第4話 力技

❝人質は全員、服を脱げ!!❞

 籠城の交渉とは思えない一言。

 犯人側が求めていないコトを、勝手に一方的に要求した警察庁の美人管理官。

 『態度4L』の陰口を公認?している楯無キドラ(自称20代)。

❝下着も全部よ!❞

 正気とは思えない。

「ワハハハハハ!」

 強盗犯のリーダー格、ピエロの覆面男が笑い出した。

「オラ!警察様の御命令だ!言う通りに脱げや!」

 マシンガンを人質に向けた。

 戸惑う人質たち。4人の若い女性銀行員。簡単には脱ぎ出さない。

❝……これはね、FBIの最新マニュアルにある交渉術なの。❞

 人質の方に向かって、管理官が諭す。

 さっきまで、助かる期待、管理官への信頼が少しずつ育ち始めていた彼女たちだが、一瞬にして失ってしまった。そういう顔で見ている。

❝犯人の仲間が、人質に紛れていることは良くあることなの。全裸になった者は必ず助けるわ。

 逆に、脱がなかった者の命は保証しない。❞

 真顔で言い切った。

 ……

❝あんな連中に裸を見られた事なんて、絶対に傷にしない。トラウマにしないと約束するわ。❞

 人質の中の最高齢、アラサーの女性が意を決し、服に手をかけ、脱ぎ始めた。

 他の女性たちも、それに続いた。管理官よりも、先輩銀行員の彼女を信頼しての行動かも知れない。

❝脱ぎ終わったら、自分の服を敷いてうつ伏せでじっとしてて。❞

 諭している中で、

 1人、脱ぐのを止めて、前へ歩き出した。

 見えない壁を手で確認し、内側からなら通れると分かると、

 ……外へ出てしまった。

 そのまま、その女性はゴリラ覆面の元へ。

「バカ野郎!お前を脱出の人質に選べなくなっただろ!」

 ゴリラに叱られ、

「嫌よ!コイツ等に裸を見られるの。」

 残りの3人の強盗を指さす、さっきまで人質だった女性銀行員。

❝ホントに釣れましたね……❞

 管理官の秘書官の、呆れ気味の声が空中映像から漏れてきた。

 もちろんだが、FBIの最新マニュアルというのは嘘である。

❝さあ、次はアンタたちよ!

 とっとと全裸になりなさい!❞

 高圧的に犯人を指さす管理官。

「いや……違うな。」

 ピエロが笑った。

「急いでいる……よな。」

 気付いたのだ。

「器が眠っているから、能力が上手く使えないのかも知れない。」

 器とは、楯無良器、ライオン覆面に眠らされた管理官の弟、能力の媒介者だ。

「コング、透明壁をぶち破れ!!」

 命令を受け、ゴリラ覆面が再び巨大コングになってパンチの連打を繰り出した。

 狙いは見えない壁。しかし、

「押してる感触があるぜ!コイツは壊せるかもしれねえ!」

 巨大ゴリラがニタりと笑った。

「加勢するぜ!」

 ライオン覆面がマシンガンを取り出した。

 物理(パンチ)で削れるバリア(結界)なら、他の物理でもダメージはある。マシンガンも有効だ。

 ライオンが両手でマシンガンを連射、ゴリラのマシンガンも拾ってのダブル連射だ。

 狙いは見えない壁。

 それも、

❝バカ者?!❞

 映像の向こうからの大きな叫び声。

 ライオン覆面は、倒れて寝ている管理官の弟を狙ったのだ。

 遅かった。

 その映像からの叫びは遅かった。

 大事な弟を狙われた姉……の秘書官の叫びも虚しく、

 当の姉の方が叫ぶ。

❝八つ裂きだ!!❞

 そして、

 屋内に風が吹いた。

 ……

 ピエロ覆面の読みは当たっていた。

 器が、弟が眠っているから姉の能力が上手く使えない。ここまでは当たっていた。

 4億円を燃やすのも時間がかかった。

 けれど

 ……

 阿鼻叫喚の悲鳴が、ほぼ同時に複数上がった。

 強盗犯4人と、ゴリラ覆面と通じていた女、全員両手首を、吹いた『風』に斬り落とされた。その悲鳴だった。

❝精度を下げれば、強い力も解放できる。❞

 両手を失った連中に、痛みで聞くどころではない連中に、この程度の惨状など見慣れているかのように、平然と語る女管理官。

 切断にはバラつきがある。

 手首の付け根を斬られている者、肘の手前を斬られている者、残った左右の腕の長さがチグハグな者……精度を下げた故のバラつきだ。

 高速で斬られた切断面は、みな黒く焼け焦げ、不幸中の幸い、熱で止血したかのように出血はない……精度は落ちても斬れ味は落ちてない。

 いや、不幸中の不幸だろうか?

 今度は5人同時に、両足首を切断された。

 仰向けに倒れた者、うつ伏せに倒れた者、倒れ方はバラバラだったが、悲鳴はまたも、ほぼ同時だった。間違って命を奪われていた方がマシだったかも知れない、第二の惨劇。

 幸いがあったとしたら、人質が伏せていたこと。悲鳴は聞こえるが、惨状は見えていない。

❝半暴走状態の『幻影』だからな。敵味方どころか、武装と着衣の判別がつかないのさ。❞

 だから人質を全裸にした。下着をつけているだけでも、武装した敵と判断しかねない『幻影』の半暴走。

 マスター(楯無キドラ)の指示は『殺さない程度の戦闘不能』、半暴走ながら、見事にやってのけた。

 幻影が姿を見せた。

 雲か霧を集めて虎のような獣にした形状。

 見えるのは、暴走状態が終わった証拠。

「うぎゃ!」「ギャア!」「ぐがぁあっ!」「ひいぃ!」

 今度の悲鳴は1人ずつだった。

 丁寧に?うつ伏せの男は仰向けに戻してから、股間を、強盗犯のイチモツを抉り取った。

 女だけは、股間は無傷に終わった。

❝ホントにバカな連中……❞

 映像の向こうで秘書が呟いた。

 少し考えれば、弟「リョウきゅん♡」が彼女の逆鱗だと分かるだろう……そう言いたいのだ。

❝念の為、突入部隊に安定剤を打たせるように❞

❝承知しました!❞

 管理官の命令に秘書官が即座に答える。

 訓練された者か、長年自分の異能力に馴染んだ者でもなければ、痛みの中で異能力を使う集中力は保てない。

 安定剤(異能力封じ)は念の為……つまりは強盗犯どもは『改造能力者』だという判断。

❝両手首……両足首……本体……チ◯コ、❞

 楯無キドラが指を折って数えている。

❝六つ裂きだな……2つ足りない。❞

 八つ裂きだ!!……と怒りに任せて叫んでても、しっかりと覚えていた。

❝両耳も斬り落としておくか。❞

 なんとも恐ろしい女である。

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