第18話 炎対決

 1都3県の知事邸、襲撃する担当を、696(ムクロ)団のクサカは「占い」で決めたと予告に添えた。事実だろう。占い、予知能力的な異能力者(トリッカー)が仲間にいると見ていい。

「なら、こちらは、アミダで決めるか。」

 楯無管理官の言葉も事実だった。

 アミダを先に作り、上にメンバーの名前を管理官が適当に書いた。それを伏せ、弟リョウきゅん♡に下に場所を書かせた。弟の『直感』に頼ったのだ。

 そして、神奈川県知事邸前。

 ヤバそうな炎の髪を靡かせる炎使いと、気質が「楯無管理官に一番似ている」、それを褒め言葉だと思っているメンバー、香取ミナミが激する。

 彼女の能力は『御火(ミカ)』。強力な炎。警察の制服に、肩までかかるウェーブの黒髪、キツめの美人顔。そして、キツめの性格。

「あんた、人間よね?」

 5mまで近づいて、挑発とも思える質問をした。

 メラメラと燃える髪の毛、金色の猫目、牙に近い八重歯、全身ボディスーツかと思いきや、光沢のある黒い皮膚だった。マグマが固まった後のような表面だ。

「人間?……ヒャヒャヒャ!どっちでもいいわ、そんなこと!」

 下卑た声で笑う。

 ここまでは、ルックスで香取ミナミが圧勝。

「女、よね?」

 さらに挑発?

「ヒャヒャヒャ!テメエの方を、男か女か判別不能の焼死体にしてやるよ!」

 炎髪女が突進してきた。

 それを、

 香取ミナミが真っ向から組む!

 いや、抱きしめた?!

「黒焦げになっちまいな!」

 女の炎が自分とミナミ、双方を包み込んだ。

「良かったわ……」

 と、全身火だるまのミナミ。

「あん?」

「だって……男なんかに、死んでも抱きつきたくないもの!」

 確かに抱きついている。確かにハグに見える。

 だが、

 大丈夫なのか?

 両者全身火だるま、炎女の方は半分バケモノだが、ミナミは生身の人間だ。

「バカなのか?テメエ?」

「バカはあんたよ。」

 即座に返す。意識ははっきりしている。

「あんたと私の違いが分かっている?」

 容姿はミナミの圧勝……だが、彼女の言いたいのはその事では無さそうだ。

 両者全身火だるま……炎女の髪の先端が、炎の外に僅かに出て、僅かに揺れている。

「御火(ミカ)!」

 この状態で、香取ミナミの方が火柱を上げた。

 これで両者とも、さらなる業火に包まれた。もう、炎女の髪の毛も、完全に火柱の中だ。

「ヒャヒャヒャ!どんな強い炎だって、あたしの体は燃えないよ!」

 炎女が笑った通り、彼女の体に変化は無い。

 一方の、生身のミナミ。こちらも全く変化が無い。

 警察の制服のまま、ウェーブの黒髪のまま、落ち着いて敵を抱きしめている。

「制服……の、まま……だと?!」

「……やっと気付いたわね。」

 今度は香取ミナミが笑った。

 どちらの体が炎耐久度があるかと言うならば、容姿とは逆、炎女の圧勝だろう。

 ……しかし、

「何で燃えない?!」

 炎女は自分の炎が強すぎるため、着れる服が無いのだ。

「私はね、周囲の火を自在に操れるのよ!」

 勝ち誇るミナミ。

 炎と隣接していても、全身火だるまになっても、彼女は熱さを感じない。焼かれる事もない。

 だったら……

 離れて戦う方が有利なのでは??

「そろそろ苦しいでしょう?」

 ハグしたまま尋ねるミナミ。

 確かに、炎女は少し焦りを見せている。

「私はね、火の中でも呼吸ができるのよ。」

 酸素が無ければ火は燃えない。その酸素だけを体内に取り込める、超常的な能力だと言う。

「あんたの髪の毛、もう火の外に出して上げない。」

 炎女の顔色が、明らかに変わった。

 髪の毛の先端で呼吸しているから、どんな炎の中でも平気、それが彼女の能力だった。

 一目見て、激しく燃える髪の毛を見た時から、香取ミナミは空気の流れを読んでいた。

(この女、髪の毛で呼吸している!)

 見抜いていたのだ。


ヤメ やめ?

ヤメロ? 命令?

ヤメテ 何?

ヤメテ下さい 香取ミナミが火を一瞬で消した。

火は消えたが、

苦しくて口呼吸をしたため肺を焼かれてしまった。火は消えたが、女はもう、呼吸することができなかった。

 容姿も、炎使いとしても、香取ミナミの圧勝だった。

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