第24話 金の世界

「私の世界には、黄金都市ジパングっていう伝説があったのよ。建物も道具も全てが黄金でできた一大都市、いくらでも出て来る黄金の資源という豪勢な都市ね」


「夢のある話ですね」


「えぇ、子供の頃に聞いた時はきっと金ぴかでとてもきれいな都市だろうなと夢想したものよ……まさか、異世界にとはいえ本当にあるとはね」


 言って目の前の現実を見る。

 柱から壁まですべてが黄金でできた建物の中。黄金の椅子に座って、黄金の机に向かっている。

 机に載った黄金で出来た皿の上には、黄金に輝く料理が置かれている。


「……いや、家や家具はともかく、食べ物まで黄金なのはさすがにどうかと思うけれど」


 黄金って食べられるのだろうか?


「安心してください、食べ物は金色に輝いているだけで普通に動物の肉です。調理工程が特殊なようですね」


「肉を金色にするって、どんな調理をするのよ……」


 と思いながらも、食べなければ生きてはいけない。私はおそるおそる目の前の金色の肉を一口食べてみる。


「……なんだか、ちょっと辛味があって美味しいわねこの肉」


 この金色は、どうやらタレの色のようだ。何が使われているのかは分からないがピリッとした刺激が柔らかい肉とマッチしていて美味しい。


「この金色のタレは、どうやら果実で作られているようですね。辛味のある果実とは珍しいものです」


「なるほど……ということは、元は金色の果実なのかしらね」


 ちょっと面白そうなので、是非とも木になっているところを見てみたいものだ。

 などと軽く雑談をしながら食事を終える。こんな黄金尽くしの内装の店で、美味しくてみためも豪華な食事だったが、値段はリーズナブルであった。


「美味しかったわね、この後はどうする?」


 夜だというのに、星明りで建物がキラキラと輝いて眩しい通りを二人で歩く。

 こんなに明るいと、宿に帰ってそのまま寝るのはなんだかもったいない気がしてしまう。というか、普通に眩しくて眠れるかどうか分からない。


「そうですね、ちょっとお店でも覗いて行きますか?町の外に出るのは、いくら明るくても夜は夜なので治安がどうなっているのか分かりませんからね」


「それもそうね、さすがに町の中なら心配はないと思うけれど」


 少しくらいの危険ならヨハクがいれば簡単に払いのけられるとは思うが、彼に頼り切りも良くないだろう。

 素直に、二人で町中を見て回ることにする。


「日常で使う家具、筆記用具、服に本まで、本当に全部金でできているわね……」


 金をここまで様々なものに加工できるのはすごい技術ではなかろうか、と今更ながらに気が付く。本なんて、紙のように薄くてしかも柔らかい。どんな加工をしたらこうなるのかとてもじゃないが想像もつかない。

 もっとも、本の下地が金色な上に金色で文字や絵が描かれているのでとても読みにくかったが。


「利便性の面で見ると、なんでも金にすればいいってわけでもなさそうね」


「それはそうでしょうね。そもそも、金って普通の鉄よりも重いので鍛えないと日常で使う分には不便だと思いますよ」


 言われてみればそれもそうである。

 私はまだ肉体的に衰えの来るような年ではないから、こうして普通に金製品を扱えたが、もっと年を取って老人になってしまったらこの世界ではとても生きて行けそうにない。

 と想像こそしてみが、そもそもこの世界にそんなに長く過ごす予定はないが。


「ところで、折角こうして見て回っているのですし、何か記念に買って見ますか?」


「あら、珍しいわねそういう提案をしてくれるのは」


 ヨハクは身に着けるものにあまり頓着しないので、私から頼まないと嗜好品を買うことは珍しい。

 そして以前にも言った気がするが、お金の用意は大体ヨハクがしてくれているので、私からねだるのはなんだか気が引けるのでよほど気に入った物以外で私が頼むことはほとんどない。

 つまり、こういう嗜好品を買うということはそれ自体が結構珍しいことだ。


「ふふっ、たまには僕もそういう提案をすることはありますよ」


 この世界の金は特に綺麗ですからね。と続ける。


「それで、どれが欲しいんですか?」


「そうね……あっ、これなんていいんじゃないかしら」


 見つけたのは、やはり金色をしたちょっと凝った意匠の髪留め。

 見た事はないが、おそらくこの世界に咲く花がモチーフなのだろう。


「いいですね、ではそれを買ってきましょう」


「えぇ、そしてアンタにはこれをね」


 言って、同じような意匠の金色のブローチを渡す。


「……僕もですか?」


「えぇ、折角だからアンタも買っておきなさい。お揃いよ、嬉しいでしょう?」


 自分で言いながら、照れて顔が赤くなるのを感じる。


「……はい、とても嬉しいです」


 彼は、臆面もなくそうやってあっさり告げてくる。

 それがなんだかちょっと悔しかったけれど、同じ意匠の装飾品を着けられる喜びが勝ったので、その事は責めないであげることにした。

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