第20話 ゲームオーバー

”ペナルティです。透明獣を知事邸へ突撃させます。“

 知事の家族は避難しているが、知事は約束通り知事邸にいる。

 知事不在の場合、無差別で殺す。これが予告状にあった条件。

 『風林火山』の『山』以外の能力を使ったら知事邸内へ透明獣を突入させる。これがクサカの足したルール。

❝醜態だな。ゲームオーバーだと言っただろ?❞

 強気の姿勢を変えない楯無管理官。

 一方の……クサカ、

”……“

 無言だ。

 言葉を返せない。

 ……いや、

“……なるほど、恐れ入りました。”

 透明獣たちの突進は続いている。見えない壁に次々ぶつかる音は続いている。

 が、

 激突音が小さい。

❝逃しちゃダメよ。❞

 弟が偽SITに発砲する前に掛けた言葉、

 その意味は、

❝(今なら同じ方向に透明獣がいる。このチャンス)逃しちゃダメよ。❞という指示。

 前、右、左と入れ替わり攻撃を受けていた時、楯無刑事は自分たちを、箱状の見えない壁で守っていた。どの方向へも対応できるように。

 それが一方向からの総攻撃となった時、見えない箱で、今度は透明獣たちを囲ったのだ。

 助走が取れない透明獣は、突撃に勢いが出ない。

 それどころか、徐々に見えない箱が狭まっている。

”その頑丈な獣たちを潰せるかな?“

❝強がりだな……まあいい。

 お前とのくだらん会話も、もう終わりだ。❞

“風林火山の『火』ですか?果たして燃やせますかねぇ?”

 そこで、クサカからの声は切れた。

❝ゲームオーバーだと言ったろ、カスが!❞

 クサカの念を中継する透明獣が息絶えたから、対話できなくなったのだ。

 見えない箱で密閉し、中の空気を風林火山の『風』が抜いて真空にした。

 絶命した透明獣は、やっと姿を見せた。

 変身も解け、人の姿になり、真空状態の中で、破裂していた。

 

「……いやあ、有意義でした。」

 アジトの部屋で、喜ぶクサカ。

 黒の司祭服に舞踏会の仮面、20代の若者、策士タイプ。

 負け惜しみには見えない。満面の笑顔だ。

 部屋には幹部が数名いる。だが、幹部たちは笑っていない。多くの同志が殺られている。クサカの笑顔の意味が分からない。

「……そうだな、今の戦い、君が風林火山の異能力を持っていたら、どう戦っていた?」

 訝しむ1人に尋ねた。

「……つまりはそういう事だよ。」

 その幹部の答えを待たずに解説を始める。

「これは仮説ですが、色々わかりました。

 恐らくは、

 楯無キドラは、『火』と『風』の力を連発できない!」

 仮説だが、言い切った。

「どうです?……今までも、追い詰めたギリギリまで使っていない。

 『風林火山』という多種多様を持つ異能力者、

 とんでもない怪物だと思っていたが、そうではないかも、知れません。」

 皆に雄弁を振るい、

「ククク……アハハハハハ!!」

 クサカは豪快に笑い出した。


 その、少し前、

 4か所の知事邸は、ほぼ同時に襲撃を受けた。

 残る千葉県知事公邸では、


「……さて、ここはどんな異能力者(トリッカー)が守っているんだ?」

 ゆっくりと、そして堂々と知事邸に近づいてくる怪物。

 体の数カ所に大きなトゲのような突起の生えた、2mを超す巨体の怪物。

 まるで、大斧を持たぬミノタウロス。2本角の獣のような顔と、筋肉質の体。

 大斧の代わりに、鋭い長い爪が見える。

「止まれ!それ以上近づいたら、発砲する!」

 SITの警告に、

 チョイチョイと長爪で手招きし、

「さあ、撃ってみろ!」と挑発する。

 前列のSITから発砲があった。4弾発射して4弾がやはり弾かれた。

 焦げた皮膚のような体は頑丈だ。

 さて、

 ここで戦う戦力は、まだ残っているのだろうか?

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