第28話 回る世界
その世界では、街の真ん中に巨大なスロットがあった。
「……何かしらねあれ」
「回転台ですね。中央の絵柄が回って、揃ったら大当たりの」
「いや、それは知ってるわよ。私が知りたいのは、なんで普通の家より大きなスロットが中央に鎮座してるのかしらってことね」
「それは僕にも何とも。まだ来たばかりですしね」
そう言ってヨハクは肩をすくめる。
「とりあえず街の中を散策してみましょう。何かわかるかもしれませんよ」
「そうね……いや、分かってくれないと困るけれど」
そうして、街の中を歩いてみたがスロットの理由はすぐに分かった。
すなわち、この世界では大体の物事をスロットで決めるらしい。
例えば買い物。
「ここ、八百屋みたいだけど置いてあるのは……野菜の絵柄が描かれたスロットだけね」
「どうやら、スロットを回して当たりが出ると、その野菜が出てくるようです」
「……それじゃあ、欲しい野菜が当たらなかったらどうするのかしら」
「出るまで回すのでしょう。隣にあるお肉屋や家具屋も同じようにスロットが置いてありましたよ」
「食べ物はまだしも、家具までスロットなのは不便ね」
というか、当たらなかったら何ももらえないのだろうか?運が悪かったらお金がいくらあっても足りなさそうだ。
「あっ、このスロットを見てください。これなら無理に当たりを狙いに行かなくても大丈夫そうですよ」
そう言って、ヨハクはなんらかの料理の店と思われる前にあるスロットを指さす。
「どんなスロットよ……へー、一番左のリールで商品を、真ん中で量を、右で値段を決めるスロットね。こんな形式のもあるんだ」
「折角ですし、試して見ませんか?ちょうどお昼時ですし」
そう言って、ヨハクが躊躇いなくレバーを引くと、リールが高速で回転し出してやがて止まった。
「えーと、何々……塩ラーメン・中盛・九百八十円。まぁ、普通ですかね」
この世界の物価は分からないが、今まで旅してきた世界の基準通りならそこまで高い値段でもなさそうだ。
「じゃあ、私も回すわね」
彼に倣って、同じようにレバーを引く。同じようにリールが回って、そして止まった。
「おっ、特製鶏出汁ラーメン・特盛・二百五十円って結構な当たりじゃないでしょうか?」
「そうね、問題は特盛を食べられるかどうかなんだけど……」
ラーメンの特盛って、店にもよるけれど結構多いのよね。
というか今更だが、この店はラーメン屋なのだろうか。どこの世界にもあるなラーメン。
「多くて食べきれなかったら言ってください。僕が食べますから」
「そうね、頼りにしてるわ」
結局、特盛ラーメンは半分くらいを食べた所でお腹が一杯になったので残りはヨハクに食べて貰った。
その後も適宜スロットを回して買い物をしたりしながら街を散策した。
全てがスロットで決まると言うのも、たまにやる分には中々に楽しい経験だった。
「さて、そろそろ今夜の宿を探すべきですかね」
「そうね、もうすぐ日も落ちるからその前には見つけたいわ」
野宿なんて事になったら目も当てられない。
そう言うわけで宿屋を探すと、思ったよりも割とあっさり見つかった。
だが、一つ問題があった。
「あっ、泊まれる部屋もやっぱりスロットで決めるんですね」
「はい!どの部屋でもお値段はいっしょなのでご安心を」
やけに元気な宿屋の受付さんに見守られながらスロットを回した結果は……。
「すみません、まさかシングルベッドの一人部屋が当たってしまうとは」
案内された部屋は、こじんまりとしていて二人で泊まるには結構ギリギリな感じの部屋だった。
「運だから仕方ないわ。というか、アンタでも運は普通なのね」
もっとずば抜けて運が凄い良いとか、そう言うのがあるイメージがあった。
「僕も人間ですからね、運は普通ですよ。いや、因果やら過程に干渉すれば好きな結果は引き寄せられますが。折角の運勝負でそれは無粋じゃないですか」
「気持ちはわかるわ」
自由に決められたら、スロットの意味の全否定だ。確かにそれでは面白く無いだろう。
「しかし、この部屋は失敗でしたね。僕が寝るところがない」
一人用のベッドが一台と、あとは床に座布団が数枚と机があるだけだ。
「良いわよ、わたしは床で寝るから。アンタがベッドを使いなさい」
「そうも行きませんよ。この部屋になったのはそもそも僕の責任なのですから、責任を取って僕が床で寝ます」
「この部屋の宿代とかはアンタが出してくれてるのだから、アンタにはベッドを使う権利くらいあるわ」
そうして、二人で言い争うことしばし。結局アレで決めることにした。
「探してみればあるものね、どちらの言い分が正しいかスロット」
街の中央、巨大なスロットの近くには大小様々で形も内容も色々なスロットがあった。
郷に入りては郷に従え、ではないが言い合いでは埒が開かないのでこうしてスロットで決めることにした。
「それでは、恨みっこなしの一発勝負ですよ。回してください」
ヨハクが回すと不正するかもしれないので私が回すことになった。
「えぇ、行くわよ。とうっ!!」
そうして、私はその日ベッドで眠ることになった。
床で寝ているヨハクには申し訳なかったが、フカフカしたベッドは中々に寝心地は良かった。
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