番外編その2 第2話 <家> 格闘技・ドアパンチ!

 それから3日後……。


「えぇ!!!!」

「どうしたのエイレン?」

 朝、私の淹れたお茶を飲みながらゆっくりと新聞を読んでいたエイレンが驚きの声をあげた。


「なんてことだ。コンテストのことが発表されてるんだけど、魔道具師自身が戦わないといけないらしい……」

 なるほど。それで驚いたのか。エイレンに戦闘能力はない……。落ち込みそうだな。


「エイレン、無理をしてはダメよ。私は大丈夫だから」

「うん……」

 予想通り目に見えて落ち込んだエイレン。ちょっと可愛そうだな。

 そもそも普通職人が戦ったりしないだろう。どういう背景でそんなルールになったんだろうか。


 何かきな臭いな。


 私は黙って様子を見ていると、エイレンは食事とお茶を済ませて職場へ向かった。

 職場はどこかって?私の2階だ……。


 イヴェットも少し元気がない。

 仕方ないな。"魔力の指輪"が手に入るかもと少しは期待しただろう……ということではなく、単純にエイレンを心配していそうだな。

 相変わらず良い娘だ。


 私は意識を切り替え、職場となっている2階の改造した部屋にいるエイレンに話しかける。


『それでも出るんだろう?』

「家さん……あぁ、もちろんだよ!」

 やっぱりな。


『勝算はあるのか?』

「いや……」

 ないのかよ。


『それなら前に話していた私をコピーした魔道具を作ったらどうだ?』

 確か私を研究していつか家型魔道具をいっぱい並べてやるとか言ってたしな。

 あの時は中をしらみつぶしに見ようとするエイレンが鬱陶しくて阻止したが。

 

「いいの!?」

『かまわん。イヴェットのためだろう。彼女は良い娘だ』

「ありがとう家さん!僕、頑張るよ!」




 そうして研究開発に入るエイレン。

 それを静かに手伝うイヴェット。

 そして考えをめぐらす私。


 ん?悪だくみでもしてるんじゃないかって?

 そんなことはない。

 私は純粋にイヴェットを心配しているのだ。

 そして可能なら助けてやりたい。


 念には念を、だ。



「家さんの構造は複雑だね。壁紙をはがさせてもらって見せてもらったけど、細かい魔法陣がいたるところに書かれているよ」

 そうだったのか。どうりで細かく震えたりできるし、カーテンや窓やドアの開閉もできるし、火魔法を撃ち込まれても火傷すらないし、傷ついても勝手に修復されるわけだ。そもそも飛べる家というのが凄いだろう?


「家型魔道具を作る際に、全てを再現するのはムリだけどね。それでも、防御の魔法、ドアや窓の開閉とか自己修復、火・水・風・雷・木・地の魔法、回復魔法と支援魔法、特に飛翔魔法はなんとしてでも組み込むよ!」

 それは相当高性能なんじゃないか?魔法師団に納める指輪に3つ魔法を組み込んだだけで魔道具師界のスターになったんじゃなかっただろうか?


「なにせ魔法陣を書ける範囲は広いからね。期日ぎりぎりまで粘ってひたすら魔法陣を書くよ!」

 どうやら家自体は私を真似させて職人に作ってもらうようだ。その建築に合わせて魔法陣を書きまくるらしい。



 そうして1か月近くかけて作成した家型魔道具は私の目から見てもなかなか優秀だった。

 ただ、近隣の住人には驚かれた。

 なにせ家の隣にもう一個似たような家を建てたように見える。

 隣のおっさんに新婚なのにまさか早々に別居か?とか聞かれてエイレンが怒っていた。

 今頃奥様方の井戸端会議でも噂をされているだろう……。


 そんなことは全く気にせず完成した家型魔道具をコンテストに登録するエイレン。

 登録情報は秘匿されるらしく、コンテストの初戦を楽しみにしているようだ。


 エイレンが仕事をしている隙に、こっそりと私もひと手間かけさせてもらった。

 え?やっぱり悪だくみじゃないかって?

 違う違う。私はイヴェットが心配なのだ。念には念をな。


 


 

 よく晴れた初秋のある日。

 エイレンは納品に王都に行っているし、イヴェットは買い物に出かけている間に私は森に入る……。

 何をしているかって?


 この森は街から近くて私なら数時間で往復できる。

 だから、たまにここにやってきて出てくるモンスターと戦っているのだ。

 素材をエイレンに届けたり、食材をイヴェットに渡しているんだ。なんて素晴らしい家なんだろう私は。


 今日の収穫はビッグトレント4体、オーク10体、そしてアイアンタートル1体だ。

 今日はなかなかついてるな。


 そろそろイヴェットが返ってくる時間なので引き返すか……と思っていたら面白いモンスターが出てきた。

 アイアン・トレントだ!


 これはラッキーだ。こいつらトレントのくせに、体が金属化しているレアモンスターだ。

 その体をゲットできたらありがたい。伸縮性があって、加工しやすい素材だからな。

 ちょうどこの前エイレンがカーテンレールを壊したから修理に使えそうだ。


 突然声をかけた私も悪かったが、リビングのカーテン脇でイヴェットと何してたんだ……?


 私はアイアン・トレントに氷の魔法を撃ち込む。

 ん?なんで氷かって?

 こいつら金属のくせに進化元の植物としての名残りなのか凍らせると動きが止まるんだ。しかも脆くなる。

 そこに衝撃を与えると……。


 そうだ!!


 ひらめいた。私は天才かもしれない。

 凍らせたアイアン・トレントに近づいてっと。


 ドアを開けて……。


 回転!!!!!


 開かれたドアがアイアン・トレントにクリーンヒットし、アイアン・トレントが砕けた。


 見よ!これが私の格闘技・ドアパンチだ!!!


 今度エイレンに教えてやろう。


 私は自宅……っていう表現はおかしいかな?エイレンの敷地に上機嫌で戻った。

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