第2話 遭遇

 帰路についた俺は、校庭の真ん中で魔物と遭遇した。

 黒い魔物。

 例えるなら、体は熊、顔はドーベルマン。

 俺を睨み、ゆっくりと近づいてくる。

 熊と遭遇しても「ケガ」で済んでるケースは多い。本州の熊はツキノワグマ(北海道のヒグマより小さい)、メス熊、子熊etc……理由は色々あるだろうが、多分、人間目当てじゃないのも理由の一つ。熊にとっても不慮の遭遇なのだ。

 しかし、この魔物は明らかに俺を狙っている。

 ヨダレを垂らし、目が血走っている。

 狂犬熊、いや、未知の生物。パワーやスピードが段違いかも知れない。

 動くとマズいのか、動かなくてもマズいのか、分からず固まる俺。

 そこへ、

 ?!

(タタタタタッ!!)

 もっと予想外の生物が遠方から迫って来た。

 校門の方から、

(ええっ?!!!!)

 なんと、

 ハダカの女性が走って来た?!

 いや、

 下着はつけていた。

 白のブラに、白のパン……

 ……って、そんな観察してる暇ない!

 魔物も走り出している!

 俺に迫って来る!

「横に避けて!」

 ハダカの女性が叫んだ。

 小さな黒い何かを左右の手に持っている。

 走りながら構えた。


 銃?!


 右に避けた俺を確認するや、

「カン!カン!カン!カン!」

 走りながら連射した、ハダカの女性。

 魔物に全弾命中させている。

 魔物が悲鳴を上げ、動きを止めた。

 さらに連射しながら近づいてくる謎のハダカ。

 ……いや、違った。下着の女性。

(あれ?!)


 ええっ?!!!!


(ね、姉ちゃん?!!)


 間違いなく、俺の姉だった。

 接近しながらの連射で、魔物にトドメを刺した。断末魔の悲鳴を上げた魔物は、黒い煙となって消えた。

「大丈夫?」

 俺にさらに近寄り、

「ええっ?!男子?!」

 慌てて手で体を隠そうとするが、

「……あれ?!レイくん?!」

 やっと弟だと気づいた。

 小さな銃2丁を下着のお尻側に器用に挿むと更に寄って来て、

「この上着、よこしな。」

 俺のブレザーを掴んで脅した。

(ああ……本物の姉ちゃんだ……)

 安心感を覚えた。

 制服の上着を脱ぐためにバッグを下に投げ置くと、

「食べ物、持ってる?」

 言うより先に、俺のバッグを漁っている。

「ないよ。」

 脱ぎながら言う。本当に入ってない。教科書を入れずに来たから、中はガラガラ、何も無いとすぐに姉ちゃんも気づいたろう。

「お菓子ぐらい入れとけ!真面目か!」

 悪態をつきつつ、俺の上着を受け取って、自分で着た。

「あ、……のど飴が右ポケットに入ってるかも……」

 のど飴ぐらいじゃ姉が喜ばないのは知っていたが、一応補足。

「おおっーーーー!!」

 のど飴を取り出し、意外なほどに喜んでいる。7個入りのスティック状ののど飴、あと5個くらい残ってたはず。

「で、」

 と、俺の方に向き直り、

「何でアンタがこっち来てんのよ!!」

 Yシャツの襟首を掴まれた。

(知らねえよ!俺が訊きたいわ!!)

 声には出さずに心で言い返す。

 姉ちゃんがのど飴を一粒舐めた。

「ひふわよ!」

 「行くわよ」か「退くわよ」と言い、背を向けて校門の方へ歩き出した。

 もちろん、ついて行く俺。

 突然屈んで、お尻の銃を1丁取り出す。

 小さな銃、どう見ても玩具にしか見えない。

 さらに驚き?!

 上蓋を開け、足下の校庭の砂利を中に詰め込んだ。

(何やってんの?!詰まっちゃうだけでしょ?!)

 思ったが、ここでは先輩、人生でも先輩、指摘はしない。

 それから姉は、周囲を警戒しつつ、小走りで移動。俺は後をついて行く。

 徒歩通学10分、家まで走るのはちょっとキツいかとも思ったが、

 分岐路手前で止まり、横道を確認してから小走り……を繰り返す。

 あの魔物みたいなのが、まだいるのか?

 でも、

(これなら家まで行ける……)

 と、思っていたら、

「着いたわ。」

 家より手前の見知らぬ一軒家の前で止まった。

「ここで待ってて。」

 ドアの前で待たされ、自分だけ家の中へと入っていった。

 待たされる……

(……あれ?)

 この家に、見覚えがある。

 塀と建物の隙間、右へ行っても左へ行っても、家に入らずに裏庭へ出れるはず……

 右を見る。この家のガレージが見える。ワゴン車が停めてある……ただし、机や下駄箱と同じように、風化したボロボロの状態だ。

 左を見る。角に細い木がある。普通の木だが、

(『使用中』??)

 枝に板が引っ掛けてあり、そう彫られていた。

(何が『使用中』??)

 気になって近づく。

 角の先で微かな音がする。

 首を覗かせると

 ……

(ええっーーーー?!!)

 今度こそ、本当に、

 下だけだが本当に、

 下半身だけハダカの女性が、

 ……用を足していた?!

(本人の名誉のために補足しておくが……『小』の方です。)

 慌てて首を引っ込めたが、目と目が合ってしまった。

「きゃああああああ!!!!」

 大絶叫に、

 家の中から、すぐさま数名が飛び出して来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る