第13話 ビッグイベントの始まり

「迂闊だった……」

 もう、何度目だろう。

 姉ちゃんがまた呟いた。

 ライフルの銃弾の残りは、あと6。1セットしか持って来なかったことを、姉ちゃんはずっと悔いている。

 全員で、ショッピングモールの3階にいる。

 建物内はほとんど魔物が入って来ない……今までがラッキーだっただけ、決まり事でも何でもない。でも決めつけてしまった。みんなが過信していた。誰も姉ちゃんを責めていない。

 数え切れないほどの敵がいる。

 ゾンビだ。映画やゲームで見るような、大量のゾンビが迫っている。

 元人間というゾンビではなく、人型がドロっと溶けたようなゾンビの動きの魔物、倒すと煙になる。だから平気で撃てたが、数があまりにも多すぎた。

 ショッピングモールの3階通路、右からも左からもウジャウジャ来ている。

 エスカレーター(止まっているから階段)も、東と西の端にある階段も使えない。数十のゾンビを倒さないと近づけない。

 どんどん追い込まれる。

(まさかこれが、ビッグイベント?!)

 ❝アイツ❞は『超レアキャラ』と『ビッグイベント』への参加資格を入手した、と漏らした。

 超レアキャラは俺らしい。

 ビッグイベントは……これ?

 ……こんなのホラーでしかない!

 玩具の銃に持ち替えて、姉ちゃんが応戦しているが、数体減らしたところで焼け石に水。

 どんどん追いやられる。

 中央が天井まで吹き抜けの、横長のメイン通路が向こうとこちらの2本、100m近い通路に店がぎっしり並んでいるが、向かいに見える店には、中央の合流点か、両脇まで行かないと渡れない、デザイン重視の大型モール。目標の店に向かうまでに、色んな店の前を通る戦略重視でもあるが、

 ゾンビに囲まれたら非常に困る造りだ。

 中央の合流点まで来たが、向こう側も、もうゾンビで溢れていた。

 反対側へ、建物の外壁側、トイレや非常階段に続く裏通路がある方へ逃げたが、

 その裏通路にも、すでに大量のゾンビ。

 逃げ場は無い。

 アイちゃんが静かに寝ていてくれてるのが、唯一の救い。

 前に抱く抱っこ紐、俺の顔が常に見えるので、全くグズらない。

 そのアイちゃんの為、3階のベビー用品店に寄ったのが始まり。

 ミルク、哺乳瓶、くわえる乳首、オムツ、着替え、チャイルドシート等はすでにある。

 玩具が欲しかった。ボールでもガラガラでも、何でもいいから複数欲しかった。

 探すのに夢中になって、警戒を怠った。風化している商品を「何だろ、これ?」と言っては各自持って来て、俺に再生させた。

 娯楽が少ない中の楽しい時間……その代償が今だ。

 壁際に追い込まれた。

 ゾンビは素早くはないが、密集している。数も多い。

 ここしか逃げ道は無かった。

 そして、ここからの逃走経路もない。

 姉ちゃんがライフルに持ち替えた。前に出た。

 もう、ゾンビ共が来る方向は1つ、壁際に追い込まれているから前だけ。一発でまとめて倒すつもりだ。

 ……でもみんな、分かっている。

 あと6発、とても倒せないと分かっている。

 銃声!

 10体くらいは倒せた。

 でも光景は変わらない。

 大量のゾンビが迫って来る。

(どうすれば……?!)

 逃げられるギリギリ、後ろの壁に背をつけ、手をつけ、張り付いた俺。

 前で眠っていたアイちゃんが、

「あーーーーーっ!!」

 突然、目を覚まして泣き出した。

 緊迫感、あるいは魔物の気配を感じ取ったのだろうか?

 違っていた。

 光った。

 アイちゃんが、いや、俺が光った。

 アイちゃんが光ったように見えたのは、アイちゃんの後ろに、ステータス画面が現れたから。

(ブースター??)

 そこだけ読めた。

 そして俺、光ったのは一瞬だったが、壁につけた右手は、いや、右手をつけていた壁はまだ少し光っている。

 「▼」の小さなパネルが光っている?!


 チーーン!!


 電子レンジの音と、ちょっと似ている音。

 そして、

 背中側の壁が開いた。

 電源が入れば、ここは行き止まりの壁じゃない。

 エレベーターホール!!

 3階にエレベーターが到着した!!

 真っ先に飛び込んだのは、ソノちゃん。

「『ゾーン』が張れたわ!!」

 皆に知らせた。狭い建物、部屋なら安全地帯に変えられる能力。

 それを聞いた途端、ゾンビが目の前まで来ていた姉ちゃんが、ライフルを撃たずに向きを変え、エレベーターに駆け込んだ。これで全員入った。

 その後をゾンビが追ってきたが、見えない壁に跳ね返された。

 『ゾーン』は気配を消せるが、追われてる途中で張ると、そのまま魔物はついてくる。

 しかしもう1つの特長、見えない壁で魔物の侵入を防ぐ。選んだ空間より、ちょっとだけ大きめに結界をつくる。

 全員乗り込んだのを確認し、扉を閉め、1階のボタンを押した。

 エレベーターホールから正面入口は近い。

 絶体絶命から急転、脱出ルートが確定した。

「アイちゃん、ありがとう。」

 また眠っているアイちゃんに感謝。軽く頭を撫でると、ステータス画面がまた表示された。

「アイちゃんの力なの?!」

 みんなで読む。

「他人の能力を増強させる力。それなりに消耗する……」

 そうか、

 イレギュラーで元の世界に俺が帰れたのは、アイちゃんが門浦先輩に共鳴してゲートが開いたからだ!

 思っているうちに、1階に到着。

 ゾンビはいない。

 感知能力は鈍い魔物に見えた。近づかないと襲ってこない。(ただし、一体に見つかると集まってくる。)

 まだゾンビのほとんどは3階だ。

 一気に正面入口へ走った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る