第30話 襲われた警察庁

 大群がゆっくりと迫ってくる。

 2m級の魔獣ノ群れ。大きさだけで言うと、もっと大きな相手は何度も見た。

 しかし、全員が鉄板装甲のような皮膚をしている。パワードスーツ、あるいはロボットのような奴が30体。

 対する警察庁異能力チームは、

 『特殊射撃』の東郷ヒトミ。

 『液状化』くノ一の真田クノ。

 『ライセンス』の扇ライチ。

 それと……秘書官の須山モトカ……のみ。

 あと呼べるとしたら、

 『ファントム1号』とその司令官だけ?

 その2人は今回は無力なので呼んでいない。

 警察庁特命係は、30人近い大所帯だが、その多くは記憶操作担当など、非戦闘員なのだ。

 東郷ヒトミが狙撃するが、

 魔獣の群れには全く効いていない。

 拳銃ではなくライフル弾、それも東郷が撃てば威力が増すのだが……効いていない。

 牽制にもなっていない。

 だから、敵に余裕がある。ゆっくりと近づいて来る。

「結界は壊れちまったんだってなぁ。」

 嘲笑いながら、近づいてくる。

 常時警察庁を護っていた結界は、悪魔カオスによって壊された。

「今、降伏すれば、命だけは助けてやるぜぇ!」

「本当に、命だけだがな!」

「どんな悲鳴が聞けるかなぁ!」

 下卑た笑い声を上げながら、迫ってくる。

 待ち受けるのは、か弱き女性が4名。

 火力が最も高いのが、全く歯の立たない東郷ヒトミ。

 その絶望的な女性たちの戦闘に立ったのは、

「お前たちこそ、今、降伏すれば、命だけは助けてやるぞ!」

 まるで楯無管理官のような強気な発言、強気な陣頭指揮、

 留守を任された秘書官、須山モトカだ。

「モトカさん……」

 不安そうに声をかける扇ライチに、

「『軍師』、と呼びなさい!」

 まるで管理官が乗り移ったような強気姿勢。

 腰に剣(サーベル)を帯びている。戦闘用ではなく、戦の軍配のような指揮棒の役目の剣だ。

 その剣を抜いて、ビシッと敵を指し、

「さあ、返答しなさい!」

 格好は決まったが、

「ぎゃーっはっはっはっ!!」

 大笑い、バカ笑いされている。

 耳に付けたインカムで指示する軍師。

「開始!!」

 彼女の号令と共に、

 以前結界があった辺りの地面から、

 激しい噴水が湧き上がった。

 最初は驚いていた魔獣連中、

 しかし、ただの噴水だ。

 勢いは凄いが……何も害はない。

 またバカにしようとした時、

 その噴水の水が、突然凍った?!

 氷の壁、それも高く分厚い壁が出来た。

「ライちゃん、久しぶり♡」

 後ろからハグされる扇ライチ。

「氷川先輩?!」

 知床で流氷を数えているはずの先輩が現れ、困惑するライチ。

「流氷は大丈夫なんですか?」

 管理官に逆らった心配をする後輩に、

「ごめん……あれ、嘘。」

 実は知床などに行ってはいない。

 ただ、自分自身、それが嘘だとついさっき知った。記憶操作され、本当に知床で1人寂しく過ごしていたと思っていたのだ。

 では、本当は何を?

 異能力の特訓をしていた。

 資質はあったが成長がイマイチ、管理官は思い切って猛特訓させた。敵に悟られないように、訓練が終わると知床で作業した記憶と入れ替わる。そうやって磨いた異能力(トリック)が、

 『氷結』。そのまんま、凍らせる能力。

 『氷川 輝良々(キララ)』。物体を凍らせる。水を凍らせる純度はかなり凄い。

 厚さ1.2mの氷の壁が出来上がった。美ら海水族館の大水槽のガラスの2倍の厚さだ。

 それなのに、向こうが透けて見える!

「しゃらくせえよ!」

 1体が突進してきた。

 透明な氷の壁に跳ね返された。

 透明なのは純度が高いからでもある。空気が入ってない氷だ。

「ビンゴ!!……で、ござる。」

 跳ね返った魔獣が、地面に水没した。

 真田クノの異能力『液状化』。地面を液体に変えられる。時間がないと範囲は狭くなるが、陣頭指揮の秘書官、いや軍師の前に作っておいた。

 深さは80cm、落ちてすぐ固めた。

 この魔獣の能力なら脱出可能だろうが、牽制にはなった。

 次をためらっている間に、

 噴水が足され、氷結で厚さが増す。

 ……猛特訓の朝が来る度に、氷川キララは思った。

(2時間毎に流氷の写真を1人撮り続ける……そんな孤独と虚しさに比べれば、)

 猛特訓など耐えられる!!

 朝起きると本来の記憶に戻り、猛特訓が終わると偽りの記憶、知床で過ごしている錯覚を事実と誤認する。

 そうやって繰り返した日々の成果が出ている。管理官のスパルタが実を結んだ。

「ライちゃん!ジープよ!」

 軍師の次なる指示が出た。

 サーベル剣を振るう須山モトカ。

 ここにも、管理官の言霊が秘められている。

 剣(+)須山モトカ……そのアナグラムは、

「その剣を持てば、お前は武田家の名軍師の活躍ができる!」

 ヤマモトカ・ン・ス・ケ

 その名采配が炸裂する!

 『ライセンス』。乗り物を(無事故)で乗りこなす能力と、地下倉庫から任意の乗り物を傍らに出せる能力。

“道路封鎖、完了しました。”

 軍師モトカのインカムに通信が入った。

 これで付近の交通は無くなる。一般人は誰も来ない。

 扇ライチがジープを出した。

 運転席にはライチ、後部座席にも1人飛び乗る。

 いや、後部座席はない。

 ジープの後部には、

「機関銃?!」

 透明な氷の向こうで、魔獣の1人が視認した。

「残念ね……機関砲よ!」

 機関銃と機関砲の違いは、簡単に言うと、弾丸の大きさ。つまりは破壊力!

 ゴルフボールと砲丸くらいの差、簡単に言えばそんな感じ。

 そして砲手はもちろん、

 『特殊射撃』の異能力の東郷ヒトミ。

 弾丸の威力を高める力と、視認した標的に命中させる力、

 分厚いが透明な氷、向こう側がよく見える!

 ヒトミが機関砲のトリガーを引いた。

 もう1つの彼女の特長は、

 間にある物体を貫通して射撃できる!

 連射!連射!連射!

 マシンガンのように、マシンガンより大きな弾丸(砲弾)が飛ぶ。

 その全てが敵に命中、阿鼻叫喚の悲鳴が、

 ……悲鳴は分厚い氷の壁と、機関砲の発射音で、それほど聞こえはしなかった。

 向こうは悲鳴を聞きたがっていたが、こちらは全く聞きたくない。

「素直に降伏すれば良かったのよ。」

 全滅した敵に向かって、軍師がポツリと呟いた。

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