第29話 召喚の始まり

満月の光が、召喚の力を得る中央へと集められる。その中央にいるのは、悪魔『カオス』だ。

 しかし、

❝……何?!❞

 光が逸れている??

 その1点集中の光は?

 まるでスポットライトのように、グラウンドの南の隅の方に立つ、

 楯無キドラへと集まっている。

(バカな……?!)

 召喚の詳細を知っている。間違ってなどいない。中心人物だった黄川田議員の心臓から真実を読み取ったのだ。

 驚いている悪魔カオスに、

「記憶操作のトリックさ。」

 楯無キドラが饒舌になる。

 彼女の祖父の忠臣だった5人。聖獣の名を与えられ、役目を負った5人。議員の道を進んだ5人。

「我々は、信玄公の子孫の『影武者』となるのです。こんなに名誉なことありません。」

 そう言って、記憶を改ざんされ、身代わりの役目を生きた5人。

 管理官が、涙を飲んで見殺しにした5人。

「さあ、召喚を始めよう!!

 言霊を使う我が一族の力、思い知れ!!」

 彼らの死が無駄ではないことを、今から楯無キドラが証明せねばと意気込む。

「風林火山の『風』!」

 満月の光を浴びる楯無キドラが指すのは、

 右隣、彼女の真西に位置する白装束の剣士。

「湖西に隠れるは虎西(こにし)、マシロは白、

 西の白き虎、それがコニシマシロ!

 それを守護する霊獣は『白虎』!!」

 湖西マシロの体内から、白き虎のような幻影が浮かび上がった。

「風林火山の『林』!」

 指し示すのは左隣、管理官から真東、

 立っているのはドレスのような戦闘服の女性。

「多妻木は竜巻、アサヒは東、

 東の龍、それがタツマキアサヒ!

 それを守護する霊獣は『青龍』!!」

 多妻木アサヒの体内から、青き龍のような幻影が浮かび上がった。

「風林火山の『火』!」

 指し示すのは後ろ、管理官から真南、

 そこにいるのは管理官を崇拝する女。

「香取に隠れるは火鳥(かとり)、

 南の火の鳥、それがカトリミナミ!

 それを守護する霊獣は『朱雀』!!」

 香取ミナミの体内からも、赤い霊鳥のような幻影が現れた。

「風林火山の『山』!」

 楯無キドラが前方、真北を指す。

 そこに立つのは彼女が溺愛する弟。

「楯無 良器(りょうき)、」

 良き器、姉の媒体(中継役)として与えられた名はフェイク、祖父による誘導(トリック)だ。

「りょうきの真の名は龍亀(りょうき)!

 蛇が1000年生きて化した龍と亀!」

 坂本龍馬の名でも分かるように、(昔はわりと)龍を龍(りょう)と読んだ。

「龍と亀が表すは『玄武』、

 そして我が一族の祖『武(田信)玄』公に隠れしも『玄武』、嫡男に代々継がれし霊獣!!」

 楯無リョウキの体からも、龍と亀の合わさりし幻影が現れた。

 そして、4つの幻影が4人の守護者の頭上で色濃くなり、4体の聖獣が現れた。

 四方を護る『四聖獣』だ。

 四聖獣は、最初からこの4人に宿っていた。楯無キドラこそが、4人の力を借りて異能力を使う媒体だった。

 弟の結界の方が強力なのは、当然だったのだ。

 しかし、その事実を4人は直前まで知らなかった。この4人も記憶操作されていた。

 全てはこの日のため、この召喚を成功させるために。

❝ぬうう……❞

 ここまで欺かれていたことを、クサカの記憶を共有する悪魔カオスが悔しがる。

「まだ終わりじゃないぞ、カオス!!」

 雄弁で高圧的、態度4L管理官の名調子はまだ続く。

「楯無 喜怒楽(キドラ)。喜怒哀楽の『哀』を除いたキドラ?」

 感情の激しさは、その名の通り育ったようにも思えるが、

「私の名は、もっと単純だ!

 キドラ、『キ・ド・ラ』ではない『キ・ドラ』だ。」

 そして不敵に笑い、

「キ・ドラとは黄色いドラゴン、『黄龍』!!」

 4人の中心に立つ、楯無キドラの体内から、黄色い龍の幻影が現れた。

 召喚は成功した。

 幻影を宿し、言霊で成長させ、影武者がお膳立てし、その影武者は討たれてしまったが、

 ご丁寧に、悪魔が影武者の力を残したまま、召喚の場を整えてくれた。

 秘め事(トリック)で見事に悪魔を欺いた。

 楯無キドラの頭上の黄龍に、

 四方の四聖獣の力が注ぎ込まれ、

 はっきりとした姿、聖獣『黄龍』となった。

 麒麟は黄麟、黄龍とも同一視される聖獣。

 龍である利点は、麒麟よりも戦闘向きであること!

 黄龍が悪魔に向かって行った。

 それを迎え討つ悪魔カオス。

 両者激突!人知を超えた戦いが始まった。

(これは……?!)

 黄龍に苦戦する悪魔。

(強い……?!)

 攻撃が弾かれる。魔法のような光弾、炎、雷撃、多様な技を使うカオスだが、黄龍に効いていない。

 守護聖獣の護りは堅い。悪魔といえど、倒し難き相手だった。

 苦戦する悪魔カオス。

 しかし……

(これは……)

 カオスが笑いだした。

(これは倒せない……)

 確信した。

(しかし、こちらも敗けはしない!)

 撃退する力は持っていても、破壊する力は強くない。

 ガチの黄龍と戦えば分からないが、

(所詮は人間が召喚したモノだな……)

 悪魔に余裕が出来てきた。

 勝負はつかないだろう……

 しかしそれは、悪魔カオスの勝利だ。

 このまま時間が経過すれば、黄龍は消える。

 今だけの契約だから強い召喚獣が呼べたが、長時間は持たない。0時を回る頃には消えている。

❝ハハハハハハ!!❞

 大声で笑いだした悪魔カオス。

 そして思い出した。

❝そういえば、クサカの残りの手持ちに細工して、警察庁を襲わせたんでした。❞

 主戦力が不在の中、異能力で魔獣化した連中が、警察庁を襲撃している?!

 その数、ざっと30体?!

❝部下も全て、今日で終わりですかねぇ?❞

 悪魔の高笑いが響いた。

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