第11話 再び、戻る

「めんどくさいから、パス!」

 帰宅部で徒歩通学、いつも帰りが早い俺だったが、同級生に見られるのが嫌で、母さんからの買い物の誘いを今までずっと断っていた。

「今日は荷物持ちがいるから、一杯買おうかな」

 から元気かも知れないが、母さんの笑顔は久しぶりだ。

 お菓子をカートに入れる母さん。姉ちゃんの好きなヤツだ。

 異世界のことは、多分信じていない。

 でも、明朝俺が出ていくのは事実と思っている。

「これもいい?」

 姉ちゃんが好きな別の菓子、

「今月のアンタたちのお小遣いの分だけ買っていいわよ。」

 俺は半月、姉ちゃんは一月ちかく居なかった。

 色んな菓子を、たくさんカートに入れた。みんなの分だ。リュックに詰めるだけ詰めて、異世界に戻る予定だ。

 カレーの材料も買って帰宅、調理の手伝いも初めてやった。

 タマネギという、想像を絶する強敵の凄さを初めて知る……目が痛い。

 カレーを3倍おかわりした。母さんが大量に作ってくれたので、それでもけっこう鍋に残った。

「明日の朝も食べる?」

「うん!」

 即答した。

 ……一緒の部屋に布団を並べ、寝た。

 父さんは結局、帰って来なかった。

「うーちゃん(姉ちゃん)、体を壊してない?」

 消灯してからも、色々聞かれた。

 でも母さんは、言いたいことを1つだけ言わなかった。

「明日、出て行かないとダメ?」

 言われなかったけど、俺には伝わっていた。

 ……

 翌朝、カレーを2杯、

「残りはパックに入れたから、みんなで食べて」

 そういえば、電子レンジが使えることも話した。大きいリュックにギュウギュウに詰めた。食料と姉ちゃんの衣類、けっこう重くなった。

 玄関から出ようとする俺を、

「あ、」

 呼び止めようとする母さん、でも、

「行って来ます!」

 笑顔で出ることにした。

 ドアノブを回そうとした時、

 玄関ドアが、外から開いた。

 父さんの帰宅、

 ……肩には、ゴルフバッグが掛けられていた。

「何だ?……もう行くのか?」

 淡々とした父さんの言葉、俺は父さんを睨んでいた。


 9時少し前、門浦先輩はもう来ていた。

 ソノちゃんの家の前に2人揃うと、

 着信音が同時に鳴った。

❝ドアの前に2人で立ち、

 門浦景子が『ゲート』を開き、

 内木 零だけ中に入れ。❞

 言われた(書かれた)通りに実行、

 俺だけ、

 異世界に戻った。


 ドアにゲート穴を開けたので、いきなり玄関の中に入った。

 多分ドアに鍵がかかっているから、そう指示が出たのだろう。

 ドアの音がしなかったので、まだ誰も気づいていない。

 それ以前に、異世界ソノちゃん家では、大騒動となっていたのだが……

 廊下まで響く、アイちゃんの鳴き声。

(そうだった!)

 俺にしか懐いていないのを思い出した。

 駆け出して、居間に飛び込む。

 部屋の隅に、持ってきたバッグを置き、

 アイちゃんの相手……と行きたかったが、

 それより先にやりたい事を優先、スマホを構えて、集まっている姉ちゃん達の写真を撮った。

 即座に送信、

 LIMEに“既読”が付いた。

(やった!)

「写真が届いたら、俺の両親に見せて下さい。」

 ゲートに飛び込む前に、門浦先輩に伝えた。

 これ以降は、『圏外』と出て、連絡が一切取れなくなるのだが、

❝門浦景子がこの能力を使うのは、これが最後です。❞

 最後の『ゲート』。俺は振り向かなかったが、俺が通った後も、ギリギリまでゲートを開いて待っててくれたのかも知れない。

 俺はホッとしたが、

「レイくん?!」

「レイくん、早く!!」

 俺の姿を確認するなり、叫びだす姉ちゃん達。

 実は、想像以上にヤバい事態となっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る