第6話 ケイちゃん

 消灯して就寝時間。

 夜に襲われたことも、ゾーンにいて襲われたことも無いらしいが、もちろん内心はみんな不安だろう。

「……ずっとこんな生活なのかしら?」

 誰かの声がした。

 暗い中、横に繋げて布団を敷いて、並んで寝ている。俺は一番右端、左にいる誰かが呟いた。

「あー、向こうでケイちゃんが何とかしてくれないかしら……」

 別の誰かの声。まあ4人のうち3人は良く知っている。誰かは声で分かってはいる。

 が、別のことが気になった。

「あ、俺、門浦先輩に会った。」

 門浦景子先輩。俺が異世界に飛ばされた直前に会っていた先輩だ。

「えっ?!ホント?!」

 姉ちゃんが、いや、姉ちゃん以外も飛び起きた。やっぱりケイちゃんとは門浦景子先輩だったか。

「何、話した?!」

「彼女、何かしてた?!」

「誰かに知らせてた?!」

 立て続けに質問が来た。

 ……

 ケイちゃんの能力は『ゲート』。空間を繋いで入口を作る力。凄い力だが、ケイちゃんの能力は不安定だったらしい。

 腕一本なら余裕で通れるくらいの穴を空中に作れた。穴の先は元々いた世界。ただ、穴を作れる場所は限られていて、しかも成功率も高くなかった。

 なぜか、近所の雑貨屋の食品コーナーの決まった棚の前が成功率が高く、ちょうどカップ麺が置いてある場所、そこでばかりゲートが成功した。だからしばらく、姉ちゃん達はカップ麺が主食だった。(雑貨屋にカップ麺があるのは、個人経営、何でも屋に近い店だったから。)

 コンビニやスーパーでも試したが成功しない。でも、食料はケイちゃんの『ゲート』頼み。

 この異世界は、建物と植物は風化してないモノが多い。しかし、畑の野菜や柿など外にあるモノは、入手できても味がしない。発泡スチロールを食べているような感じだそうだ。

 だからケイちゃんの能力頼み。雑貨屋のカップ麺頼み。だが、その雑貨屋でも度々失敗する。すぐに穴が閉じてしまったりする。

 大きさ的には可能だが、怖くて穴に手を入れられない。棒を2本突っ込んで、箸のようにカップを挟んでこちらに引き込む。

 穴が持続している限りは続けていたら、ある日その棚に商品を置かなくなってしまった。度々盗まれると思っての防犯対策だろう。

 以来、食べ物に困る日々……

 ……そんな時、

 ケイちゃんのゲートが大きく開いた。

 人が通れる穴だ。

 意を決し、まずケイちゃんが通った。

 通れた!!

 みんなも通るよう呼ぶケイちゃん。その喜びも束の間、穴は閉じてしまった……能力者が消えたからだと、後から思った。


 ケイちゃんと話す前に、こちらの世界に飛ばされたと説明すると、

「何やってんだ!お前は!」

 いや、俺は何もやってないだろ!……と、心の中だけで言い返す。

 そして、門浦先輩が「異世界ちゃん」と呼ばれていると説明。

「そっか……周囲に色々相談して、信じて貰えなかったんだね……」

 姉ちゃん達の声のトーンが下がっていく。

「……で、食料調節の代わりをしっかり送ってくれたのかな?」

「……まあ、大変そうだけど、戻れたのが分かって嬉しいね。」

 気持ちを切り替えたようだ。すでにサバイバルを生き抜いている先輩たちは、たくましかった。

「人間はポンコツだけど、能力はまともな代用品を送ってくれて、ありがとうケイちゃん!」

 代用品言うなー!!……これも心の中で叫んだ。

 でも多分、門浦先輩の意思じゃない。俺が消える時のあの驚いた顔、不意の出来事か、不慮の事故だ。

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