第5話 異世界のルール

「……電子レンジ!」

「……冷蔵庫!」

「……布団!」

 布団に決定。

 俺の能力で再生する優先順位を決めている。

 夫婦(ソノちゃんの両親)の寝室の布団を取りに行かされた。

 壁や床(畳、フローリング)は通常なまま、押し入れを開くと……埃まみれの黒い不定形な物資が詰まっていた。

 学校もそうだった。壁や廊下は普通、机や下駄箱は劣化、中身も劣化、

 つまり、建物(壁、床、階段、扉)は正常、棚は劣化、道具や品物は風化、炭化……これが、この異世界の状態らしい。

 夫婦分と予備があったので、3人分の掛け布団と敷布団を確保。

「レイは畳で寝なさい。」

(布団を再生したの、俺なのに?!)

 声ではなく、顔で抗議。

「あら、ダメよ。」

 と、優しい方の姉(がわり)、ソノちゃん。

「こんな便利な再生マシーンを粗雑に扱っちゃ」

 人間扱いされてませんでした。

「お姉ちゃんの隣か、私の隣か、どっちで寝たい?」

 ソノちゃんに完全に弄ばれている俺。

 そして、こんなんで性的興奮エネルギーが貯まっていく、情けない俺。

 ただ、厄介な力と思っていたが、これが助かっていた。

 姉たちとの生活、そう、弟としか見られない俺、最初に体裁を取り繕うために家の外で待たされたのももう一昔前(おかげでトイレ覗き騒動は有耶無耶になったが)、どんどん無防備となる姉たち。(意図的に俺を煽る時もある。)

 そんなで溜まった性的欲求は、能力の使用で解消できた。女だらけの家で◯◯◯◯せずにいられるのは、正直助かる。

 日が暮れた。

 なんと、証明のスイッチの方に俺が力を使っただけで、部屋の電気が点いた。久々の明るい夜に姉ちゃんたちは大喜び。

 誰もいない街で電気や水道が……と難しいことは考えなくていいようだ。再生させたら使い続けられる、それも異世界のルールらしい。

 そろそろエネルギー切れの俺を見て、冷蔵庫の再生は後回し、冷凍室の中の黒い物体の再生が今日の最後の任務だと言われ、冷凍食品を人数分再生させて、俺の仕事は終わった。

 物体を戻している間は、持久走を走っているような感覚、かなり疲れた。

 再生した冷凍食品は凍った状態、それをヒナタさんが熱する。袋のままレンジに入れるものは袋のまま手で持つとホカホカになった。

 手は火傷せず、痛みもない。適温に仕上げ、殺菌もできる。

「よっ!人間電子レンジ!」

 彼女も中々に便利だ。

 最初に来た時、シンクに水が張っていたので、それを彼女の『ヒート』で温め殺菌、洗水とした。使えそうな皿や箸を選んで洗った。水が汚れる度に能力で温め直した。大きいボール等で川の水を汲んで、飲水や体を洗うのに使用した。

 この家の食器は、他の劣化物よりマシだったという。意図的な未知なる力かも知れない。

 転移した時に持っていたタオルやペットボトル、数少ない道具もフル活用して凌いだらしい。2週間……きっと、想像以上に大変だったろう。

 パスタやグラタンやドリア、冷凍食品の一人分は育ち盛りには物足りない。一人2個を完食、久々の濃い食事に大満足の姉ちゃんたち。

「ほれ、働いたご褒美だ。」

 俺だけ3食分もらった。

「うん、良く頑張った。」

 持ち上げられて、悪い気はしない。

 ……

 罠だった。

「じゃあ、食後の運動ね。」

 ソノちゃんが指さしたのは、キッチンの壁にある風化したパネル。

 お風呂の給湯スイッチだった。


 給湯スイッチと風呂釜を再生。

 ……もう風呂に入る気力は無かった。

 だが、俺はまだ、1日入らないだけ。

 姉ちゃんたちには2週間ぶりの入浴だった。


 しばらくして、戻ってきた姉ちゃんたち。

「風呂上がりは、冷たい飲み物が欲しいねぇ」

 いや、もう、流石に冷蔵庫の再生は無理です。

 ……そういえば、こっちの世界は季節が違っている気がする。

 元の世界はもう晩秋、ほぼ冬だ。暖房があれば冷たい飲み物もアリだが、エアコンは風化したままだ。

 転移者への配慮か?偶然か?

 布団も暖も無しでの2週間は本来なら厳しい。

 まだまだ、異世界の謎はありそうだ。

 過酷な日々が待っているような気がする。


「じゃあ明日は、冷蔵庫と水道と……」

「食料!飲み物!」

「お菓子!」

「洋服!」

「下着!」

 ……全部、再生能力が必要なモノ。

 明日も過酷になりそうだ。

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