第23話 <フィン> 選定会議

 僕は覚悟を決めて王城の大広間に向かう。

 さぁ、どうなるかな?少なくとも弟ダリアンに決まることだけはないと思うんだが……"ざまぁ"という気持ちはしまっておこう。そして、どうか僕にはなりませんように。


 

 今日は選定会議の日だ。

 僕は結局この日に合わせてリシャルデから帰還した。

 どう考えても僕を王都に帰させない狡い妨害工作だった……。

 ここで選ばれても実際に国王になるのは5年先なんだから、妨害になんの意味があるというのか。



 大広間にはすでに多くの人がいた。

 選定会議への参加義務がある伯爵以上の貴族たちだ。


 僕ら次期国王の候補者たちが大広間に姿を表すと彼らは静まり、入場する僕たちに拍手をしてくれた。たくさんの視線が自分に向いてる気がするのは気のせいだよね?気のせいだと言ってほしい。

 戦争に勝ったことで評価されているのは聞いているが、やめてほしい。僕は王になりたくない。

 

 中央には国王陛下の玉座。

 その前に大きなテーブルが置かれ、周囲にもテーブルやイスが並べられている。

 その中に見たことがあるテーブルがひとつ置いてある気がするが、見間違えかな?


 既にテーブルには国王である父上、そして王妃たち、貴族たちが座っている。

 この会議は次の王を決めるもの。貴族たちはその立会人だ。

 だから王族の入場にも、この日だけは貴族たちは立ち上がらない。


 そうして名札が置かれた席に着く。

 父上の右手側から順番に第4王女アリアーナ、第3王女ソフィア、第2王女ルシア、第3王子ダリアン、僕、そして隣の席は……残念ながら空席だ……。


 兄上は間に合わなかったのかな……。

 大広間の外で期待して待っていたが、入場するよう促されるまでに兄上は姿を見せなかった。

 改めて衝撃を受ける僕。遠いリシャルデからでは兄上の様子を探ることもできず、回復していることを祈っていたが……これはまずい。

 エルメリアさんからは使用し、魔力病を治したという手紙は受け取っていたが、長年にわたって蝕まれた体の回復に時間がかかっているのかな。

 いまだに兄上は病室に籠ったままらしい。

 まさかダリアンたちがなにかしたとかじゃないよな……。


 僕はレオノーラ様の方を見るが、彼女はまっすぐ前を見つめて座っており、その視線の先は僕の隣……空席に注がれていた。


「静粛に」

 そうして選定会議が始まってしまう。待ってくれ兄上がまだ、とも言えず、黙って座っているしかない。


 この会議は多分に儀式的なもので、手順が決まっている。なんとか逃れられないかと思って何度も規則を読み直したから覚えてしまった。

 まず最初に父上がこの選定会議の議長を任命する。その言葉は堅く、重い……。


「この国の柱たるロドガルム公爵よ。

 貴公のこの国を思う心は深く、その重責と使命に我は敬意を表す。


 (長いのでカット)


 どうかこの歴史的な任務に神の祝福があらんことを」



 国王である父上が選定会議を任せたのはロドガルム公爵。父上の従兄弟にあたる方だ。議長と言っても進行役に近いものだが、貴族たちの不用意な発言を抑える役目がある。

 一応、選定会議が紛糾した際に最終決定する権限があるが、使われたことは一度もないという。僕の人生最大最後のお願いだから、ミカエル王子が次の国王だ、っていきなり宣言してくれないかな?


 僕の期待とは裏腹に、ロドガルム公爵は粛々と選定会議の開催を宣言する。

 当然か……。この場にいる貴族たちは僕が国王になりたいと思っているだろう。


「諸君、この偉大なる玉座のもとに集いし貴族たちよ~~~。

 

 (めっちゃ長いのでカット)

 

 さあ、未来への扉を開こう」

 

 


 父上もロドガルム公爵も繰り返しの多い硬い文章を読んでいるかのようだがこれは様式美……。文句がほぼ決まっているので仕方ない。選ばれたくない僕は現実逃避でそんなことを考えている……。


