第15話 また1人、登場

 元・仲間と、警察庁異能力チームとの激突を、高みの見物と決め込もうとしていた696(ムクロ)団。

 開始直後の戦闘は少し見れたが、20 台仕掛けた隠しカメラを、早々と楯無管理官の弟に全て壊された。

「私が『念写』します。」

 クサカの腹心の女性が、異能力を使い始めた。

 20の映像を同時に分割表示できる壁一面の大モニター、そこは真っ暗なまま、手前にある、その1つをピックアップ切り替えできる方のモニターに、かなり荒いが、映像が映しだされた。

 ノイズが入る。ピントがズレる。どっち側の人間かは分かっても、顔は認識できないほどボケている。

 彼女の異能力は『遠隔視』、念写表示の方は得意では無かった。

「もういいよ。」

 クサカに言われて落胆する彼女。

「申し訳ございません。」

「いや、念写はいい。観察は続けてくれ。

 気になる者、気付いたことがあったら教えてください。」

 彼女に指示を出した。

「クサカさん、あの憑依する能力は使えないんですか?」

 小柄な男、瞬間移動能力のシュンが尋ねると

「あれは、私を信頼する者にしかできないんだ。事前に準備しておく必要もある。」

 正確には「信用」だろう。うまく丸め込んで、自分の意識の一部を潜ませておく。クサカを裏切り者だと思っている連中には使えない。

 ……戦闘後、

 腹心の遠隔視女性からの報告、

 『治癒』と『鼓舞』で警官のサポートをする女(多妻木アサヒ)の情報と、

「あと1人、身軽に動き回る、忍者みたいな女がいました。」


 数日後、戦いの跡地。

 形だけの現場検証も終わり、広い敷地と炎上大破した屋敷に、人影は見当たらない。

 瞬間移動してきた者がいた。

「お待ちしてました、」

 高い木の枝に逆さにぶら下がっていた人影が、空中で回転に、華麗に着地した。

「……で、ごさる。」

 両目以外は覆われている、いかにも忍者な格好をしている。

「おや、本当に居ましたね、忍者さん。いや、くノ一さんですね。」

 瞬間移動してきた小柄な男が、言葉を返す。

「血痕ならもうありませんよ、綺麗に始末しました……で、ござる。」

「おや……もうご存知でしたか。」

 笑って答える瞬間移動のシュンだが、これで二度目のミス、忍者をすでに知っていたこと、血痕(DNA?)を取りに来たことまで明かしてしまっている。

「ここに1つだけ『サンプル』がある……と言ったらどうします?」

 懐から、缶コーヒーくらいの小瓶を取り出したくノ一。

「おっと……で、ござる。」

 キャラ付けを言わされてるのか、言いたいのか、無理やり語尾をつけている。

「もちろん戴きます、そのサンプル。」

 言い終わるや、

 小柄な男シュン……の隣の大柄な男が、さらに大きくなり、魔獣化した。

「好きですね、魔獣化の異能力が。」

 40mほど離れて向かい合っている状態だが、くノ一は全く動じない。

「先生が言ってました。魔獣化が一番適合しやすいって。」

 三度目のミス。先生とはクサカだろう。魔獣化の異能力者(トリッカー)が一番造りやすい事まで教えてしまった。

「では、あとは宜しくお願いします。ボクは戦闘苦手なので。」

 隣の魔獣に託し、小柄なシュンは姿を消した。

「嬢ちゃん、黙ってソイツを渡しな。」

 魔獣がくノ一を睨む。体重差は、下手すりゃ10 倍以上あるかも知れない。くノ一は160cmくらいの女性。しかし、全く動じない。

 『真田 クノ』。19歳。忍者の末裔……では残念ながら無い。異能力は、このあと出てきます!

「行くぜっ!」

 魔獣が突進してきた。

 長い前脚で地を駆る、巨大ゴリラっぽい体型、しかし皮膚は鉱石のように硬そうだ。今までの魔獣と共通する部分が幾つもある。複合型か?

「火遁!」

 と言いつつ、左手のスイッチを押した。

 魔獣の手前に仕掛け花火のような火柱が上がった。

「単純すぎるぜっ!」

 魔獣が大きく跳ねた。10mは跳んだ。

「はい。単純すぎます……でござる。」

 降ってきた巨体とすれ違うかのように真田クノが飛び上がる。

 早い、あっという間に真横を抜けた。

「身軽だな。」

 追えたのは目線だけ、体は間に合わず、攻撃はできなかった。

「ええ、貴方は重すぎます……」

「抜かせっ!!」

 目線はそのまま、着地で地面を大きく蹴り上げ、空中でくノ一を捉えようとする魔獣、

「何っ?!」

 何が起きたか分からなかった。

 蹴ったはずの地面が無かった。

 勢いを付けて水の中にダイブした感覚、

 そのまま10m以上は深く潜り、

 ……戻っては、来なかった。

 真田クノ、異能力は『液状化』。

 触れた地面や壁を柔らかくし、トランポリンのように跳ねることができる。触れた付近が少しだけ液状化するので、注意しないとただの跳躍と区別がつかない。

 そして恐ろしいのは、長い時間をかければ広範囲を液状化できること。

 そして更に恐ろしいのは、戻すのは一瞬、魔獣は地下10mで地面に埋まった。

 半端な怪力では動きも取れず、呼吸も全くできなかった。

「……で、ござる。」

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