第2話 熱い世界

 肌を焼く暑さ、もとい熱さの中を二つの人影が進んでいく。

 周囲は一面の砂だけの世界。いわゆる砂漠だ。


「あ、あっつい……せめて日陰の一つも無いのかしら」


 さすがに熱さに耐えきれなくなってきたので、目の前を歩くヨハクに弱音を吐く。


「あと五日ほど歩いたところに人が棲んでいる集落がありますから、それまでの辛抱ですよ」


「五日!?そ、それはさすがに耐えられないかもしれないわね」


 彼は何でもない事のように言ったが、それはとても耐えられたものではない。

 景色も何も変わらない炎天下の中ひたすら歩き続けているのだ、これがあと五日も続いたら気が狂ってしまうかもしれない。


「そうですか……仕方ないですね。では、ちょっと急ぎますか」


 彼が手を差し出してくるので、私は待っていたとばかりにその手を取る。


「早く行きましょう。決まったのなら善は急げよ」


「ゆっくりと景色を見て回るのも旅の醍醐味なのですがね」


 そんなことをぼやきながら、彼が一歩走って――――私を連れて、人が棲んでいるだろう集落が遠くに見えるところまでやってくる。


「はい、さすがに町中に突然移動するわけにはいかないですが、ここからなら三十分ほどで着くでしょう」


「それくらいなら十分よ。行きましょう」


 手を放して、町に向けて歩き出す。果たして今回はどのような人が棲んでいるのか、少しだけ心を期待に染めながら。



――――――――



「で、着いたのはいいけれど……流石に姿かたちから違うわよね」


 世界が違うのだから『人』と言っても姿かたちが違うことは珍しくない。

 ある世界では三メートル前後の巨大な『人』だったこともある。

 ある世界ではヒレが生えて水中に棲んでいる『人』だったこともある。

 ある世界では腕が四本生えている『人』だったこともある。

 世界が違えば環境が違うのだから、その環境に合わせて『人』が変わるのは自然な事だ。だから、今回のように熱い世界でも姿かたちは違うと予想はしていたが。


「別の世界で見た中だと、『岩人ロックヒューマン』に近いかなこれは」


「ロック、なるほど確かに、岩のようというか岩そのものね」


 町について最初に驚いたのは岩に足が生えて動いていたことだ。が、すぐにそれがこの世界の『人』だと気が付いた。

 おそらく、ああいう肌でもないとこの熱さには耐えられないのだろう。 

 岩のように堅くて重そうな見た目とは裏腹に動きも滑らかで、この熱さの中でも平気そうに動いている。

 彼らはまさにこの世界で生きていくことに適した『人』だと言えた。


「……問題は、見た目が違いすぎるから私たちのことを『人』と理解していないことね」


「先ほどから、こちらのことを遠巻きに見ている『人』はいるけれど、さすがに話しかけてくる人はいないからね」


「実際、同じではないのだから仕方ないけれど。どうする?『翻訳魔法』もあるから話すこと自体は出来るはずよね」


 出来れば彼らに話しかけて早い所涼しい場所を教えてもらいたい。それが無ければ別の世界に移動したい。という要望がこもっていたが、彼には通じたのかどうか。


「逆に聞きますが、彼ら目線でいきなり話しかけられたらどういうリアクションをすると思いますか」


「どうって?」


「自分達とは明らかに姿が違う生き物、いっそ異形と言っていいでしょう。それが自分たちと同じ言葉で話しかけてくるんですよ。恐怖じゃないですか?」


 逆の立場で想像してみる。『翻訳魔法』が無かったとしたら、自分がこの目の前の蠢く岩の塊のようなものからフレンドリーに話しかけられでもしたら……。


「確かに怖いわね」


「そういう事です。仕方ありませんから、次の世界に行きましょうか」


 彼が再び手を差し伸べる。


「えぇ、行きましょうか。いつまでもここに居たら焼けてしまうわ」


 私は彼の手を取る。そして、私たちはこの熱い世界を後にするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る