第51話 大破壊

 ズンビローに触れた隊員たちが次々に麻痺毒症状が出てしまった。エルドラド大佐は、ズンビローに飛び蹴りを食らわせた。撤収作業のため時間を稼ぐ必要がある。なので、エルドラド大佐は、がむしゃらにズンビローに立ち向かい、殴り合った。なかなか顎に当たらず、ズンビローの脳を揺らすことが出来ない。さらに、殴った手が痺れだす。やはり、ズンビローに触れる事自体が麻痺の原因になると、エルドラド大佐は理解した。 ズンビローは、エルドラド大佐の打たれ強さと麻痺毒に次第に慣れ、抵抗していることに驚きを隠せなかった。あまり時間をかけると耐性を持つのでは?とも考えた。


 ぶわはっ!


 ズンビローが、エルドラド大佐に向かって、灰色の煙を吐いた。


「うわっ、なんだよ!臭ぇな、おい!」


 両手で煙を払うも、なかなかまとわりついて取れなかった。


「ひひっ、どうです?しっかり、麻痺してください」

「うぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・・・・麻痺なんかするか、ボケェ」

「ひぃっ!」


 エルドラド大佐は、低い体勢からズンビローの左脇腹を斜め上に衝撃が伝わるよう殴った。


「おぉぉぅぅん」


 両膝をつき、殴られた部分を両手で押さえるズンビロー。エルドラド大佐は、ズンビローの両頬に手を当て、そっと固定する。そして、瞳が真っ黒になった。


「おごごごごご」


 エルドラド大佐は、ズンビローに口づけをした。それから、濃厚な緑色をしたヒポ猛毒の粘り気のある液体を口内に流し込んだ。もがくズンビローに両手を離さず、口を閉じさせないよう、エルドラド大佐は必死に顎を押さえた。


「人ではない化け物に、好き好んでチューなんかしたくねぇんだよ。てめぇの毒耐性はどれほどのもんだ、あ゛ぁ!」


 ゴボゴボと泡を吹くズンビロー。全身が痙攣し、ようやく絶命した。


「城下町に撒き散らしたヒポ毒のさらに濃縮されたヒポ猛毒だ。さすがに、テメェの毒耐性を越えるだろう。全く、化け物に関わりたくねぇのによぉ」


 周囲を見渡すエルドラド大佐。


「おーぃ、残っている隊員!水持ってきてくれ、うがいしたいんだ」

「了解しました」

「せっかくのキレイな黒髪に女衆が整えてくれたのに、ベトベトで臭ぇ。もうちょっと短時間で勝負を決めたかったんだけどなぁ~、まだこの体を活かしきれてない。ダラダラ展開なんて、相手の思うつぼだぞ。その化け物には、金属棒とか得物じゃ効かねぇからよ。はぁ~、あ゛? なんだよ、今度は!空から何か落ちてきてんぞ!おら、隊員ども!全力で逃げろぉぉぉ!」


 城に向かって空から大きなごつごつとした球形の塊が燃えながら落ちてきた。


「あぁ、なるほど。ヴァーさんか・・・」



 反王国隊員たちが、城内に爆薬を投擲している頃、その爆発音で庶民街にいる三人は大急ぎで荷造りをしていた。


「スノゥ姫、まだ重い物をカバンに入れないでください。なるべく軽い物と混合回復薬を持ってください」

「は、はい」

「モヒート、地下室を埋めておくれ」

「分かりました。では、1階に上がりましょう」


 大急ぎで荷物をまとめ、地下室を地形操作で埋めた後、三人は民家から外に出た。そこから見えたのは、城の方角で大量の煙が上がる光景だった。もう少し見える位置に、と移動すると、ドストルが慌てて駆け寄ってきた。


「君たち大丈夫だったかい?あれ、一人増えてる?いや、そんなことより、反王国の人々が何やら始めたんだ。君たちは安全な場所に避難しなさい」

「反王国・・・」

「パンナちゃん、避難するんだよ」


「モヒート!民家8階建て分の高さに三人上げておくれ!」

「了解っ!ドストルさん、離れて!」

「ん、なにするんだ?」


 ドストルが離れたのを確認して、モヒートが両手を地面に置くと、地形操作で民家一部屋分の床面積で地面を隆起させる。


「おぉ、いい眺めじゃの。ありゃま、ドストルが、ひっくり返って集会所に逃げ込んでおる」

「パンナ様、目的はお城ですよね?」

「あぁ、そうじゃ。何が起きておるのか、走っている暇はないんじゃ」


「ちょ、ちょっと、急に何してくれるの!心臓に悪いじゃないの!」

「姫さま、今は一大事。城を見てくだされ」

「城に向かって何か投げつけて・・・爆破してるの?・・・」

「先程のドストルという男の話では、鉱山の町にいる反王国の連中が城を攻撃しております。しかし、国王はいない。いるのは、魔法使いズンビローとその衛兵たち」

「・・・そうですか。私が逃げ出したことは知る由もなく、おのれの事しか考えていない人たちが、城や城内を破壊しているわけですね。はぁ、そうですか。そうですか」


 スノゥは、肩を落とし、うなだれた。しかし、爆発音を聞いて、顔を上げた。


「お二人にお願いがあります。城を壊してください、ズンビローにも、反王国にも、私が、かつて生活をしていた場所を好き勝手に乗っ取ることは許しません!徹底的に破壊してください。ただし、その破片が周囲に飛び散って街々に被害が及ばないようお願いします」

「アタシは構いませんが、モヒートはどうじゃ?」

「パンナ様が、どういう攻撃をするのか教えて頂ければ対処しようがあります」


 パンナは、モヒートに、ごにょごにょと耳打ちしていた。


「スノゥ姫、やりましょう!」


 モヒートは、混合回復薬をぐぃっと飲み干した。そして、城の方向に向かって両腕を伸ばし、両手指を小刻みに動かしている。


 パンナは、隆起した地面に杖を突き刺し、城をキッ!と睨みつけた。


「我が名は、バヴァ・ロア!我と契約せし天高き暗闇世界の精霊たちよ!その力を持って浄化の時が来た!さぁ、いでよ!流星の三姉妹!」


 グォングォンと空から何か接近してくる低い轟音が響く。近づくにつれ実体が見えてくる。真っ赤に燃える民家6軒分ほどの大きさはある塊が落ちてくる。しかし、その塊に高速でぶつかってくる別の黒い塊があった。


「モヒート、今じゃ!」


 モヒートは、両手を突き上げ、城から庶民街が見える方向に対して、城壁の外側から巨大な土壁をそそり立たせた。激しい衝突音と共に燃える塊を粉砕して、城内の地中までえぐり、建物は形をなさずに砕け散った。その直後、砕かれながら燃える塊が城内にまんべんなく散り、全て燃やした。

 さらに、時間差でやってきた別の燃える塊が高速で城に向かって落ちてくる。


「それ、もう一つ!」


 モヒートは、時間差で来た燃える塊が落下寸前に国境につながる道側の城壁外側に巨大な土壁を作った。最後の燃える塊が燃焼中の残骸を追い打ちとして押し潰し、さらなる高温で燃やした。外から見ると煙が上がる煙突のようだった。


「バヴァ、アレ何したの?」

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