第22話 バージンロード?

”タタタターーン♪タタタターーン♪“

 ウエディングマーチが流れている。

 長い赤絨毯を歩く2人。

 左に純白のウエディングドレスに身を包む笑顔の女性、これは、楯無管理官?!

 すると右側は、その管理官が腕を組む相手、タキシードの若者、やはり楯無良器(リョウきゅん♡)だ。

 ここは教会ではなく、

 なんと入院病棟の廊下だ。

 ウエディングマーチは、リョウきゅん♡の胸のスマホから高らかに流れている。

 背の高い管理官、ブーケを手に歩く花嫁姿が絵になる。嬉しそうだ。

 一方のリョウきゅん♡、照れている。無理矢理やらされている……訳でもなさそう。

 ゆっくり進む廊下の両脇には、笑顔で迎える人々、知っている顔が見える。

 白装束の剣士『湖西マシロ』。狙撃の名手『東郷ヒトミ』。くノ一『真田クノ』……

 知らない顔も見える。途中の病室の入院患者やお見舞いの家族。笑顔で祝う人、戸惑っている人、様々だ。

 看護師や医者はいない。後ろの方で止めようとしているのを、管理官の部下、制服警官が抑えている。無理やり強行したらしい。

 最奥の部屋に着いた花嫁とリョウきゅん♡。

 ベッドがゆったり4つ置かれた病室。その2つに患者がいる。1人は11歳の子供。もう1人が管理官のお相手。

 笑顔で花嫁を迎える新郎、リョウきゅん♡は花嫁の父親代わり、ここで新郎にバトンタッチ。

 その新郎は……9歳の男の子?!

 新郎はベッドから出ない。上半身を起こすのがやっと、顔の表情と向き以外はほとんど動かない。動かせないのだ。

 新郎の隣に彼の母親が立っている。この女性は、アイトマンのメガネ司令官?!

「では、指輪の交換を。」

 新郎のベッドの後ろに立つ神父、いや、神父役の女性は『多妻木アサヒ』、歌って踊る治癒能力者。

 新郎の少年が、ゆっくりと、震えながら左手を動かす。少し上げるだけでも大変そうだ。

 結婚指輪を持つ左手、手首が細い。まるで赤ちゃんのようにか細い腕をしている。

 直前まで母親が左手を誘導し、そこから何とか自力で動かして花嫁の左薬指に指輪を通すと、そこからは花嫁が手をゆっくり動かし、指輪交換が一つ終わった。

 キラッと光る指輪を嬉しそうに新郎に見せる花嫁。お返しの交換はすんなりと済んだ。

 拍手が起こる。マシロ、ヒトミ、クノを始め、親しき関係者が病室内まで入っていた。

 警察庁本部では、

「私も、管理官の花嫁姿、見たかったな……」

 愚痴をこぼす、留守番組の『香取ミナミ』。緊急出動に備えて、実力者のミナミを本部に残した。

「写真、来ましたよ。」

 スマホに届いた写真を即座に壁のスクリーンに映したのは、もう1人の留守番組、秘書官の『須山モトカ』。この2人を残しておけば、とりあえず一安心。管理官は思っている。

 大画面に、新郎新婦、リョウきゅん♡と新郎母、神父役の多妻木アサヒの写った記念写真が表示された。

 続いて二枚目、そこへマシロ、ヒトミ、クノ、隣のベッドの少年も混ざった賑やかな写真。

「あーあ、やっぱ、ここに混ざりたかったな…」

 愚痴をこぼすミナミ。彼女は管理官をリスペクトしている。

 強気な性格と言動、「ミニ管理官」などと揶揄された陰口を、褒め言葉だと思っているほどだ。

「留守番役は信頼されている証ですよ。」

 本心から言っているモトカ。半分は自分に向けられた言葉かも知れない。

「知らされないより、ずっとマシです。」

 この結婚式を全く知らないのが1人いる。

 『ライセンス』の異能力で様々な乗り物を操る泣き虫少女『扇 ライチ』だ。

 色々うるさそうなので、黙っている事にした管理官。後で知らせてもうるさそうだが、自分へは何も言って来ないのも分かっている。彼女は管理官を恐れているから。

 ただ、ほとんどの者は、この式を直前まで知らされていなかった。

 この新郎の存在さえも知らなかった者がほとんどだ。

 そして……

 この少年が、

 余命3ヶ月だと、

 もう半年以上前に母親に告知されたことも、ほとんど誰も、知らなかった。

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