第40話 希望への準備
パンナとモヒートは、昼食を済ませると、またスノゥに会いに行くため準備を始めた。
「パンナ様、出発してよろしいですか?」
「そうじゃな。まず、出る前に言っておくが、今日は、何往復かすることになると思う」
「では、移動手段は、アレですね」
「アレ?」
モヒートは、魔法薬品店からガラス道具を持ち運んだ際に作った箱机という運搬用作成物を改良してパンナの前に作り上げてみせた。箱が出来、その中には縦に小さな椅子が2つ並んでいる。二人が乗り込むと、箱が持ち上がった。
「今回は、馬の脚を真似て縮小し作りました。多少揺れるでしょうが、速度は出るでしょう」
「では、出発じゃ」
馬の走行を模倣した箱机の脚は、地下通路を15分ほどで城の地下室まで到達した。元々、モヒートの通路作りが、岩等、障害物を沈み込ませたため、床部分が平らになって、振動も少なかった。
「今の走りは、全速力か?」
「いえ、お試しなので、標準速度です。もっと速く走ることは可能でしょうけど、所詮、土で出来ているので脆さが出てしまいます」
「そうなんじゃな。スノゥ姫を乗せることも想定しておいてくれ」
「了解です」
二人は、地下通路を通り、スノゥがいる石積み扉をゆっくり開けた。パンナは、夜光石照明をコンコンと弾いて、照らした。
「姫さま、参りました」
「お二人とも、ようこそ。客人を迎え入れるとは、何年振りのことでしょう」
「では、早速ですが、改めて実験室を調べてきます」
「あ、バヴァ、待ってください。以前の様子を思い出したのですが、ズンビローは表紙が紫色の本をよく持っていました。それがあれば、何かきっかけが掴めるかも知れません」
「分かりました、まず探してみます」
モヒートは、実験室の石積み壁を慎重に開け、誰もいないことを確認した。その後、パンナと共に侵入する。実験室をぐるりと周り、実験台の周辺や引き出しを確認するが書類があっても本はなかった。次に、培養室側の壁に設置された棚を確認する。
「パンナ様、何冊かありますね、紫色」
「全部見て確認するしかないな」
紫色の本は全部で5冊あり、全てを持ち出し、一旦、スノゥの元に戻った。
「どうでしたか?」
「5冊ありました。中身を見てみないと分かりませんね」
「私も手伝います」
スノゥは、ゆっくりと体を起こす。
「姫さま、起き上がれるのですか?」
「えぇ、これまでは起きる気力もなかったのですが、バヴァが飲ませた薬のおかげで床擦れも治り、少し体が動くのです」
「では、食事を先にしましょう。といって、またパンと水、そして混合回復薬なのですが」
「咀嚼する力も衰えている私には、十分すぎるものですよ」
パンナが、スノゥに食事を取らせる。どうにか動く左手でパンを持ち、小さく噛みちぎり、とてもゆっくりと咀嚼する。水で流し込み、また繰り返す。どうにか1つのパンを食べ終えると、2つ目には手を付けなかった。そして、混合回復薬を飲み干す。
「まだ多くは食べられないようです。内臓が驚いているみたい。しかし、噛む動きは頭が冴える感じがします。食事は良い刺激なんですね」
「そうです、とても大事なことなんですよ」
「お待たせしました、手分けして本を調べましょう」
三人は、それぞれ本を取り、内容を確認した。培養体に対しての基礎研究等、資料がまとめられたものだった。そのうち一冊が培養装置に関しての内容で、培養液の配合、培養体の成長速度といったことも書いてあった。
「当たりは一冊じゃが、他のも資料としては重要じゃな」
「はい、パンナ様。しかし、培養装置を一台だけ稼働させると循環する音で、さすがに気付かれるのでは?どう隠しましょうか」
「一台移動させてもいいが、埃に形跡がしっかり残っているので怪しまれる。掃除すれば、なおさら跡が残る。う~ん」
「あの~、モヒートが壁を手前に動かしてしまうのはいかがでしょう?気になるならば、実験室も同じ位置にしてしまうのは」
「確かに、壁に土をくっつけて地面とつながっていれば、お前さんの地形操作は可能じゃな」
「では、さっそく動かしてみます」
モヒートは提案に対して、まず実行してみることにした。培養室の扉近くにあった培養液容器を実験室に移動させる。次に地下通路側から培養室の石積み壁全体に土を粘着させる。それから実験室と通じる扉の側1/3程をじわじわと移動させた。とても慎重に振動が上の階に伝わらないよう少しずつ壁を動かす。培養室の中にはパンナがいて、どこまで移動させるか、状況をモヒートに伝える。
「ゆっくり~、ゆっくり~。ひとまず停止~」
パンナの合図で石積み壁の移動を止めた。モヒートが培養室に入り、確認する。
「床を擦って動いたから、埃を集めちゃいましたね。あと、天井も削り跡がくっきりと」
「そこは気にしなくていいんじゃないか?見えなくなるんだし。さて、問題は、培養装置を動かさずに壁をどう移動させるか・・・」
「あ、それですね、残りを半分に折りたたんで、くっつけてしまおうかと」
「どういうことじゃ?」
「スノゥ姫側の石積み壁を実験室側に折りたたみ、横半分をくっつけます。それから移動させます」
「ぶつかりそうなら、培養装置を移動させてしまうんじゃな」
「そういうことです。土がくっついているなら、ボクの操作命令が伝わるようなので」
「それじゃ、やってみようか」
モヒートは、石積み壁を大胆に折りたたみ、培養室の壁が1/3の幅で真ん中だけ残り、慎重に移動させた。パンナは、壁に近い培養装置一台を押して方向を変え、壁移動がしやすいよう手伝った。それから、培養装置が操作しやすいよう向きを変え、折りたたんだ壁を開いて壁を移動させた。
「慎重且つ大胆。では、実験室もやってしまおうか」
「実験室は、半分ずつで石積み壁を移動させてみます」
「また、内側からアタシは確認しよう」
同様手順で、モヒートは土を粘着させ、音をなるべく立てぬよう壁を移動させた作業を終了させた。
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