第26話 クサカ

 東西南北、四方を守る四聖獣を召喚し、その力を中央の麒麟に重ね、悪魔を倒す力とする。その場所が国立競技場、その協力者が(殺された)5人の議員。

 クサカの体に宿る『悪魔』に、この計画が漏れてしまった。クサカの記憶と思考を持ち、黄川田議員の記憶(心臓)を持つ悪魔に。

 しかし、

「ハハハハハハッ!!」

 豪快な高笑い。

 やっと普段の楯無キドラに戻った。

「……代わりに自分が召喚を行い、聖獣の力を手に入れる?」

 復活した態度4L、悪魔にやり返している。

「つまりは、

 貴様は完全体じゃないってコトだよなぁ?」

 人の力では倒せない悪魔、しかし完全ではないのなら、

(まだ、倒せる!!)

 道はある!!

(クサカが未熟だった……いや、

 クサカが悪魔召喚の専門では無かったからだ!)

 望みを繋ぎ、次の対処を考えている管理官。

 主力のメンバーは、今ここに揃っている。

 

 クサカ ショウマ。本名は不明。年齢は25歳(自称)。

 生まれはおそらく、いや、楯無キドラの推測通り、陰陽師系の家柄、管理官と同種の家系だ。

 嫡流では無いが、甲斐源氏(武田信玄)を祖先に持つ楯無家。陰陽師系でも『守護』『召喚』の力を受け継いできた家系。陰の家柄としては名門。

 一方のクサカの家系は、『変化』の力を生業とする、無名に近い家柄。

 代々の職は、貴族のご機嫌取り。

 飼い猫、飼い犬など、貴族のペットを人の姿に変える、ただそれだけの力を持つ流派。

 数分間、長ければ小一時間、ペットを人間の姿にできる。喋れる訳ではない。姿を変えられるだけの一族。

 それでも、子犬、子猫を子供の姿にできれば、貴族は喜んだ。その報酬で生きてきた。

 しかし、実際の依頼の多くは、捨て猫、捨て犬のメスを、人の姿にして犯す手伝い……なんとも惨めな陰陽師の一族。

 その末端の陰陽師系に、1人の天才が生まれた。

 獣を人に変えられるなら、人を獣に変えられるのでは?

 研究を重ね、成功した。

 人の知能を持つ獣人。天才の野望は膨らんだ。

 ……やがて、悪魔召喚を考えるほどに。


 悪魔が右肩のカラスに、魔法を使った。

“カァー!カァー!アー!あ、あ、

 ……やっと喋れるようになりました。”

 カラスの体のクサカが話しだした。

❝少しの間ですが、存分に会話をして下さい。

 奴らへの攻撃より優先して、話せるように計らったのですよ。❞

「……悪趣味だな。」

 悪魔とクサカの会話に割って入る管理官。

“まだ勝てる気でいるようですが、残念ながら、完全体ではなくても、悪魔に人間の攻撃は通じませんよ。”

 カラスのクサカが楯無キドラを見下す。

「残念なのはお前だ、クサカ。」

 勝ち誇った顔ではなく、呆れ顔で返す。

「体を貸して暴れても、お前だけは殺さない。

 ……どうせそんな契約を結んだのだろう?」

“おやおや、鋭いですね。”

 まだ勝った気でいるクサカに、

「バカな奴だ……

 その体、もう返って来ないぞ。」

 もう笑う気にもなれない管理官。

「お前は一生、カラスのままだ!」

 トドメの一言。

 クサカカラスが黙ってしまった。

❝おい!おい!おい!おい!❞

 クサカの姿の悪魔が怒り出した。

❝悪魔の一番の楽しみを取るんじゃねえよ!!❞

 目が赤く光りだし、顔つきが険しくなる。

❝人間が絶望する瞬間の宣告、それが悪魔の楽しみなんだよ!!❞

 クサカカラスは黙ったままだ。悪魔が否定してくれるのを期待していたが……無かった。

「カラスの表情など分かるまい。」

❝心が折れる色を見て楽しむんだよ!❞

 悪魔の怒りの矛先は、管理官へと向けられた。

❝お前らの絶望を見るために、召喚の儀式に招待してやろうと思っていたが、お前はここで死ね!

