第17話 働く世界
「そういえば、普段ってどうやってお金を用意しているの?」
飲食店にて、お金が無かったので皿洗いのバイトをしながら質問する。
ちなみに、こういう労働は初めてではない。普段はヨハクがどこからかお金を用意しているのでそれで払ってもらっているが、たまに用意できずにこうして働くことがある。
だがその頻度はあまり高くない。その事に対して今まで疑問に思わず、ずっと払ってもらっていたのは、改めて考えてみると私は彼に頼りすぎではないだろうか?少し反省した方が良いのかもしれない。
「そうですね、大体は物々交換です」
同じように皿を洗いながら彼が答える。
「異世界を旅行しながら、その世界ではあり触れているけれど他の世界では珍しいものをたくさん集めておいて、それを使って物々交換したり、あるいは質に入れたり売り払ったりしてその世界でのお金を手に入れています」
「あぁ、だからあんたは大きめの街に着くとすぐに質屋とかを探しているのね」
今更ながらに合点がいく。質屋やら商店を真っ先に覗きに行くのは、まず元手を手に入れるためだったわけだ。
「そうですね、他にその世界で売られているもの、売れるものの調査の目的もありますね。商店で高く売られているという事はその世界で価値があるという事。つまり物々交換する際にも価値があるものですから」
売られているその世界特有の珍品を見たいという趣味もありますけどね、と彼は付け足していたが、私はさっきより深く反省していた。
彼が金策をそんなにちゃんと考えていたとは知らなかった。それなのに私と来たら何も考えずに彼に全部任せっぱなしで……本当に申し訳ない気分だ。
「せ、せめてここの皿洗いだけでも私が全部やりましょうか?」
「いえ、二人でやったほうが効率も良いですし、アナタだけに任せっぱなしにするのも申し訳ないですから」
その申し訳ないことを今まで散々やってきたからこその提案だったのだが。
「それに、お皿洗いも面白いですからね。お皿は大体の世界で同じ、食べ物を載せるのに適した真っ平らな形状ですが、細かな意匠や素材が違います」
こちらの様子に気づいてか気づかずか、彼は話を続けながら洗ったばかりのお皿をこちらに見せる。
「このお店はいわゆる庶民層向けの大衆食堂ですが、そんなお店のお皿までこうしてワンポイントの飾りがついています。これだけでも、この世界の芸術文化がかなり進んでいることが分かりますね」
そうしてそのお皿をコツコツと手の甲で叩く。
「材質も、知識の中にある陶磁器に近いものですね。おそらく粘土質の土を成型して焼いたものでしょう。結構な手間がかかって作られています」
この世界では大量生産されているから安価で手に入りますが、世界によっては高く売れるんですよ、と解説をしてくれている。
彼がこうして自分の知識を語っている時はいつもとても楽しそうで、私も普段はそれを楽しく聞いているのだが今回ばかりは違った。
こういう知識も異世界旅行を続けるうえで必要だから身に着けたものなのだろうという事実に気が付いてしまうと、それを身に着けることがなくても普通に旅をしてこれた自分が、どれだけ彼の庇護下でいたのか理解してしまって、なんだか恥ずかしくなってきた。
自分と彼は対等ではない。そもそもの能力が全然違うのでそれは当然だし、この異世界旅行だって出来るのは彼の能力あってのものだ。
しかしだからこそ、そういう能力によらない部分では彼と対等にありたいと思っている。なぜなら、どれだけ能力に差があろうとも彼とは友人なのだから。
どちらかが一方的に頼りきりになるなど、健全な友人関係とは言えないだろう。
だからこそ、私は望むのだ。少しでも彼の助けになりたいと。
「と言うわけだから、私も少しずつはあんたの金策を手伝うわ」
バイトが終わって謝礼を貰って宿にて。皿洗いをしながらずっと考えていたことを彼に宣言する。
「別に、そんなことをしなくても僕はアナタを対等な友人だと思っていますが」
「えぇ、アンタはそう言うでしょうね、分かっているわ。そもそも今まで一人でうまくいっていたのだし手伝いなんて必要も無いんでしょう」
むしろ、そういう事を一切やってこなかった私が手伝うのは邪魔でさえあるかもしれない。
「だから、これはただの私のワガママよ。私がアンタを対等な友人だと思いたいから、思っていたいから、そのために必要な事なの。分かったら、つべこべ言わずに手伝わせなさい」
有無を言わさぬ口調で断言する。手伝わせろと偉そうに言うのはなんだかおかしなことに感じるが、これが私の偽らざる本音だ。
それを受けて、しばらくあっけにとられていた彼は――――小さく噴き出した。
「くっ、ふふふっ、いいですよ、分かりました。この世界では先の皿洗いと、質屋に他世界の物を卸したことでお金は十分ですから、次の世界からはそうしましょう。共に金策のことを話し合うのも、旅程の一つとして楽しいかもしれませんからね」
「えぇ、それでいいわ。忘れないでね」
「えぇ、友人との約束ですからね。忘れませんよ」
こうして、私もこの旅の金策について関わるようになった。
覚えることも多くて想像以上に大変ではあったが、彼と共有できる情報が増えて楽しかったのも確かである。
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