第30話 記憶の昔と現在

 庶民街の寝泊まりに使う民家地下室と、近隣の魔法薬品店の地下室を結ぶ通路を完成させたモヒート。


「パンナ様、地下通路が開通しました」

「モヒートよ、まずは手や顔を洗って、休憩しなさい。自身の培養体がほころんでいないか、確認しておくれ」

「了解しました」


 パンナに言われた通り、モヒートは汚れを洗い清潔にし、ローブを脱いで下着姿になり、自身の体に異常がないか確認した。

 ローブの補正作業をしながら、パンナが話し始める。


「培養体は、以前のガー坊の体が初めて転生して動いた存在だった。今のアタシたちは転移して、生命を得た培養体。この体がいつまで持つのか全く分からない。ただ、空腹を感じ、食事をして満たされ、血肉に変わることが信じられる。体温が上がり

手足の末端まで温かく感じるからじゃ。アタシの不死である体細胞を半分使って、精神だか魂ってやつが転移。今の培養体が不死であるとは思えない。しかし、不死かもしれない。これは長く生きてみないと分からないこと。即、終わらせようと思えば

手段はいくつもある。でもな、魔法使いであり、錬金術師も兼ねたアタシが今、望むのは普通の日常を送ってみたい。日々を数えるのが面倒になるほど、幽閉されていたからな、違う体になったとしても平凡を感じたい。だから、もうひと踏ん張り抗って国外へ行ける体か、毎日を確認が必要なんじゃ」


「パンナ様、念のため、培養体を作られるおつもりですか?」

「やはり、ここでは時間がなかろう。しかし、回復薬は作りたい。実験器具や薬品等は、どちらかが見張りとなって少しずつ運ぶ。薬品棚にあるなら頂いていく」

「了解です。今日はどうしましょう?少し運びますか?」

「いや、内容確認もあるし、一気に在庫が減るとドストルが怪しむ。それは昼間に考えた方が良さそうじゃ、今は眠気が・・・睡魔に抱きしめられておる。寝るぞ~ぃ」


 急に寝落ちしかけたパンナに肩を貸して、モヒートは地下室へ一緒に下りる。ベッドに寝かせると、豪快な寝息が聞こえてきた。


「パンナ様・・・緊張状態が続き過ぎて、体力が限界だったのですよ。しっかり寝てください」


 モヒートは、目覚まし用バケツの細工をして、深く寝入った。


 それからしばらく、日中、庶民街から城の近くまでパンナとモヒートは歩いて各地区を探索した。少しずつ行動範囲を広げるが、やはり人影がない。やはり、民家や大きな邸宅であっても、塀に緑色のシミがあった。ドストルが話した通りの何かが飛んできて住民を苦しめたのだろう。そういう箇所を見つつ、さらに歩く。時折、周囲を警戒し、後をつけてくるものがいないか、隠れながら進んでいくと、王国の城壁が見えてきた。ずいぶん歩いてきたので、二人は空き家の塀の内側で休憩することにする。


「この培養体って、ちゃんと筋肉育つんですかね?歩いた疲労は溜まるようです」

「元は、アタシらの体組織だから、鍛えればゴツい体になるはずじゃぞ。この探索は、体力づくりも兼ねていると思うと、まだやりがいがある」

「地道にいかないと、体が育たないか。たまに高速移動する時に、地形操作で運ばせ、楽しちゃってますからね。」

「体力つけば、精神力も上がる。魔法で戦う時にも差が出てくるもんじゃ」


 パンナが塀に隠れながら城を眺めた。


「アタシが若い頃にあの城にいたんじゃよ。姫のお供で巡ったこの城下町は、すごく賑わっていて辺境の地でありながら、繁栄しているとても豊かな場所だと感じていた。何がきっかけだったのか?アタシの他数名錬金術も試すよう国王からの命令が下った頃から城で働く人々が徐々に減った気がしていて、その後に、ヒッポリー湖のヒポ討伐があった。ぼんやりした記憶しか残っていない」

「そういう時は、地元の人に聞くのが手っ取り早いのではないでしょうか?」

「そうじゃな、アタシは外に出られなかったから情報がないに等しい。では、戻ろうか」


 尾行や監視されていないか、周囲の警戒をしながら、二人は庶民街集会所に向かった。


「こんにちは、ドストルさん」

「あれ、お二人さん、今日は早いね。お腹空いたのかい?」

「いえ、お話を伺いたくて。庶民街や他の場所も見てきたんですが、お城の近くまで行ったんです。お城も今は誰もいないのかな?って」

「モヒート君、お城には近付いちゃダメだよ。城門には門番の衛兵がいるんだ。・・・この世の者とは思えない姿をしている。人のような姿なのに頭が動物。城の家畜か分からないが、おかしな姿なんだ。そのような者がいるのに、国王が全く出てくる様子がない。昔は謁見があり、我々国民が拝聴する機会があったんだ。お忍びで、庶民の暮らしぶりを調査されておられた。しかし、いつからか、お目にかからなくなった」

「ドストルさん、二本足で立つのに頭や顔が動物と申されるのか?」

「パンナちゃん、そうだよ」

「・・・化け物じゃな」

「だから、お城には近付かない方がケガしないし、身の安全が確保できる」


 パンナは、ぞっとした。王国が兵士の成長を待てず、苦肉の策で計画が浮上した人と家畜との融合。その研究が進み、現実化していた。倫理的な事から、パンナは反対していたが王国に戻れなかったため、その計画が強行されたようだ。


 集会所での夕食後、民家に戻り、地下通路を通って魔法薬品店からの使えそうな薬草・薬品の物色作業に入る。回復薬に使える物等、少しずつ民家地下室に運んでいた。また、地下室が手狭になると、モヒートの地形操作で地下室を拡張し、また壁を作って実験室として区分けした。


「パンナ様~、そろそろ実験器具も持っていこうかと思いますが、どれが必要ですか?」

「そうじゃな、この辺の細いガラス管は一式持っていきたい。奥にある見事なガラス筒も欲しいが、運ぶのが無理じゃろう」

「ちょっと試したいことあるんですが~」

「ほぅ、なんじゃ?」

「しばし、お待ちを」

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