第16話 知事を守れ

「お断りだ!」

「私は頼んでいるのではない、命令しているのだ!」

「だから、お断りだ!私は返事をしている!」

 怒鳴り合っているのは警察庁の長官室。

 長官にタメ口なのはもちろん、楯無管理官。

 更に怒鳴り返そうと思ったが、そこは警察庁長官に任命された男、効果のある言葉を選んだ。

「異能力チームが出なければ、多くの警察官が犠牲になるぞ!」

 ……効果はあった。

「知事の3〜4人、どうなったって構わん!私の部下の命の方が大事だ!」

 言い切っていた女管理官が折れた。

 退室してから、

「あの、態度L、いや態度4L女め!」

 長官が怒りを爆発させる。

「甲斐源氏の末裔だそうじゃないですか。」

 と、同席していた次官。

「けしからん……征夷大将軍にでもなるつもりか!」

 楯無キドラには、そんな気は微塵もないだろう。

 ただ、弟リョウきゅん♡が征夷大将軍の候補になったら……まさかの行動を取る……かも知れない?


 696(ムクロ)団から犯行予告があった。

『東京、神奈川、埼玉、千葉の知事邸を同時に襲撃する。』

 知事が不在だった場合、その都県民を無差別で大量に殺す……という内容だ。

(異能力者が少ないことは、もうバレている……)

 精鋭だが、人数が足りていない。野球の先発投手のように、連闘させず、間隔を開けて出撃させたい。

 それぞれの知事公邸・私邸(公邸のない知事は実家を襲撃)に、知事1人だけ滞在させ、周囲の住人を避難させる。それだけでも大掛かりだ。

 東京都以外にも警視庁のSITを均等に分散、対異能力経験のある警官はそれぞれに10人程度、あとは機動隊か県警のSITで補う。

 そして、誰をどこに向かわせるかだが、

『こちらは占いでもう決めました。』

 挑発まがいの一文が追記してあった。

 相手を見極めてから出動させては間に合わない。

「なら、こちらは、アミダで決めるか。」

 楯無管理官は決断した。


 ほぼ同時刻に、4か所の知事邸が襲撃を受けた。

 その1つ、都知事邸。

 3体の魔獣が現れた。

 アメフトのプロテクターを付けたような形状の人型魔獣。両手に剣、手が長い。

 筋肉強化、俊敏性強化、体硬化、そして剣技能力。大乱戦で湖西マシロに両断された剣士『外道』の力を与えられている。

 斬撃にやられたが、剣撃は受け切った。剣士としての腕はある。

 それが3体。区別がつかないほど似ている3体。つまりは強化剣士の魔獣が3体。

 対するは、

「参る!」

 知事邸入口に立ち並ぶ警官隊を巻き込まないように、自ら魔獣たちに走り寄る、白装束の剣士。

 激しい剣撃の応酬となった。1vs3。剣の数なら1vs6。圧倒的に不利だ。

 それを受け切るマシロ。3体に囲まれては間を抜け、また囲まれては位置を変えての剣撃戦。

 攻め切れない。剣の長さはほぼ同じだが、腕の長さが倍違う。斬撃も通じない。硬い体に弾かれる。渾身の斬撃を放ちたいが、3体の連携がそれをさせない。

 パーン!

 銃声がした。

 パーン!パーン!

 次々と鳴った。

 警官隊が全員発砲している?!

 魔獣の体が銃弾を弾く。全く気にしていない。

 しかし、マシロの方は違う。何度も当たりそうになる。剣6本+銃弾をかわす戦闘となる。

「ほらほら、もっと連射しなさい。」

 いつの間にか、警官隊の中に、見知らぬ女が混ざっている。

 コウモリを連想させる、黒覆面に黒ボディスーツの怪しい女。敵の異能力者が警官隊のすぐ後ろに立ち、彼らの体を操っている。

「や、やめてくれ!」

 意識までは乗っ取られていない警官隊。体が勝手に動く。コウモリ女の出す『怪音波』に操られているのだ。

 マシロに傷が増えてきた。

 深い傷は無いが、敵の剣撃が何度もかすっている。銃弾も気にしての戦闘は不利だ。

 ダーン!

 大きな銃声がして、

 コウモリ女が倒れた。頭を銃弾が貫通し、即死していた。

 知事邸の2階からの狙撃、東郷ヒトミがそこにいた。

 警官隊の呪縛が解けた。

 それを確認した東郷ヒトミ、

 注意が下へと向いていた。

 ライフルの、窓から外に出ていた部分が切断された。

 上から逆さ吊りのコウモリ女が現れた。

 下がる東郷、飛び込んでくるコウモリ女。

 マウントを取られてしまった。

 残ったライフルの半分で、コウモリ女の鋭い爪が、仰向けの自分の顔に迫るのを、必死に押し返して防いでいるが、

 不利だ。力もおそらく相手が上だ。

 ライフルはもう無い。ここに派遣された異能力者は2人のみ。警官隊も2階にはいない。

「殺された2号の仇よ!」

 上に乗るコウモリ女が勝ち誇っている。

 両手の鋭い爪、これは射殺した方には無かった。2号はコイツの劣化コピーだろう。

 本命に裏をかかれた。絶体絶命だ。

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