第8話 標的
「ライちゃん、下がって!」
狙われているのは自分だ。
楯無良器(リョウきゅん)は『直感』で覚った。
散歩やジョギングにもよく使われる広い公園。日没間際から、途端に人気が無くなる公園。
(何かいる??)
『直感』が働いてしまった。
車を停めて、運転席の後輩『扇 ライチ』も同行。公園内は広いので、彼女もついて来てしまった。
罠だった。
目の前で、男が魔獣に変身した。
「男だけ、こっちに来い!」
魔獣が手招きをしている。
楯無刑事は少し安心した。
喋っている。意識のある変身異能力者の方が、暴走する魔獣と化した変身異能力者よりは組みやすい。
その安心を即座に打ち消す不安、
(姉さんの『風林火山』が使えない?!)
『山』を使う準備をしようとしたが、発動しない。現れない。
❝リョウきゅん♡無事?!❞
耳のインカムから姉の声が聞こえ、ホッとしたリョウきゅん。
真っ先に、姉に何かあったかと心配していた。
❝OK、そっちが見えるわ。❞
『林』がこちらに残っていたことで、姉と視界が共有できた。
❝発砲を許可する!❞
管理官から指示が出た。
許可が無くても、楯無刑事は発砲できる。普通の刑事と違い、平時から拳銃を持ち歩いている。
この発砲許可は「射殺」の指示だ。
『直感』を使って発砲する楯無刑事は、狙いを外さない。足や腕、相手の行動を制限するだけの発砲ができる。
「射殺」しなければ危険な状況、そういう意味の発砲許可だ。
「発砲を許可するだぁ?!」
魔獣に変貌した男が叫んだ。
リョウきゅん以外にも聞こえる声での発砲許可、後ろの後輩ライちゃんも銃を抜いている。
それが、魔獣男にも聞こえた。
結界が張られた。
脳筋タイプかと思いきや、結界を使える異能力者だった。
学校の教室ほどの空間に、リョウきゅんと魔獣男だけが入っている。何も無い場所に透明の巨大な水槽があるイメージ、その中で楯無刑事と魔獣が向かい合っている。
楯無刑事は銃を構えている。
魔獣男は頭を隠すように、大きな両腕を顔の前に構えている。
黒い岩のような巨大ボディビルダー、そこに人間の顔がついているような異能力魔獣。
❝あの、ブサイクな顔を撃ち抜け!❞
管理官から指示が出た。
異能力で変貌したのは顔から下、顔を残して魔獣化した。
❝超ブサイクな顔を撃ち抜け!❞
顔は変身前と変わっていない。
指示ではなく、挑発?
ダン!ダン!
2発の銃声。
発砲したのは後輩ライちゃん。斜め後ろから頭を狙ったが、結界に弾かれてしまった。
「バカめ!物理を弾く結界だ!」
魔獣が勝ち誇る。
❝バカは貴様だ!❞
頭が弱点だと教えているようなものだ。
しかし、
楯無刑事は発砲できない。
命中しない発砲はできない。それが『直感』を使った射撃。無理に撃っても当たらない。それが分かっているから発砲できない。
「なぶり殺してやるよ!」
魔獣男が、顔を覆いながらゆっくりと楯無刑事に近づいていく。
それが、
魔獣男の最後の言葉となった。
倒れる魔獣男、
脳を撃ち抜かれて絶命している。
(どこからだ?!)
遠くで見守っていた小柄な男が周囲を探る。
「さすが、東郷先輩♡」
結界が解けたので、楯無先輩に近づきながら、見えない距離にいる先輩を褒めるライちゃん。
(あんな場所から?!)
射殺現場から400m以上は離れている。その建物に狙撃手はいた。
(しかし、)
小柄な男が笑みを浮かべた。
公園や集合住宅の多い場所、車で向かうには大きく迂回せざるを得ない場所にいる。
「獲物、見つけちゃいました!」
そう言うや、小柄な男の姿が消えた。
後ろにいた、大柄の何かと共に……
ライフルを仕舞おうと、エレキギターのケースを開けた時だった。
立体駐車場にいた長い黒髪の女性。
警察の制服だと目立つので、常に私服で行動している。楯無管理官直属の部下。ライちゃんの先輩。名前は『東郷 ヒトミ』。
ハッと気配に気付き、仕舞いかけたライフルを慌てて取り出したが、
そのライフルを、真っ二つにされてしまった。
ブーメランのような武器だ。また持ち主へと戻っていった。
武器の戻った場所にいたのは、1人は小柄な男、まだ若い、だが、400m以上を瞬間移動したことになる。一緒にいた何かと共に。
そのもう1人?は大柄の魔物。こちらが武器を放った敵、人と蜘蛛とのハーフのような化物。鈎爪をブーメランのように飛ばして相手を襲う。
東郷先輩は拳銃を抜き、立体駐車場の太い柱の一つに隠れた。
ライフルはもう無いので、拳銃で応戦。
柱に隠れたまま発砲。
身を全く乗り出さず、完全に隠れたままで発砲している。
これが彼女の異能力(トリック)、
『特殊射撃』。間の物体を貫通して射撃できる。物理結界を貫通して魔獣男を射殺した異能力。
そして、視認した標的に命中させる異能力……なのだが、
柱に隠れての発砲、敵は見えていない。
「どのみち、そんな銃ではコイツは倒せませんよ。」
小柄な男が嘲笑った足下に、銃弾が跳ねた。
「おっと、ボクは戦闘は苦手なんで、お先に消えますね。」
独り言のように呟く小柄な男。
「では、犯行声明の通り、部下を1人、殺しちゃって下さいね。」
蜘蛛男に後を託し、小柄な男は瞬間移動で消えた。
最初から、こちらが標的の本命だったようだ。
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