第18話 <フィン> 公開処刑
「フィン閣下!!!」
「どうした?」
呼びに来た兵士に答える。
彼は王城警備隊員だ。
「大変です、フィン閣下。敵が公開処刑をやるようです。その……捉えた魔導騎士団を」
「なんだと!?」
報告を聞いて僕は一気に血の気を失った。
まさか、そんなことをしてくるなんて。
「ガウェル中隊長!」
「フィン閣下、こちらへ」
僕がさきほど会議をしていた天幕へ行くと、そこにはガウェル中隊長、メロード中隊長のほか数名の騎士団員が集まっていた。
「あいつら、卑怯にも公開処刑をやると言いまわっているようです。こちらにも聞こえる声で喧伝しています……」
ガウェル中隊長が悔しそうに言う。
「なにが目的で……?」
「十中八九誘い出すためでしょう。敵はこちらを籠城させたくないのでしょう。また、王国軍の本隊が合流する前にこちらの数を減らしたいのかと」
メロード中隊長が教えてくれる。
汚いしきついが敵にとっては合理的という事か。
「さらに、捕虜にしておくと兵糧を分け与えなくてはならないが、殺してしまえば不要だ。自分たちの負担を減らし、こちらへのダメージも……」
なんて卑怯な奴らだ。
「完全にかつて周辺国同士で結んだ戦時協定に反するふるまいだが、戦争がなくなって長い。そんな古いことは知らんとでも言いそうだな」
ガウェル隊長の言葉は厳しい。
今の時代に僕たちに頼れるものはない。
そもそも新興のラザクリフ王国は百年以上前の協定には参加していないだろう。
「ここで撃って出てはいけません」
「メロード中隊長!私は捨て置けません。ブレイディ団長は我々を救ってくださったのです!」
メロード中隊長の言うことはもっともだが、この場にいる傷をおった者たち。
彼らはブレイディ団長が斬り込まなければ今頃はあの世にいただろう。
生きていても今回の公開処刑の対象になっていたはずだ。
そのブレイディ団長は今敵の手の中にあるはずだ。
公開処刑の目玉とされていることだろう。
何とかして救いたい。
「公開処刑の日時を言っていたか?」
「明日の正午とのことでした」
早い。準備する時間は少ない。
もう日が沈んで結構な時間が経ったはずだ。
どうする……。
どうしたい……。
「フィン閣下、どういたしますか?」
ガウェル中隊長が訪ねてくる。
この場にいる全員の視線が僕に集まる。
正直……きつい。
どんな決断をしても人が死ぬ。
父上は言っていた。
流れ着く先を見据え、利用し、その時必要だと思うことをなせ、と。
恐れるべきは自らの死ではなく、国の……民の死だと。
自分の死は恐ろしくない。
どうせこんなちっぽけな自分だ。
でも、みんなは助けたい。
ここで魔導騎士団を失ってはいけない。
僕は……。
「僕が行く」
「閣下、なりません。ここは……」
「閣下!」
ガウェル中隊長とメロード中隊長の反応は真っ二つだ。
僕の予想は真逆だったが……。
さきほど撃って出るのを反対したメロード中隊長に今回も止められると思ったが、彼は期待した声を出している。
一方、ガウェル中隊長は反対か。
「ガウェル中隊長、王国軍の本隊が合流するか、私かブレイディ団長が戻るまでは指揮をお任せします」
「しかし……」
「止めるなガウェル中隊長。閣下は決断なさったのだ。我々がすべきは支えることだ」
止めてくるガウェル中隊長と後押ししてくれるメロード中隊長。
周りで聞いている魔導騎士団員も固唾を飲んで見守っている。
「ここからは行くメンバーで作戦を詰めたい。ガウェル中隊長、相談のうえでメンバー選定をお願いしたい。メロード中隊長は騎士団の士気を保つため、各所を巡回してきてほしい」
「「はっ」」
反対されることなく指示を聞いてもらえてよかった。
少し警戒しすぎたかもしれないが、不自然ではないだろう。
「しかし、どうされるおつもりで?」
メロード中隊長が行った後、ガウェル中隊長が訪ねてくる。
作戦会議だな。
「数人の魔導騎士をお借りしたい」
「数人だけですか?」
「あぁ。僕は忍び込む」
少人数で忍び込んでくる。
狙うのは……。
「それは戦時協定に……いや、向こうがそもそも守っていないということですね」
「そうです。そもそも開戦も公開処刑も昔の戦時協定には反します。しかし今とは時代も違うのです。相手も守っていないのです。こちらが破っても誰も非難しないでしょう」
もう戦時協定など気にしない。
もし今回上手く勝利して和睦の協定でも結ぶのであれば、改めて戦時協定を議題にあげればいい。
そうしてガウェル中隊長は7名の騎士団員を選んでくれた。
彼らにはまずは僕から作戦の流れを説明する。
「狙うのはまずはブレイディ団長の救出だ。おそらく敵はブレイディ団長を最初に処刑しようとするだろう。もしこちら側が出ていって戦闘になった場合でも、最初の処刑だけは執行させておきたいと考えているはずだ」
魔法なしでも普通の騎士より強いブレイディ団長は相手にとって脅威のはずだ。
「そこには僕1人で行く」
「それはなりません」
ナンバー2を助けに行くナンバー1。
あまり聞かない構図だし、僕は将軍であっても戦闘能力は低い。
当然ガウェル中隊長がそこにひっかかる。
しかしだからこそ意表を突けるはずだ。
僕は説明を続ける。
「敵は処刑の場において魔道具を展開したりはしないだろう。さすがにそれは面子に関わるはずだ。だから僕が行って、魔法で驚かせつつ団長を救う。そうすれば団長も戦力になるはずだ。そして、その間に僕についてきてくれるものたちで他に捕まっている騎士団員を助け出してほしい。それが上手くいけば少なくとも処刑場の中では戦える兵数になるはずだ。そして相手が混乱している間に魔法障壁の魔道具を叩きたい」
そこからは相談……いや軍議だ。
細部を詰めていってくれる騎士団員たち。
その後僕らは軽い食事を採って明日に備えて仮眠に入る。
明日……この戦いの命運を定めるかもしれない戦いが始まる。
いや、違うな。
すでに色々なことがあった。
魔道具をもっと早く認めてもらえていれば。
選定会議に備えて周辺国をけん制できていれば。
魔導騎士団の突撃を防げていれば。
もっと早く兄を治せていれば。
今考えてもしょうがないことが次々に頭に浮かんでくる。
僕は、弱いな。
どう考えても。
父上、母上。
僕は国王には向いてないと思うんだ。
勢いがあれば問題ないが、こうして考え始めてしまうと、死ぬのだって怖い。
もう会えないのかな。
家さんにも……。
『呼んだか?』
えっ……。
『すまん、フィン。呼ばれたような気がしてな』
いや、呼んだないよ。
『そうか。フィン。大丈夫か?』
大丈夫。大丈夫だよ、家さん。
『あの後どうなった?なんで呼ばれてたんだ?』
いや、なんでもないよ。
『防衛線の準備は整ったのか?』
う……うん。
『ん?』
ごめん、家さん。
今から仮眠をとるところなんだ。
寝ないと。
『そうか』
うん。
『おやすみ、フィン』
おやすみ、家さん。
ガタン
眠りに落ちる僕はなにか重たいものが動くような音を聞いた気がした……。
△△△△家のつぶやき△△△△
ここまでお読みいただきありがとう!
フィンは絶対何かを隠してるよな?どうなんだ?
フィンを応援してくれるみんな!
【1個だけでもいいので】★評価を頼む!!!
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