番外編その2 第5話 <家> 格闘技・カーテンレールホイップ!
「さすがエイレンだな。民間の出身ながら卓越した魔法付与で有名になっただけのことはある。あのような魔道具を作るとは。発想すらなかった」
観客席から試合を眺める男が呟く。
重厚な座席に座っており、周りには恭しく様子を伺っている者たちを配している。
彼はロワードリッヒ・レファリア。この国の国王だった。
その隣には王都の魔道具研究所の若き所長であるラヴェット。
「おっしゃる通りです、陛下。しかし次の相手は魔道具研究所の主席研究員であるスカーンです」
「ふむ。優秀な研究者の戦いは面白いな。そなたの進言を受けてこの形式にして良かったのぅ」
「ありがとうございます!魔道具はまだまだこれから発展します。このコンテストがその発展を支えるでしょう」
そして準決勝。
「ふふふ、ようやくこの時が来た。覚悟しろエイレン!」
エイレンを睨むスカーン。
「スカーン殿か。お久しぶりですね。でも、僕は負けない!」
エイレンも気合が入っていた。これに勝てば……。
「それでは準決勝を開始いたします!まずは魔道具研究所の主席研究員スカーン選手です!」
沸き起こる拍手。
準決勝ともなると演出も入るらしい。
「そして対するは魔道具への複数付与を実現した若き魔道具師エイレン選手です!」
スカーンに負けないくらい大きな拍手が起こる。
トーナメントが進むにつれて注目されたエイレンは、朝の新聞でも経歴が紹介されていた。
魔法師団に魔道具を提供する優秀な魔道具師。
4回戦で惜しくも敗退してしまったアイドル女騎士・ミレットによる応援コメントも掲載されていたため、嫉妬した男たちは皆スカーンの応援だが……。
「それでは間もなく試合が始まります!皆さま準備はいいですか!?」
熱が入る実況。その声を会場全体に届けているのも、もちろん魔道具だ!
そして審判の合図が入る。
「始まりました!!!」
とたんに沸き起こる大きな拍手!
「よし行くぞ!ファイヤーストライクとウインドストライクの準備だ!」
エイレンは家型魔道具に複数の魔法を指示する。
「くくく。無駄なことを。見るがいい!
「えっ?」
スカーンが掲げた魔道具と、その魔道具が展開した魔法を見て驚くエイレン。
「なんだ?とりあえず準備した魔法を放て!ファイヤーストライク!ウインドストライク!」
「無駄だ!!!」
家型魔道具が放った魔法はスカーンに届かず消える。
「クックック。魔法に頼りすぎたな、エイレン。覚悟しろ!」
「まさか魔法無効化とは……まずい」
突撃してくるスカーンを眺めていたエイレンが慌てる。
どうやらスカーンは家型魔道具への侵入を試みるようだった。
「くそっ、家さんと違って家型魔道具は機動力が弱い……」
「おぉっとスカーン選手がドアを開けて家型魔道具に入ったぞ~!」
普通にドアを開けて侵入してくるスカーン。
エイレンは部屋の扉を押さえて閉じこもるが……。
「ドアを押さえるエイレン選手に対し、ドアを開けようとするスカーン選手!まるで引きこもりを無理やり外に出したい父親のようだ!!!」
スカーンはエイレンの父親くらいの年齢だった。
彼は魔道具研究所を差し置いて魔法師団と取引をしているエイレンが気に喰わなかった。
エイレンは王都で学校に通っていた頃に複数付与に成功し論文を書いていた。
その論文は評判で魔道具研究所の目に止まり、エイレンを勧誘したのだが断られたという経緯があった。
エイレンは当時から交際していたイヴェットのために落ち着ける場所を探していて王都を離れる予定だったからだが、そんなことはスカーンは知らない。
コケにされたと怒っていたのだった。
「ついにこじ開けられたドア!エイレン選手の大ピンチだ~~~!」
突入するスカーンは怒りの形相でエイレンに剣を叩きつける。彼はエイレンが回避位すると思っていた。しかし……。
「スカーン選手の剣がエイレン選手にクリーンヒット!!!」
「なっ……」
あっさりと攻撃が当たったことに驚くスカーン。
しかし、その瞬間エイレンを青い光が包み込む。
「なんだ!?」
あまりの光の強さに目を覆うスカーン。
光が収まるとそこには……無傷のエイレンが立っていた。
「なぜだ!?」
「あ~そっか。家さんの」
「家だと?魔法は無効化しているはずだ!」
『ふふふ』
「「えっ?」」
その無効化の仕組みは魔力が魔法に変わるところで魔力を霧散させるというのはわかっているのだ。
この仕組みだと、体の外に出た魔力にしか作用できない。つまり体内魔力には影響を及ぼさないのだ。
だから、実は回復魔法や肉体強化の魔法は使える。
私がエイレンにかけたのは時魔法で時間退行を引き起こして傷をなかったことにする魔法だ。
その効果は空間に魔力をまきちらして引き起こすものではなく、エイレンの体に作用している。
つまり肉体強化などと同じような魔法ということだ。だから
そしてな……。
『カーテンレールホイップ!!!』
「はぁ???」
カーテンレールが鞭のようにしなってスカーンとやらに襲い掛かる。
「おぉっと、どうなったんだ~?剣で斬られたと思われたエイレン選手が無事で、逆にスカーン選手が家型魔道具の外にたたき出されたぞ~!!!」
私はスカーンをカーテンレールで叩いて窓から外にはじき出した。
「家さん!?なんで!???」
『エイレン、無事だったな。この私が来たからにはもう安心だ。さっさと"魔力の指輪"を入手してイヴェットに渡すぞ!』
「えぇ~~」
なんだよ、何か不満なのか?
まぁいい。もう来てしまったのだ。精一杯暴れてやろう。
『前に格闘技について聞いてきたな?』
「えぇ、今?確かに聞いたけども」
『見せてやろう。これが私の格闘技だ!』
バタン!
「うわあぁあぁぁあああぁあぁぁぁぁああああああああ」
突如として玄関のドアを開けて回転する私。
あっ、魔法が発動できないから内部への影響を消せないんだった。まぁいっか。
そしてスカーンとやらに突っ込み、ドアを叩きつける。
「ぶほぉおぉおわ!!!」
クリーンヒット!
「おぉ~~~。魔法が使えない中、家型魔道具は回転して玄関のドアをスカーン選手に叩きつけた~~~~何だこの攻撃は~~!!」
ドアによる一撃でスカーンは吹っ飛び、気絶した……。
完璧だ!
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