楯無キドラ!❞

 戦闘モードに入るクサカの姿の悪魔。ドス黒いオーラが体を包んでいく。

❝ほら、お前はどっかへ行け、もう用済みだ。❞

 右肩のカラスを払った。

「クサカ、こっちに来い!」

 楯無キドラがカラスを呼ぶ。

 ちょっと一瞬嫌な表情を見せた悪魔だが、

❝まあ良い。❞

(カラスを狙わず奴らを攻撃するなぞ、容易いことだ。)

 カラスを警察庁チームの方へ黙って行かせた。

 このカラスの姿のクサカを殺したら、契約違反になり、悪魔は煙となって消える。

 しかし、微々たること。仮に向こうの手駒になったとしても、たかがカラス、問題ない。

 クサカが管理官の背後に隠れたのを確認し、

❝さて、力の差を教えてやろうか。❞

 ゆっくりと悪魔が近づいてきた。

 警察庁の建物には結界が張られている。異能力者の襲撃を跳ね返す結界だ。

 それを、

 薄いガラス板を壊すかのように、簡単に破壊し、悪魔が歩いてくる。

「『山』!」

 楯無管理官の結界、風林火山の『山』が張られた。今まで誰も寄せ付けなかった強力な結界だ。

 管理官の目の前、後ろの全員を守るように見えない壁が造られた。

 しかし、悪魔には見えている。そこへ近づいてくる。

「『火』!」

 火柱が、悪魔を包んだ。風林火山の『火』だ。

❝温いぞ、温い。❞

 笑いながら悪魔が尚も近づく。

「御火(ミカ)!」

 管理官の隣で、香取ミナミも異能力を使った。炎が合わさり強化される。

 しかし、

 笑っているだけ、まるで効いていない。

 やがて、炎は消えた。

「『風』!」

 突風が悪魔を襲った。風林火山の『風』だ。

 ……だがこれも、全く効果がない。

 湖西マシロが剣を抜いた。

「いや、マシロ、お前は切り札だ。」

 楯無キドラが女剣士を止めた。

「あの戦闘モードには時間制限がある。

 モードが解けたら、全力で斬り込め!」

「分かりました。」

 剣を一旦おさめ、居合の構えのまま、マシロは待機した。

 東郷ヒトミの銃弾も、扇ライチの乗り物も、当然悪魔には無力、ここには呼んでいない。勝手に来て、後方から見てはいるが。

❝終わりかな?❞

 悪魔が接近、山結界の前まで来た。

 バレーボールのアタックよりも弱い力に見えた。

 上から普通に振り下ろした悪魔の右手が、

 絶対無敵のはずの『山』、見えない壁を簡単に壊した。

 その右手の勢いは、

 そのまま、楯無キドラの顔面を直撃?!

 ……全員の血の気が引いた。

 ……

 直撃の直前で、

 悪魔の右手はピタリと止まった。

“カァー!”

 多妻木アサヒが手にしたカラスが、楯無キドラの頭上に添えられていた。

 間一髪、

 ギリギリで助かった。

「『山』!!」

 見えない壁が再び張られ、その弾みで悪魔の右手は跳ね返された。

 が、

 悪魔はまだそこにいる。

 そして笑っている。

❝器(媒体)に何ができるのです?❞

 弟、楯無刑事を笑う悪魔。

 そう、今『山』結界を張ったのは楯無良器(リョウきゅん♡)だ。

 姉の能力を中継する能力者。

❝劣化コピーなど、無いも同然!!❞

 今度は右ストレートを繰り出す悪魔。

 カラスが邪魔にならないよう、一直線に楯無キドラの体を狙った。

❝『哀』の無い女の、最後の感情が『哀』、笑えるではないか!!❞

 喜怒哀楽の『哀』を取り、激しい感情を残した名前『喜怒楽(キドラ)』。

 それ故に横柄、それ故に態度L、いや態度4Lだった彼女の最後、

 ……それが絶望の『哀』だと悪魔は言った。

 そして結界を物ともしない悪魔の一撃が、

(?!)

 ……

 見えない結界『山』に阻まれた?!

(どういう事だ?!)

 さっきの攻撃より、遥かに強力な右ストレートだった。

 考えられることは

 ……?!


 リョウきゅん♡の結界『山』は、

 楯無キドラよりも、強力??!!

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