第24話 逆襲の最中

「何っ?!」

 さすがのクサカも慌てた。

 696(ムクロ)団の本部、今クサカのいるこの場合が奇襲を受けたという知らせだ。

 すぐに冷静になる。

「既に建物内に侵入されてます!」

 次々報告が来るが、

「では、行きましょう。」

 小柄な若い男、シュンに合図した。

 彼の瞬間移動で、2人同時に姿を消した。

 襲撃を受けた想定で、事前に脱出ルートは考えていた。彼、瞬間移動のシュンがいる。

 最近では、常に傍らにいた腹心の女性より、このシュンを側に置いている。

(正面きっての戦闘は、まだ早い……)

 逃げるのを最優先とした。

 実はアジトがバレたのは、このシュンのせい。

 シュンは真田クノにはっきり姿を見られている。クサカは尻尾を掴むのは難しいだろう。

「この瞬間移動の異能力者(トリッカー)を探せ!」

 楯無管理官は指示を出した。

 警察庁の主導で、防犯シンポジウムが度々開かれた。県警や警視庁の所轄の防犯カメラを扱う部署の人間がランダムに選ばれ、都内の毎回異なる場所で意見交換や講習を受ける。

 異能力犯罪のことは一切語られないが、来訪者は帰った後、空き時間にシュンを探すようマインドコントロールを受けた。自分も知らぬ間に、無意識下で捜査協力をしていたのだ。

 ヒットした。

(コイツは警戒心がゆるい!)

 楯無管理官の分析は的中。郊外のとある地区で何度も防犯カメラに写っていた。

 場所は絞れた。

 そして、アジトを発見!

 即座に奇襲をかけた。

 ……シュンからアジトがバレた。

 そんな事は気にしていないクサカだったが、

「ああ、しまった……」

 アジト本部から既に脱出していたクサカだったが、不意に立ち止まり、隣のシュンに聞こえる声で嘆いた。

「どうしました?クサカ様。」

 自分が一番信頼されている。それが嬉しいシュン。脱出もたった2人、自分が一番の部下であることに喜びを感じている。

「DNAサンプル、少し持ち出しておくべきでした……」

 後悔を匂わせる言葉を漏らす。

「私が取って来ます。」

「いいえ、貴方の方が大事です。」

 これが背中を押す言葉だとクサカは知っている。

 シュンは瞬間移動で、警察庁の襲撃を受けている最中のアジトへ戻った。

 少しして、シュンが戻った。ブリーフケースを持ってはいたが、

「……あちこち敵だらけです。火の手も回っています。もうあのアジトはダメでしょう……」

 少し煙を吸い込んだようだ。呼吸が苦しそう。

 アジトで暴れているのは、香取ミナミ。

「御火(ミカ)!」

 豪快に火を付けている。敵を倒す目的と、DNAサンプルを焼く目的だ。

「良くやってくれました。」

 と、ブリーフケースを開ける。

「……赤いラベルのサンプルはもうダメでしたか?」

 中身を確認し、少し残念な表情を浮かべた。

 シュンはその場所を知っている。

「取って来ます!」

 また消えた。

 体力的にも、長距離の移動は何度も使えないのだが……また1人になったクサカは笑っている。

(本当に……良く働く忠犬だ。)

 そして、再びシュンが戻ったが、

 ?!

 そのまま、地面に倒れてしまった。

 クサカが抱きかかえる。

「……ありましたよ……赤の……」

 クサカに試験管を手渡すと、その場で絶命してしまった。

「シュン君、ありがとう……」

 本心からの言葉で感謝を述べ、シュンを抱きしめる。煙と高熱のガスを吸い込み、肺がヤラれてしまったのが死因だ。

「死んでくれて、ありがとう……」

 涙を流し、笑顔で喜んでいる。

「私が持っとも欲しかった力……それが君の異能力(トリック)だ。」

 クサカは異能力を他人に与える技術を持つ。

 しかし、よほど本体と相性が良い異能力でない限り、馴染まない、致命的に近い副反応が出てしまう。

 それを避けるには、大量の血液が必要となる。

「君の血は、大事に使わせてもらうよ、

 ありがとう……シュン君。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る