第19話 見えない敵

 埼玉県知事公邸(公舎)前。

 守るSITは10人。ほぼ警視庁所属。対異能力者の実戦経験を考え、警視庁のSITを4ヶ所の知事公邸に分けた。

 県警のSITや機動隊は門の中にいる。

 県警が使えないという意味ではない。楯無管理官のチームと頻繁に組んでいる警視庁SITは、年下の警察庁異能力者(トリッカー)の指示で素直に動く。敵の怖さを知っている、味方の凄さも知っているからだ。

 突然、地鳴りのような音がした。

 楯無良器刑事が見えない壁を張った。

 異能力『直感』で、姉の異能力『風林火山』の『山』を使った。

 直後に激しくぶつかる音。

 ハッと、またも『直感』が働き、左手側にも見えない壁を張る。

 そして、二度目の激しい音。

 しかし……敵の姿が全く見えない。

 見えない敵だ!

 見えない敵が、複数いる?!

❝何体いる?!❞

 胸ポケットのスマホから、姉の声がした。

 が、答えられない。全く見えないのだ。

(上?!)

 楯無刑事が頭上にも張った。

 ドスン!という音が響いた。またも防げた。

 ……しかし、自分とSITチームが、見えない箱に入ったかのよう、透明の檻に入れられたようになってしまった。

「ハハッ!いつまで持つかな?!」

 敵の声がした。理性のある相手らしい。考えて行動してくるタイプ、命令にも忠実だ。

“では、ゲームをしましょう。”

 見えない敵の方から、聞き覚えのある声。

❝お前が仕切るな、クサカ!❞

 スマホから楯無キドラが言い返す。

“その『山』(見えない壁)以外の『風林火山』の使用は禁止、破ったら、透明獣たちを知事邸に突入させます。”

❝だから、テメエが仕切ってんじゃねえよ!❞

 態度4Lで言い返すも、従うしかない。拒否すれば多大な被害が出るのが見えている。

 透明獣の突進が、一方向からになった。

 正面前から、助走をつけて次々突進してくる。

 足音と、見えない壁に激突する音だけが響く。

 心なしか、見えない壁が押されているようにも感じる。

“ルールを追加しましょう。外に今いるメンバーが、1人でも正門に触れたらゲームオーバーです。”

 正面に攻撃を集中させている理由が見えた。

 銃を抜くSIT、外には10人いる。警視庁8人と埼玉県警2人。県警のメンツなのかキリよく人数を揃えたのか、10人と楯無刑事の計11人。

 最前列の楯無刑事の左右に並び、計4人が発砲。見えない敵、当然ながら当たらない。

 続いてさらに、楯無刑事の周囲に出てくるSITたち。

 そのうち2人が、楯無刑事の後ろから、

 背中を刺した?!

「……なっ?!」

 思わず声が出た。

 その楯無刑事の胸ポケットに手が伸びる。

 刺したのとは別のSITの手がスマホを奪い、地面に叩きつけて、破壊した。

“やはりでしたね、弟くん。”

 クサカの声、勝ち誇っている。

“危険度が高くないと、貴方の異能力は働かない。”

 背中を刺したのはボールペンだった。血は滲んだが、傷は深くない。

“そして、敵意がないと感じにくい。”

 つまりは、都知事邸で湖西マシロを撃った警官たち同様、ここのSITも操られている?!

❝まずは傷を治そうか、リョウきゅん♡❞

 右耳の小型インカムからスピーカー音声で管理官の声がした。落ち着いている。

❝軽傷だけど、バイ菌が入ると怖いからね♡❞

 楯無良器の背中が淡く緑色に光りだす。治癒の光。傷が立ち所に治っていく。

”これが『風林火山』の『林』ですか。気配を消して隠れる力と、傷を治す力でしたか……

 良いのですか?見せてしまって?“

❝別に隠していた訳じゃない。うちの隊員が強すぎて出番が無かっただけだ。❞

 高圧的に言い返す。

 そして、

❝分析が終わった。見えない敵は3体、見える敵が1人だ。❞

 分析したのは秘書官。『完全記憶能力』を持つ須山モトカ。壁への衝突音、助走の足音、声から3体と断定。音のスペシャリストではないが、記憶した音を完全に脳内で再現し、比較して結論づけた。

 一方の見える敵とは、SITの中に、1人敵がいるという事。周囲の人間を操る異能力者(トリッカー)が1人だけ紛れている。

 だが、

 全員、いつの間にかガスマスクを着けていた。警視庁のSITなら顔で区別できるのだが、それをさせない気らしい。

❝意味が無いわね。いい、リョウきゅん♡、防弾ベストを着てるから、顔面を撃ち抜いちゃいなさい。❞

 楯無刑事が後ろを向いて、銃を構えた。

 警視庁SITは8人、県警は2人。確率は1/2?

❝逃しちゃダメよ。❞

「はい、管理官!」

 通信に答えると同時に、10人のSITが襲いかかって来た。

「得!利!(う!り!)」

 自分を高める台詞を唱え、ほぼ正面に狙いを定めた。

 背中を向けた側、見えない壁へ猛突進があった。透明獣が3体同時に壁へ突っ込んできた!

 振り向かない。

 壁が押し込まれた感覚はあったが振り向かない。

 そして発砲!

 その一発は、一番迫っていた1人から逸れた。

 突っ込んでくる10人の誰にも当たらず、

 知事邸の門内、待機していた1人に当たった。

 操られていたSITの突進が止まった。精神操作していた異能力者(トリッカー)を倒せた証だ。

❝残念だったわね、クサカ❞

 勝ち誇る楯無キドラ。

 敵は合流する時点ですでに県警SITになりすましていた。

”異能力『直感』、侮っていましたよ。

 でも、ゲームオーバーです。“

❝ああ、ゲームオーバーだ。❞

”『山』以外の『風林火山』を使いましたよね?“

 楯無刑事が刺された軽傷を『林』の治癒能力で治したことを言っている。

”ペナルティです。透明獣を知事邸へ突撃させます。“

 知事の家族は避難しているが、知事は約束通り逃げていない。まだ中にいる。

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