持ってるけど、実際どうやって戦うのかな?」
『わからん……』
「えっ……?」
目の前の男は新進気鋭の魔道具師・エイレン。
今の私の住人でもある。
こいつは最近流行りの魔道具の職人なんだ。頭がよく、研究熱心なので、様々な魔道具を開発しているようだ。
そのため、こんな地方都市にいるのにたびたび王都に呼ばれている。
なんでも、複数の魔法を仕込んだ指輪を開発したらしく、それがとても使い勝手がよく、王都の魔法騎士団に多くの発注を受けているようだ。
なぜ急に格闘技に興味を持ったのかわからないが、エイレンは納品のために王都に向かっていった。3日前のことだ。
私自身、召喚されたときに格闘技を持っていると言われたものの全く使い方はわかっていないのだ。いつか試してみるかな?
そんなエイレンがなぜ王都に移住しないのかというと……。
「家様。おはようございます。今日も良い朝ですね」
起きてきたな。彼女が目覚めたのはわかったから、魔法で部屋の空気を少し涼めてやっていた。
彼女の長い髪は窓から差し込む太陽の光を浴びて輝いている。
夏は終わりに近づいているというのに元気な太陽だ。
『あぁ、おはよう、イヴェット。調子はどうだ?』
「ありがとうございます。今日はとても気分が良いのです」
彼女はエイレンの妻であり、私のもう1人の住人だ。
気分が良いと言うが、その瞳の下には少し薄暗い影がある。
彼女は魔力が枯渇しやすい体質で、頻繁に枯渇を起こして頭痛や吐き気、酷い時には気絶といった症状に見舞われてしまう。
そのため、普通の生活をさせるのは怖いのだ。
いつ魔力枯渇を起こすかわからない。
そんなイヴェットのことを心配しつつエイレンが素材探索で国内を回っていた時に見つけたのが私だ。
私は魔力回復の魔法が使えるから、私の中にいれば安心ということだ。
売りに出ていた私に違和感を持ったエイレンがいきなり炎を放ってきたときは全力で叩きのめそうと思ったが、カウンターで放った水魔法を見て速攻で謝罪された。
そして、会話し、私の能力に気付いたエイレンは即決で私を購入したのだ。
そして今に至る。
ん?お前が王都に行けばいいだろうって?家に対して何を言っているのだ。
そんな簡単に動け……るけども、私はこの土地が気に入っているのだ。
『今日はエイレンが帰ってくるのだったな』
「はい。夕方になると言っていました」
彼女は嬉しそうに答える。新婚さんだから当然か。
エイレンは定期的に王都に行っている。いつも納品だ。
王都とここルノアの間は魔法騎士団が輸送してくれている。普通なら馬車で7日ほどかかる距離だが、魔法騎士団のワイバーンなら3時間程度だ。
『待っていろ。朝食を出してやるから』
「えぇ、そんな。すみません家様」
私はこのイヴェットが気に入っている。私に対しても丁寧で、掃除も頑張ってくれる。自分でできるから、とはなかなか言いづらかったりするが。
「ただいま~」
「おかえりなさい、エイレン!」
『おかえり~』
私たちは仕事から戻ったエイレンを迎える。
なにやら嬉しそうな顔をしているな。
「聞いてくれ、イヴェット!」
「まぁ、どうしたの?まずは着替えて、ご飯にしましょう」
性急な男は嫌われるぞエイレン。
それでも興奮冷めやらぬ様子のエイレンはさっそく着替えて食卓に座った。
そして食事を採りながら話す。
「王都で魔道具を使ったコンテストが開かれるらしいんだけど、その優勝賞品がどうやら"魔力の指輪"らしいんだ!」
「まぁ」
『ほう……』
魔力の指輪……エイレンとイヴェットが探し求めている魔道具だ。
魔道具と言っても魔力の指輪は人が作ったものではない。遥か古代に神が作ったとされる逸品だ。
かつては地上に神が存在しており、今よりも多い頻度で人の世に介入していた。
魔道具もその1つでいくつかが現在も残っている。
魔力の指輪は比較的多く作られたもののようだった。
そんな神の魔道具を真似して作られているのが現代の魔道具だ。
魔法力の弱いドワーフが開発に成功して以降、使用も生産も広がっていっている。
エイレンは妻を治すために自らも"魔力の指輪"を作ろうとしたこともあったが、作れなかった。
現代の魔道具は基本的に魔力を使うものばかりであり、魔力を生み出したり空気中から集める技術はまだない。
「でも、優勝するのは大変だし、危険なんじゃないかしら?」
「そこはコンテストの形式次第だけど、僕の魔道具を使ってくれる相手なら魔法師団でも騎士団でも見つかると思うんだ!」
魔道具の優劣を競わせるんだとすると、きっと戦闘の中で使わせるだろうからイヴェットの心配はもっともだ。
剣も魔法も使えないエイレンに戦闘能力はない……。
格闘技のスキルを持つ私が直々に教えてやりたいが、そもそも格闘技をどうやって使えばいいかわからん……。
そうして食事を終わらせると、私は2人を寝室に見送った。
ん?
もちろん寝室を覗いたりはしないぞ?住人のプライバシーは大切だ。
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