第27話 鈴の世界
ちりん。町中を歩いていると、そこら中から鈴の鳴る音が聞こえてくる。
辺りを見回せば目立つところに主張するように付けている人もいれば、目立たぬように小さな鈴を身に付けている人もいる。
どちらにせよ、この世界では最低一つは鈴を持ち歩くのが常識のようだ。
「変わった世界よね。なんで音も鳴ってうるさい鈴をわざわざ常に持っているのかしら」
そう言いながらも、郷に入っては郷に従えということで私も小さな鈴を腰から下げている。
邪魔にはならないし、最初のうちは動くたびに小さく鳴るのも風情があると思ったが、ずっとそうだと流石にちょっとうるさく感じるようになってきた。
「『魔除け』の効果と、魔法の『触媒』として使うためのようですよ」
さっき色々と聞き込みをしていたかれが教えてくれる。
「この世界には、なにやら伝承に伝わる恐ろしい魔物がいるそうですが、それが鈴の音を嫌うので襲われないように身につけているそうです」
「へー、確かに鈴が魔除けになるっていうのは他の世界でも何度か聞いたわね」
この世界では、それがとても広く普及しているのだろう。
その魔物がどれだけ恐ろしいかは知らないが、それでも全ての人が着けている以上は有名であることは間違いないのだろう。
「そしてもう一つ、信心の薄い人にとってはこちらがメインでしょうが、この世界の魔法体系では、鈴を鳴らさないと魔法が使えないのだそうですよ」
「珍しい魔法体系ね」
私にとっての『詠唱』のようなものだろう。『舞踊』や『歌唱』、『手印』など世界ごとに魔法を使う際には様々な方法が存在する。それが、この世界では『鈴の音』なのだろう。
今までの世界では聞いたことがない珍しい体系だが、あり得ない話ではない。
「そうですね。珍しいので、実際に使っている所を見てみたいものです」
彼が期待に満ちた目で頷く。
彼は珍しいもの……正確に言うとその世界ごとの特色が濃いもの、他の世界にはあまりない技術が結構好きだ。
私としても鈴の音で魔法を使うというのは面白そうなので見てみたい。
「とは言っても、魔法を使うところを自然に見るのなんてどうすればいいのかしら」
「生活魔法は、見た感じですと大体が魔法具を使って行っているのでちょっと違うんですよね」
すでに彼は目敏く色々と調べているようだ。
「となると、戦闘魔法が見れる場所に行くしかないわね。どこかに魔法を使うほどの規模の戦いでもないかしら……?」
例えば、伝承に出て来るほど凄くはなくても、街の近くで魔物が暴れているから倒してほしいとかそういう依頼があったりしないだろうか。
「そういう、いわゆる冒険者や狩人的な事を生業にしてる人は少ないそうです。世界規模で平和みたいですね」
「そうなのね……」
世界が平和なの自体はいいことだが、それでは戦闘魔法も見るのが難しそうだ。さてどうしたものか。
うーん、と二人で唸りながらとりあえず宿に帰ることにした。
「魔法が見たい?それなら今度隣町でやる夏祭りを見に行くといいよ。あれでは毎年『祝祭魔法』が使われるからね」
なんの案も浮かばなかったため、いっそストレートに宿屋の店主に聞いてみるとあっさりと答えをもらった。
詳しく話を聞くと、明後日から始まる夏祭りにて魔法を使った催し物があるそうだ。
「この時期にこんなところに来るなんて、てっきり最初から夏祭りが目的だと思ってたんだが違ったんだな」
「えぇ、夏祭りのことは完全に知らなかったです」
「知らずにこの時期に来れるなんて、むしろ運が良いよあんたら。きっと見たこともない物を見れるよ」
期待してるといい。と店主は笑いながらお勧めしてくれた。
翌日、一日かけて隣町に移動して宿を取った。
夏祭りなのもあって宿も混雑していたが、運良く空き部屋がある宿があって泊まることが出来た。
「楽しみね、どんな魔法が見れるのかしら」
「えぇ、期待しています」
という会話をしてからさらに翌日。夏祭りの本番が始まった。
「街全体が賑わっていますね。祭りというだけはあるようです」
「そうね、見たことのない食べ物の屋台とかもあって確かに賑わっているわ」
二人で街を散策しながら祭りを楽しむ。
何を祝う祭りなのかをそう言えば聞いていないから知らない事に気がつきながらも、楽しむ上では知らなくても問題がないので気にせず楽しんだ。
そうして、祭りを二人で楽しんで夜。
ついに今回この祭りに来たメインの理由である『祝祭魔法』の披露の時が来た。
「楽しみですね、どんなものが見られるのか」
「お祭りを楽しめた時点で、もう結構私は満足だけどね」
などとは言いながらも、どんな物が見られるのかは予想もつかないので楽しみである。
「始まりますよ」
ヨハクがそう囁くと同時に、あたりから『ちりん』と今までよりも強く澄んだ鈴の音が聞こえ始める。
音と共に、空に光が昇っていき光の花が咲いた。
「わー。綺麗ね」
鈴の音の魔法で作られた花火。火薬で作られたそれとは違い、大きな音はないため人によっては物足りないかもしれないが、澄んだ鈴の音と共に登る光の花は独特な模様と色合いでとても美しかった。
「えぇ、見れてよかったです」
そういうヨハクの顔にも、満足そうな表情が浮かんでいた。
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