第19話 <フィン> 奪還作戦

「どういうことだ?来ないではないか!」

 公開処刑場として用意した広場の前で起こるのはロドフェルド将軍だ。

 彼は待っていた。

 軍に準備をさせた上で。


「あやつ……まさか嘘を伝えてきたわけではあるまい……」

「何かあったのでしょうか?」

 将軍の呟きに答えるのは参謀長だ。


 彼らはクロード王国内の一部の勢力と内通していた。

 当然ながらベオルバッハ公爵と第2妃イザベラの派閥とだ。


 魔導騎士団が先陣を切って急襲してくることも聞いていたし、そもそも開戦についても内部情報を得た上で進めてきた。

 そんな彼らの元、昨晩遅くにフィン・クロードが魔導騎士団の奪還に部隊を率いて向かうと報告が届いたのだ。


 それに基づき、公開処刑の準備をしつつ、迎撃のための軍を後ろに展開していた。


 しかしフィン王子は来ない。

 何か手違いでもあったのだろうか。


「来なければ来ないで粛々と処刑を進めるのみです、将軍」

 参謀長の言葉にそれはそうだと考え直すロドフェルド将軍。


「では、予定通り正午に処刑を行う。最初はあのハゲ……ブレイディ団長だ。連れてこい!」

「はっ」

 控えていた部下は命令に従ってブレイディ団長を連れてくるべく、捕虜となった魔導騎士団を詰め込んでいる急ごしらえの建物に入る。


「くっくっく、来ても地獄、来なくても地獄。来ない方が防御を固めて王国軍本隊と合流できるから合理的ではあるが、そちらに残った魔導騎士団はどう思うかな?くっくっくっく」

「いかに掟といっても年若い、しかも太子ではない王子を将軍に据えるとは、バカげた考えですな、将軍」

 あきらかに戦い慣れしているとは思えない掟の数々をロドフェルド将軍と参謀長は嗤う。

 すべてが自分たちにとって都合がいいためだ。



 そうして処刑場にブレイディ団長が連行され、彼は処刑台に上がらされ、拘束される。


「手負いの騎士、それをさらに拘束しなければ相対できぬとは、勇敢だなロドフェルド将軍」

「貴様ぁ」

「落ち着いてください将軍」

 簡単な挑発ですぐに沸騰する将軍。

 対してブレイディ団長は冷静だった。

 冷静に状況を俯瞰して、なんとか部下を逃がす策はないかと考え続けていた。

 

「そろそろ時間だな」

「「「おーーー」」」

 観客となっているラザクリフ軍の面々が声を上げる。

 自らが打倒し、捉えた敵の団長を処刑するのだ。

 その熱気はすでに相当高まっている。


「では、はじめよ」

 そんな中でロドフェルド将軍は合図を出す。


 それを見て処刑執行人が処刑台に向かう。

 その足取りはゆっくりとしたものだ。

 処刑されるものの恐怖を少しでも高めるための演出。


 そうして処刑台に上った執行人。

 手に持った大剣を構える。

 そして、振り上げたその時。


「サンダー!!!」

「なっ」

 処刑人が掲げた剣に落ちる雷。

 

 フィンが持つ雷魔法が炸裂したのだった。

 

 しかも雷なのでどこから放たれたのかわからない。


 騒然としつつあたりを見渡す者で溢れる観客席。

 そしてロドフェルド将軍。


 その隙をついてフィンは処刑台に上り、処刑人を蹴り飛ばす。

 素早くブレイディ団長の拘束を叩き斬り、団長に回復魔法をかける。


「無事ですね。よかった」

「かっ……まさか」

 今閣下と言いそうになったね、この人。

 よく呑み込んでくれた。


「誰だ、貴様!」

 あの大男がこの軍の将軍かな。

 猪のようだ。

 それにしてはラザクリフ軍は冷静な動きをしていた。

 悪辣さも備えていた。

 どこかに軍師がいそうだな。


 まぁ、今ははそんなことはいい。


 あとはみんなと脱出するだけだ。


「さあ、みな。このフレアに続け!同志たちよ!」


 僕の名前は省略せずに言うとフィルニール・フレアリス・ヴェルド・フォン・クロードだから嘘は言ってないからね。

 

「「「おーーー!!!」」」

 

 魔導騎士団員たちが出てくる。

 かけながら次々に魔法を放つ。

 その魔法が向かう先は魔法障壁の魔道具だ。


「くっ、まさか。全軍構えよ。魔法障壁を展開するのだ!」

 ロドフェルド将軍は処刑を中止し、控えていた部隊に指示を出す。

 ここで魔導騎士団を壊滅させなければリシャルデに合流されてしまう。

 そうなったら初戦の勝利がかすんでしまう。

 

 ドカーン!!!


「なっ!?」


「よし、1台!まだあるぞ。放て!!!」


 魔道具を1台破壊した。

 計画通りだ。

 しかもすぐには展開できないようだ。


 僕たちを街から出すため最初からこの公開処刑を計画していたのかもしれないが、魔導騎士団を捕虜としてとりすぎていたようだな。

 1,000名近く残っていたようだ。

 僕にとってはありがたい。

 


 

 しかし、敵軍の兵士も出てきて乱戦になる。

 あと何台だ。


「フレア!!」

 ん?

 団長の声に、ふと顔を上げた僕の目の前にあの大男が剣を掲げて……。


 とっさに体を捻って全力でその場から逃げる僕。

 その体のあった場所を大剣が通過し、そのまま処刑台の一部を斬り裂く……。


 あぶなっ。

 ここは戦場なのに考えに浸ってしまっていた。


「すみません、団長!」

「指揮は任せよ!お前は……」


 その言葉を遮って展開される魔法障壁……くそっ、間に合わなかったか。


「脱出するぞ!」

「「おう!」」

 

 ブレイディ団長の掛け声に呼応する魔導騎士団たち。

 やはり部隊指揮ではかなわないな。


「無事障壁も展開できた!あとはもう一度捉え……いや、全員殺せ!」

「「おー!」」

 敵の将である大男の指示で一気に士気を高める敵軍。

 見れば大盾を構えた兵士がリシャルデの方向に展開している。


 長居しすぎたか……。


 魔法も使えない僕らは相手が落ち着いてしまえば厳しい。

 どうする……。


「フレア、ここは任せて、行け」

 隣に立つ団長が小声で話しかけてくる。


「しかし……」

「来てもらえただけで嬉しかった。一部の者は脱出できるだろう。十分だ。あとは軍を率いて守るべきだ。そこにはあなたが必要だ」

 くそっ、僕はまた失敗するのか。


 何か方法は……。



 団員たちは防戦一方になりつつある。

 脱出もできていない。


 くそっ。



 僕は……無力だ……。



 

『そうでもないさ』

 



 幻聴が聞こえる。

 こんなときに家さんを頼るなんて、やっぱダメだね僕は。


 

『頼ればいいんだ』


 心の甘えなのかな。


『そんなことはない。顔を上げて』

 

 どういうことだ?

 あんなに騒がしかった戦場の音がやんでる。


 あきらめかけて視線を地面に下ろしてしまっていた僕が目線を上げるとそこには上を見上げてあんぐりと口を開ける大男……。


 なんだ?

 なにが?


 僕も上を見上げると……。







 家さんが浮いていた。





△△△△家のつぶやき△△△△

只今 \( ̄^ ̄)/ 参上!!

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