第9話 さらに驚きのサプライズ

 女の子だった。

 俺の手の中で笑っている。

 単独行動で迷惑かけたが、この子を救った功労で、姉ちゃんの軽いゲンコツ一発で済んだ俺。

 今、優越感に浸っている。

「またちょっと貸して。」

 ソノちゃん、三度目のトライ。

 赤ちゃんを抱くが、

「うーっ!ううーっ!」

 途端にグズり出す。

「私も、」

 とサチちゃんも三度目の挑戦。

 ……やっぱりダメ。

 車が停車した。

「私も、もう一度、」

 運転席からヒナタさんが降りてくるが、

 ……やっぱりダメ。

 そして、最初に大泣きされて、離れた助手席を命じられた姉ちゃん、降りて来たが、

「うわ~!あ~ん!!」

 やはり大泣きされて、ヘコむ。

「何でアンタだけ懐かれてんのよ!」

 俺も分からない。最初に抱き上げたからだろうか?

 でも、とにかく嬉しい。

 俺が抱いていると、姉ちゃんたちが触れても笑っている。それがまた嬉しい。

 さっきまで、1人で車の3列目に座っていた俺、今は2列目の中央に出世。

 再生マシーンから人間チャイルドシートに格上げ(格上げかこれ?)

「名前は何ちゃんかな?」

 助手席から俺の隣に再び代わってもらった姉ちゃん。指でほっぺをぷにぷにする。俺が抱いてれば、姉ちゃんにも笑顔。

 この子の親が許せない。

 服を来ていない。オシメもない。

 毛布のような布1枚にくるまっているだけ。現実世界から来たとして、場所はそのままのはずだ。あのベンチに毛布だけでいたことになる。

 こっちの異世界は寒暖差が少ないが、現実世界はもう冬の寒さだ。

「メガネザルかな?」

 ピンクの毛布に可愛いサルの絵がいくつも刺繍されている。多分(最初は?)可愛いがっていたはずだ。この赤ちゃんのための毛布だ。

「アイアイじゃない?」

 サチちゃんは動物好き。アイアイという種類のサルだと判明。

「アイアイちゃん。」

 ほっぺをぷにぷにする姉ちゃん。

「アイちゃん。」

 サチちゃんがぷにぷに、満面の笑顔で笑った。

 名前は『アイちゃん』に決まった。

 その後、赤ちゃん用品の店によって、帰宅。

「温度は人肌で……だって」

 こちらはミルク担当。哺乳瓶を手に、粉ミルクの缶の説明書きを読むソノちゃん。

「人肌?任せなさーい!」

 意気込むのは、俺が来るまで調理担当だったヒナタさん。彼女の温めるモノは飲食可能、つまりは滅菌される。

 そして、触れたモノの温度を自在に調整。能力『ヒート』、粉ミルクのためにあるような能力だ。(お風呂の速攻温度調節とか、今でも生活面では大活躍してます。)

 そして、紙オムツ担当の姉ちゃんとサチちゃん。泣かれながらも、オムツの説明を読みながら健闘している。

「女の子だから」という理由で、泣いててもオムツ装着が済むまでは近寄れない俺。

 むしろ有り難い。赤ちゃんのハダカで興奮はしないと確信はしているが、もし興奮エネルギーが貯まったら恥ずかしい。自分が許せなくなる。

 居間からすぐに出られる中庭に下りた。

(懐かしいな……)

 小さい頃「姉ちゃんのオマケ」だった俺、どこにでも付いて行った。この庭で、花火や簡易プール、コマ回しなんかもした記憶がある。

 日が暮れかけている。

(塀に落書きして怒られたっけ……)

 正確には、石で字を掘った。実親にめちゃくちゃ怒られた。

(まだ残ってるかな?)

 塀の側まで歩いて確認に。

 ?!

 塀に穴が?!

 周囲が光っている穴がどんどん大きくなり、

 向こう側が見えた?!

「門浦先輩?!」

 門浦先輩が驚きの表情で、こちらを見ている。

「えっ?!」

 居間まで聞こえる俺の声に、姉ちゃん達が振り向いた時、

 俺の体は、

 門浦先輩の『ゲート』の穴に吸い込まれ、

 ……そのまま、穴ごと消えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る