第17話 ありがとう

「お風呂もあるの?!」

 またまた驚く亜美さん。

「好きなだけ、お湯使って下さい!」

 亜美さんには一ヶ月ぶりの風呂、姉ちゃん達とと同じくらい異世界生活をしていたようだ。

「よし、一緒にはいろう。」

 家庭の風呂だ。大人が2人でもうギリギリ状態なのだが、ソノちゃんが、ヒナタさんとサチちゃんを選び、強制連行させた。

 アイちゃんは大人しく寝ている。

「ごめんなさい!」

 ソノちゃんが謝った。

 姉ちゃんの目の前で、俺に頭を下げた。

 モールで怪物に襲われ、俺を切り捨てて逃げようとしたこと、あれを気にしている。

 俺に頭を下げつつ、多分、姉ちゃんもに謝っている。

「いいえ、」

 と、怒り出す姉ちゃん。

「謝るのはアンタよ、レイ!」

 怒りの矛先は俺だ。

 そう、あれは俺が独断で行ったこと。ソノちゃんを恨むどころか、あれで良かったと思っている。

 姉ちゃんが、俺の襟首を掴んだ。

 ガチだ。ガチの怒りだ。

 ……それも分かる。

「ごめん……姉ちゃん……」

 ホントにごめん。

 そのまま姉ちゃんは、

 俺を……強く抱き締めた。

「もし、あんたが殺られていたら……

 父さん母さんに、何て言えばいいのよ……」

 ホントにごめん……

 でも……やっぱり俺は、誰かが死ぬのは見たくない。殺られるなら一番先がいい。

 姉ちゃんが行方不明の間の家の中、あの暗く沈んだ空間に、俺は帰りたくない。帰るなら姉ちゃんと一緒がいい。

 でも、ありがとう、姉ちゃん。

 最後まで諦めなかった。俺を見捨てなかった。

 ホントにありがとう……


 亜美さんの背中を流す、ヒナタさんとサチちゃん。

「よし、3人入っちゃおう。」

 ボディソープの泡を流すと、2人を誘導し、狭いバスタブに体を沈めた。

 体育会系全開、2人は逆らえない。

 お湯がたくさん溢れ、風呂内は超窮屈、密集状態。

 その真ん中で、2人の肩を強く抱いて、

「ありがとう。」

 亜美さんが、静かに呟いた。

「生きててくれて、ありがとう……」

 涙を流していた。

 2人もつられて泣いた。


 剣持亜美が転移した時、いきなり目の前に魔物がいた。

 いきなり2mを超す未知の生物と遭遇。

 当然、怯んだ……でもそれが、明暗を分けた。

 ちょっと遠かったが、見える距離に上官がいた。彼女も同時に転移した。もう1人の行方不明の自衛官だ。

 上官が襲われた。そこで初めて、亜美は戦う気になった。彼女を助けに行くには、この立ち塞がる魔物を倒すしかない!

 すると、

 ステータス画面が開いた。

(何だ、これは?)

 自分の特殊能力が宙に書いてある。

 あり得ない光景。あり得ない能力。

 ……でも、あり得ない生物と戦うにはあり得ない力が必要だ。

 腰にあった玩具の刀を抜いた。

 鋭利な金属の刃物に変化した。鞘も同様に変わった。

 あり得ないことが起こる空間だと認識した。

 ただ、最初の戦闘としては大物過ぎた。

 上官の元へ駆けつけ、彼女を襲っている魔物も倒したが……間に合わなかった。

 自分の腕の中で、上官は息を引き取った。

 しかし……小さな奇跡が……

「……聞こえま…すか?!」

 上官の通信機から声、

 突然消えた2人を探す声が聞こえた。

 上官の能力は『レシーバー』異世界と現実世界の間で通信できる能力だった。

 その上官はもういないが、彼女の能力が不完全ながら、彼女の通信機に宿った。

 現実世界と連絡を取る。

 たまにしか繋がらないが、起きていることをそのまま話す。

 ……信じてもらえない。

「今すぐ戻れ!」「帰還せよ!」それしか返って来ない。

 やがて、「投降しろ!」が増えた。

 交渉役としてヒナタの父親が来るまで、剣持亜美は孤独だった。

 そんな中、第二の遭遇。 

 女の子が、襲われている?!

 またも、距離があった。

「こっちに走って!」

 自分も全力でダッシュした。

 幸い、女の子と追う魔物に距離がある。

(間に合う!)

 身体をパワーアップして全力で走る!

 だが、

 もう1体、邪魔するように、魔物が飛び出てきた。

 2、3撃で倒せた。

 が、

 女の子は前方に飛び出てきたその魔物に驚き、横道に進路を変えてしまった。

 ……

 またも、間に合わなかった。

 虚しさ……

 そして知らないことだが、剣持亜美を引き当てた『所有者』(プレイヤー)』が、入手した他の2人が即消えたことで諦めてしまった。

 彼女は放置された。

 ……それを利用したのが『運営』、

 ビッグイベントの成功報酬として、他のプレイヤーに与えようと考えた。

 キャラガチャといえど、生きている。そこがスマホアプリとは違う。

 同じキャラが何度も当たる訳でもない。消えたら二度と復活しない。


 そして……亜美さんは、俺たちと合流した。

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