第28話 庶民街の散策
使用許可の出た民家で地下室を作り、パンナは要望を伝えた。
「モヒートよ、申し訳ないが、床の固めた土を盛り上げてくれないか。ベッドにしたい」
「問題ないですよ」
モヒートは、ピッと人差し指を上に向けると、子供の体に合わせた幅の床がせり上がった。
「ここに、余っていた分の寝具を使って、ここに寝る。地上のベッドには、寝ている様に見せかける。昔ながらのやり方じゃな。見回りは、必ずアタシらを確認する。大佐への報告関係なくな。妙な心配をさせるようにしてしまったので、身代わりとして
人が寝ているように毛布にくるまっているよう、毎晩、形作る。夜に窓を内側から覆い隠したいが、部外者であるアタシらが見せぬ工夫をすると、次第に怪しまれるだろう。おかしな話じゃがな。それと、出入り口と寝室への入り口には小さな魔法陣紙を
貼り付け、変化があれば地下寝室に知らせるよう細工をしよう」
「分かりました!」
手分けして寝具を運び入れ、加工したり対策を施した。しかし、丁寧ではなかった。いろんなことがあった今日、疲労困憊と食事を取った満足感で、強烈な睡魔がまとわりついてきた。地下への入り口を毛布で隠し、二人は階段付近に夜光石照明を置いて倒れ込むように地下寝室で寝入った。
ゴン!ガラッドン!ベン!
階段から何かが落ちてきてパンナは飛び起き、杖を持った。
「なんじゃぁぁ!ぁ、バケツ?」
「ぉぁょぅございますぅ。んぁ、仕掛けうまく言ったみたいですねぇ~」
「仕掛け?ガー、いやモヒートは驚かんのか?」
「ボクが仕掛けた目覚ましバケツです。地下で日が差さないから朝に起きられないでしょ?だから、地形操作を仕込んで、日が差したら土が引き締まって、板が外れ、バケツが転がって大きな音で目が覚める、という構造です」
「いつの間に?」
「パンナ様が先に寝倒れておられたので説明出来ませんでした」
「ほぅ、モヒートは賢いのぉ。その頭の使い方次第で、エルドラド大佐をどうにか出来るかもしれんな」
「大佐の情報がないので、どんな隠し玉があるか怖いですね」
「それも兼ねて、この地域がどういう構造しておるか確認しなきゃならんな」
二人は、顔を洗い、身支度を整え、地下階段を隠して、探索に出掛ける。まずは、庶民街を区画ごとに歩いて周った。途中、区画の地図看板があり、眺めた。
「お店って集中して立ち並ぶ場所じゃないんですね。あちこちに散らばって店がある」
「この地図には看板で表してあるな。ん~、この杖とガラス容器の絵、泊まっている民家の近くじゃな。魔法薬品店かもしれぬ」
「医者代わりに薬を調合してくれる所ですね。さっそく、行ってみましょうか?」
「そうしようか。しかし、モヒート、よく知っておるな」
「誰かの記憶みたいです。ただ、この庶民街の地図を覚えてはいません。あと、見えるお城も中身はさっぱり分からないです」
「少年の記憶はあるか?」
「・・・思い出そうとしても、やっぱり繋がらないです。たくさんの風景画のような断片記憶はあるのですが、その風景画がビリビリに破られて、組み合わさらないというか」
「無理してくっつけなくてよいぞ、頭が痛くなるだけじゃ」
二人は、魔法薬品店に向って歩き出した。同じ塀の似た建物。区画で覚えるかとも考えたが、緑色のシミの形や有無も目印になることに気付き、探索した。
「おーい、お二人さ~ん」
「こんにちは、ドストルさん」
「散歩かい?朝食を持って行ったら、いなかったので心配したよ」
「すみません。人がいない街並みですけど、興味深いものが多くて」
「モヒート君は、どれに興味があるんだい?」
「魔法薬品店に行ってみようかと思ってます」
「あ~、もう少し進んだ所だね。いろんな症状に対応した薬を調合してくれて助かってたんだよ。今は、無人でさぁ」
急に現れたドストルに、パンナは少し警戒した。監視対象として扱われていると察したからだ。程なくして、魔法薬品店に着いた。
「この看板、かわいらしいのぉ」
「パンナちゃん、気に入った?」
「なんか懐かしくて」
「懐かしい?育てのご老人たちが、よく話しておられたんだろうねぇ。さて、入ってみようか」
街人が少なく、店も無人だから、施錠がされておらず、博物館のような感覚で店に入る。
「ほ~ぉ、これは見事」
パンナが思わず言葉が出た。大型の棚には、たくさんのガラス器具がキレイに配列され、ガラス扉があるため埃を被っておらず、すぐにでも調合に使えそうな道具たち。下段の木の扉を開けると、遮光瓶に入った薬品たち。また、別の棚を見ると、ガラス瓶に薬草が相当な種類で保管してある。医者代わりであり、多くの症状に対応できる在庫とそれに応えられる知識を持った人物が、この店をきりもりしていたことが理解できる。
モヒートは、奥の部屋にあるタンスを開けていた。ドストルから、服を頂いたら?と持ちかけられていたからだ。
「お、この黒、かっこいいですね」
「黒のローブか。この周辺は、鉱石が取れるからね。いろんな草木で染める工程で、鉱石粉末を混ぜ込んだ溶液にも漬け込むんだ。手間はかかるけど、この深い黒に仕上がるんだよ。ちょっと君たちには大きいかな?」
「その辺は、問題ないですよ。パンナ様が裁縫上手なので、丈を調節してもらいます。この頭巾部分が、頭をすっぽり覆ってくれるのが、また面白いですね」
「面白い?その表現が面白いけどね」
「すみませ~ん、ドストルさん、ちょっといいですか~?」
「そっち行くよ~、待ってて~。パンナちゃんが呼んでるから行ってみるよ」
ドストルは、パンナが呼んだため、薬品棚の部屋に向かった。
「どうしたのさ?」
「この床下収納って見てもいいんですか?」
「へぇ~、珍しい。床の扉って、他じゃ見ないんだよ。職人の家だと、たまにあるって聞くけどさ。どれ、開けてみようかね。よぃしょっと」
床の扉を開けると、木の階段があった。
「二人は、待っていなさい。危ないかもしれないからね」
ドストルは、店内にあった夜光石ランタンを取り、照明をつけて階段を下りていく。
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