第39話 約束

 地下の実験室等、調査結果をスノゥに話すパンナ。それから紐づいて、かすかな記憶がつながるスノゥ。


「あぁ、思い出しました。あの緑色の粘着物のせいで、多くの犠牲が出た後、剣等の金属製武器の手入れが出来ず、次第に兵士よりも魔法が使える者の地位が高まりました。ズンビローは、その時に強い兵士を作り出すことを国王に提案していたと聞いております。兵士たちは、動物の力を取り入れる実験を受け、人ではない存在になりました」

「考えたのですが、やはりその技術を逆に利用してみようと考えております。今日は、いろんなことがあり、最適解が見つからない状態です。また明日伺います。拠点にしている民家に戻らねば、世話役のような人物が捜索しかねません。その人物は反王国と繋がっております。それゆえ、我々の存在がバレれば、二度と世に出られないか、命を奪われるか。そうなると姫さまの自由を約束出来ませぬ。お時間頂けますか?」


「当然です、久しぶりに会話をして、その相手がバヴァ・ロアなんですよ。二度と会えないと思っていたあなたの考えた事、私は待ちます。この地下に追いやられて、初めて希望を持てました。それに、あなたたちは、私のひどい臭いも嫌がらず、献身的に行動してくださる。私も、ただ生かされるのではなく、自ら生きたいと思いました」

「そのお言葉に、我々も全力を尽くします。では、また明日」

「はい」


 パンナは、また涙を流し、スノゥも、涙を拭った。その二人を見て、モヒートは顔をクシャクシャにして泣いていた。


「パンナさま、庶民街の民家へ地下通路を繋げます。こういうことを想定して、地下室に高純度水晶を埋め込ませたのですね」

「何かの目印が欲しかったんじゃよ。その前に、モヒートよ、鼻水をぬぐいなさい。それと、混合回復薬を先に飲んだ方が良いだろう。距離は結構あるぞ」

「あはははは、すみません」


 モヒートは、顔を拭いて混合回復薬を飲んだ。とても不味い表情をしながら、土に触れるため、培養室に向かう地下通路に入る。両手を地面につけ、意識を集中させる。自分の体に入っている高純度水晶と同じ振動がどこにあるか、地中に振動波を発した。さまざまな反響音があるなか、キラリと澄んだ反応が返ってくる方角があった。モヒートは、スノゥがいる部屋から地下通路に入る右方向から斜め下へ地形操作で空間を広げ始めた。2m程、下へなだらかに掘り下げた後、また右を向いて真っ直ぐ通路を掘り固めてる。


「姫さま、モヒートが何か掴んだようです。アタシは、付いていかねばなりません。必ず、戻ってきます」

「分かっています。私も久しぶりに心地よい疲労で睡眠を取ることが必要になりました。それほど刺激的な体験です。何か思い出せるよう記憶を辿ります」

「では、しばしの別れです。失礼致します」


 パンナは、名残惜しそうにモヒートの後をついていく。それから、モヒートがスノゥがいる部屋と通路の壁扉を閉ざし、庶民街へ向かう地下通路を掘り進んでいった。

 それから、集中力の高まり続けるモヒートは、地下水や障害物を避けつつ通路を作り、途中、混合回復薬を飲んで補いながら、庶民街の民家地下室に無事に到達した。若干、目が血走って興奮状態だったが、地下室に繋がり、見慣れたベッドを確認すると、飛び込んで眠ってしまった。その姿を見てパンナは、寝ているモヒートのカバンを取り、シーツをかけてあげた。


「お前さん、随分能力が上がったんじゃないか?これまで虐げられていたのが嘘のようじゃ」


 パンナは、モヒートの鶏冠とさかのような髪を整えながら、呟いていた。そのモヒートの姿を見ていると、パンナも強烈な睡魔が襲ってきて、倒れ込むように隣のベッドに収まった。


「んぁ、あれ、どこだ・・・うわっ、泥だらけ。あぁ、そうか、たくさん地下通路作ったんだった。それで拠点に帰ってきて、今何時だ?」

「やっと起きたか。もう昼近いぞ、そもそも何時に帰ってたか、分からんだのぉ」


 へとへとに疲れて寝ていたモヒートがようやく起きた。パンナ自身も疲れていたが、混合回復薬の消費が多かったので、小瓶に補充する作業を行なっていた。


「モヒートよ、ドストルに怪しまれるとマズイ。集会所に顔出すから、1階で泥汚れをしっかり洗い流してきなさい。洗濯は、後からでもいいじゃろ」

「分かりました、急いで身支度します」


 モヒートは、指示通りに手や顔をよく洗い、濡らした布で体をよく拭いた。水浴びもしたかったが、その時間はない模様。若草色のローブに着替え、二人は、暁の民が運営する集会所に向かった。


 集会所では昼食を取る住民が溢れていた。二人に気付いたドストルが、配膳を別の者に任せ、駆け寄ってきた。


「昨日はどうしたんだ、心配したんだよ食事に来ないから。家にも行ったけどいないしさ、今日、顔見せなかったら捜索隊を出す所だったぞ」

「ごめんなさい。ピクニックに出かけたら、お城の人と同じ服着た人たちが、ワーワー言ってケンカしてて、怖くなって二人で走って逃げたら道に迷っちゃって野宿しました」

「あ~、そうか、巻き込まれちゃったんだねぇ。幼い二人だから、とても怖かっただろう。やっぱり、城に近付いちゃダメだよ。さ、お昼を食べな」

「あの、またパンが余りそうなら頂けますか?」

「いいよ、いいよ、持っていきな」

「ありがとうございます」


 ドストルは、混み合う集会所では食べにくかろうと、集会所の外に小さい机と椅子を設置し、特等席としてパンナとモヒートに食事を振る舞った。


「パンナ様、子供のしゃべり方、うまいですね。見事に誤魔化せています」

「黙っておれ、誰に聞かれるか分からんぞ。しかし、嘘はついておらん、地下に逃げただけじゃ」

「確かに。・・・このパン、包んじゃいますね」

「あぁ、頼んだぞ」


 二人は食事を終えると、ドストルにお礼を言った。


「二人共、城周辺に行っちゃダメだぞ」

「はい、今日は洗濯とひたすら昼寝します。起こさないでください」

「ははっ、たくさん寝なさい」


 パンナは、反王国の隊員がいないか、周囲を警戒しながら民家に戻った。

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