「では推薦を行う。まずはベオルバッハ侯爵」

 ロドガルム公爵の進行でベオルバッハ侯爵が立ち上がる。

 第2妃の兄でダリアンの伯父だ。当然推薦相手はダリアンだ。


「尊敬する国王陛下、そしてこの偉大なる玉座に仕える全ての人々へ。我々が今、この歴史的瞬間に立ち会っていることは、まさに天の導きに他なりません。

 我が国の将来を託すべき、次代の君主を選ぶこの神聖なる責務において、一人の候補者を心から推薦させていただきたく、ここに立ち上がりました。

 その候補者とは、他ならぬダリアン王子でございます。

 ダリアン王子は、生まれながらにしてこの国の土と共に育ち、その心には民の安寧と国の繁栄が深く刻まれています。

 王子の勇敢さ、公正さ、そして何よりも人々を思いやる温かな心は、すでに多くの場面で我々の目の当たりにされてきたことでしょう。

 さらに、ダリアン王子は、この国が直面する数々の試練を、冷静かつ賢明に乗り越えるための才能と慧眼を兼ね備えておられます。

 若き日より、王子は国内外を問わず、多岐にわたる知識を吸収し、その理解を深めてこられました。

 また、王子の外交における洞察力は、我が国を未来に向けてさらなる高みへと導くでしょう。

 このように、ダリアン王子は、国王としての全ての資質を兼ね備えておられます。王子のリーダーシップのもと、我が国は新たな繁栄の時代を迎えることでしょう。

 そこで、心よりの敬意を込めて、ダリアン王子を次代の国王として推薦します」



 アピールがわかりづらい……というか名前を変えるだけで誰でも当てはまりそうだ。それに、こういう推薦は親族は外した方がいい気がするんだが。推薦して王になったら当然王は推薦者に感謝する。それが伯父や祖父や従兄弟などで親族だったら親政になりやすい気がする。

 なお、決して選ばれることのない可哀そうなダリアンを推薦する悪辣なベオルバッハ侯爵への皮肉のためにカットせずお送りしましたことを読者の皆様に謝罪します。


「続いて……」

 様式美を重んじる会議だから王女たちも1人ずつ推薦されるが、ほぼ同じ文章なので割愛する。そして僕の推薦……。


 これはアストガ侯爵が担ってくれた。

 母の縁戚であり、僕としては信頼できる人物だ。そのせいでラザクリフとの戦争で国王軍の本隊を率いることになり、様々な妨害の結果参戦できなかった。そのことを盛大に詫びてくれたこの方は辞任を表明しようとしていたが止めた。今回表に出てきた様々な問題の解決をしてもらわないと困るからだ。そう告げると少し重い表情でわかりましたと答えてくれた……。

 わざわざ僕を次期国王に推薦してくれるのは仕返しとかじゃないよね……。


「尊敬する国王陛下、そしてこの偉大なる玉座に仕える全ての人々へ。我々が今、この歴史的瞬間に立ち会っていることは、まさに天の導きに他なりません。

 我が国の将来を託すべき、次代の君主を選ぶこの神聖なる責務において、一人の候補者を心から推薦させていただきたく、ここに立ち上がりました。

 その候補者とは、他ならぬフィン王子でございます」


 ここまでは皆同じだ。様式美なのでご愛敬あいきょう


「皆様ご承知のとおり、フィン王子は先だって発生したラザクリフによる侵略戦争にて見事な活躍をなされました。

 多くのものが慣れぬ戦争に慌てふためく中、また劣勢に立った状況の中で、多くの騎士を救い、敵を粉砕したのです。

 さらに先見の明もあり、魔道具に関する知見を保有しており、それを既に戦争、そして国政に活かしておられます」


 魔導騎士団長はそれはもう喜んで推薦状を書いてくれた。

 国王陛下宛とバロット財務卿宛だ。

 いずれにも魔道具に目を当ててこなかった自らの不明を詫び、僕への協力を惜しまない旨、そして予算取りのお願いを書いてくれた。


「このように、フィン王子は、国王としての全ての資質を兼ね備えておられます。王子のリーダーシップのもと、我が国は新たな繁栄の時代を迎えることでしょう。

 そこで、心よりの敬意を込めて、フィン王子を次代の国王として推薦します」

 

 ありがたいようなありがたくないような……。

 もちろん評価いただいていることは嬉しい。しかし、国王になりたくない。

 魔道具研究所長の選定にしてくれないかな?


 ふとベオルバッハ侯爵が目に映った。ものすごい顔でこっちを睨んでいたから無視できなかっただけだが。

 あれが可愛い同い年くらいの娘の熱いまなざしだったらどれだけよかったか。


 大広間中央のテーブルに座る妹たちを見渡すと、意外にも好意的な視線でこちらを見ていた。妹たちではあるが、こっちを眺めてる方がいいな。

 1人侯爵と同じような顔をしてる弟は置いておくとして……。



 そして僕の推薦が終わった。



 皆の推薦中、静かに周囲を眺めていると、意外にも応援されているのか?という照れくさい気持ち、弟ドンマイという気持ち(第2妃と侯爵ざまぁ)、それでも国王になりたくない気持ちを抱えながら、その進行を見守ってきた。


このまま終わったらやばいな……。




△△△△家のつぶやき△△△△

ここまでお読みいただきありがとう!┃˙꒳˙)コッソリ

ん?なんでいるのかって?中にいるからな(๑¯ ³¯)~♪

果たしてフィンは次期国王に選ばれてしまうのか?

ご期待頂けるそこのキミ!【1個だけでもいいので】★評価を頼む!!!

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