第3話 ヤバすぎる相手

「警察庁の『楯無キドラ(たてなし きどら)管理官ですよね?』」

 ピエロ覆面の男は、スマホが映す空中映像の彼女に対して、勝ち誇ったように雄弁になった。

「警察庁の異能力者(トリッカー)で、いくつもの力を使うって噂の管理官。

 この刑事が眠っているのに見えない壁が継続している、これ、彼ではなく、貴方の異能力ですよね?」

 ピエロ覆面が自慢気に喋りつつ、ゆっくりと映像の彼女に近づいてくる。

「キドラって名前も面白い。

 喜怒哀楽の哀を取って『喜怒楽(キドラ)』

 『哀』以外の感情を豊かにするよう名付けられたとか……期待通りになってるそうですね?」

 その語りに女性管理官は応えない。

 応えるどころか、

❝あ、リョウきゅん♡ 寝顔も可愛い!❞

 スマホを取り出し、倒れている楯無刑事を撮影している。犯人完全無視だ。

 ……立体映像側から写真が撮れてる驚きは置いておくとして、

「弟さんの名前も変わっている。」

 やっとピエロの言葉に反応し、視線を戻した楯無管理官。

「楯無 良器(りょうき)。『良い器』と書いて『りょうき』。

 これって、貴方の異能力を弟さんが使えることに関係してます?

 良い器(うつわ=媒体)っていう『言霊』を与えられたとか?」

 そう、気配を消す異能力も、見えない壁も、姉の異能力(トリック)。弟の楯無良器は、姉の異能力を(不完全だが)遠隔使用ができる。

 が、

❝あっ!リョウきゅん♡寝返りうった♡❞

 またまた、弟の撮影に夢中。

❝もう……私が撮影しておきますので、交渉を進めて下さい!❞

 別の声、管理官より若い女性の声がして、話がやっと進みそうだ。

❝じゃあ、動画でお願いね。❞

 相棒(秘書官)にスマホを託し、正面を向いた楯無キドラ。

「貴方の二つ名『態度L(エル)』でしたっけ?」

 ガン無視されたピエロ、言葉に少しトゲがある。

❝4L(よん・エル)よ!そう呼ばせている。❞

 自信満々に言い返す、楯無キドラ。

 態度4L。態度デカデカデカデカい!……なんて陰口は全く気にしないが、

「態度Lって、死語ですよね?」

 この挑発には怒りを見せた。年齢系のワードは彼女にはNGだ。

 管理官が指を鳴らした。

 ドーーーーーーーーーン!!!

 爆発音!!

 外だが、近い。

 強盗犯も人質も動揺する。

❝死んだのは、アンタたちの乗ってきた逃走経路(車)よ。

 どうする?まだ投降しない?❞

 今度は女性管理官が勝ち誇る。

 その笑い、そこらの悪党など足元にも及ばないほど悪だ。

「この女?!ふざけるな!!」

 警察が車を爆破した??信じられない話だ。

 そしてもし、外に確認に行ったとしたら、それが事実だと認識したろう。

 この女、本当にやった。

 ヤバすぎる相手、ヤバすぎる管理官だ。

「代わりに人質を、」と言いたくても、人質は見えない壁に護られている。残りの人質は金庫にしまった。簡単には取り出せない。

 さらにヤバさは続く。

 きな臭い……

「うおっ?!」

 気付いた時には、もう黒煙が充満していた、彼らの大事なバッグの中に。

 2億円の入ったバッグの中身が、

 2つとも燃えている?!

❝やっとか……❞

 やっと火が燃え広がったと言いたいらしい。

 ……つまりは、これもこの女の異能力。

 この管理官が札束に火を付けたのだ。

❝すまんな、時間がかかって。❞

 火を消そうとギャアギャア騒いでいる強盗犯たちを笑う。

 バッグを開けてしまったことで、一気に酸素を取り込み、炎は加速した。消火を試みたが、全て真っ黒、お札だったと分かる部分は微塵も残って無かった。

❝そんなに慌てるな。たかが単価22円の紙切れが4万枚燃えただけだ。❞

 万札の製造コストは1枚19〜24円ぐらいと言われている。

 そして態度4Lの管理官、万札は4〜5年程度の寿命だと知っている。もちろん劣化していなければ処分されないが、頻繁に交換されているのを知っている。処分決定分をたかが4万枚ほどこの黒焦げと交換すれば、燃やした損失など埋められるという計算だ。

 しかし、犯人側はそう思っていない。

 動揺している彼らに、

❝お札だったと分かれば、破損していても銀行で替えてくれるかもよ。❞

 嗤いながら、出来ないことを教えてやる。

 まだまだヤバすぎる行動は終わらない。

 犯人の怒りが自分に向いた中、

❝では、こちらの要求を伝える。❞

 一方的に言い放つ。

 ただし、

 その矛先は犯人側へではなく??


❝人質は全員、服を脱げ!!❞


 ???

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