第12話 アジトにて

「成果が無いではないか。」

 ここは696(ムクロ)団の本部、幹部連が集う部屋。

「情報収集の方は、まあ順調です。」

 十数名いる幹部、ここにクサカの味方はいない。警察庁異能力チームへの対策(戦闘、情報収集)を任されたのは、クサカが異能力者を造り出せるから。

 しかし、新参者でもある彼を良く思う者は少ない。

「動いては負け、一度も勝てず……そう見えるがな。」

「変身系の異能力者なら造り易いのですが、相手の能力に合わせた力を与えないと、まず勝てません。」

「なら、何故そうしない!」

 そうしている(情報収集は順調)と言ったばかりではないか。

 舞踏会の仮面から、呆れ顔が見えている。

「だいたい貴様!勝手にムクロ団などと付けやがって!」

 そう、呼び名のないこの集団に、クサカが勝手に命名した。

「『言霊』(ことだま)と言うやつですよ」

 仮面を付けてても、明らかに分かる嗤いをした。それが逆なでする行為だと分かっていたのに。

 喧々囂々、やはり集中砲火を浴びた。

「……まあ、潮時でしょう」

 クサカが立ち上がった。

「あとは皆さんでご自由に。私は抜けます。」

「勝手に抜けるなど、許されると思っているのか?!」

「皆さんはどうしたいんです?

 政府を倒したい?

 日本を混乱させたい?

 異能力で存分に暴れ回りたい?

 ひっそりとコソコソ隠れて暮らしたい?

 ……全然見えて来ないんですよ。皆さんの思想が。」

「アジトを知られている。帰す訳には行かない。」

 幹部の数人が立ち上がった。

「おっと、この部屋の飾り付け、失敗しましたね。」

 広い会議室に丸いテーブル、雰囲気を出すために壁際に西洋鎧のオブジェが多数。

「16体の鎧、全て私の部下とすり替わってます」

 丸テーブルを囲んで座る幹部たち、それぞれの後ろに数人の腹心、更にその後ろの壁際に等身大の武装した西洋鎧のオブジェが均等に16体、

「戦闘になれば、間違いなく多数の死者が出ると思いますよ。」

 と、牽制してから

「このまま去らせて下されば、その鎧戦士は差し上げます。もちろんこのアジトの場所も秘密にします。」

 駆け引き(トリック)を持ちかける。

 そして、場が静まってから、

「シュン君、貴方はどうします?」

 この場で唯一のお気に入りの異能力者、小柄な男に声を掛けた。

 数少ない自分の腹心は、今日はここに来させていない。

「貴方が来てくれると、歩いて帰らなくて済みます。」

「行くなよ、シュン。」

 彼の属していた派閥の幹部が制したが、

 シュンの姿が消え、

 クサカの隣に瞬間移動した。

「ボク、退屈なのは苦手なんですよね。」

 だから他派閥でも、クサカに協力していた。

「では、シュン君、お願いします。」

 彼の異能力で、クサカとシュンはこの場から消えた。


 クサカは2つ、嘘をついていた。

 1つは西洋鎧、細工もすり替えもしていなかった。

 もう1つは、


「絶対に罠ですよね?」

 クサカのいないムクロ団(仮名)のアジトを、警察庁と警視庁のチームが囲む。かなりの大人数だ。

 クサカ本人からの密告。つまりはこれが2つ目の嘘。

❝私はもう用のない場所です❞

 メッセージ付きでアジトの地図が送られて来た。

「クサカに利用されているのでは?」

 それは100%承知の上での殴り込み。

 メッセージには幹部のリストもあった。手配中の異能力者の名前も多数あった。

 場所は私有地。広大な敷地の大きな屋敷。

 クサカの密告で令状も取れた。

「んーなもん、見せなくていい。」

 インターフォンを押す気などない、楯無管理官。直々に現場指揮を取る。

 そして、先手はなんと、

 ドーーーン!!

 大爆発の音、

❝屋敷が燃えてます!❞

 監視チームからの報告。

 門を壊して突入すると、

 燃える屋敷から、大勢が逃げ出てくる最中だった。クサカは多数の爆弾を屋敷に仕掛けていた。

(屋敷内で戦われちゃ、異能力が見れませんからねぇ)

 クサカの策略(トリック)で、大激突は始まった。

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