第33話 国境の検問
体力と魔力を同時回復させる混合回復薬を大量に作り、可能ならば今日にでも王国を脱出する計画を立てた二人。早めに床につき、深く深く寝入っていた。
パンナは夢を見た。
遥か昔に聞いたことのある声がする。とてもか細い声で、弱々しくアタシを呼んでいる。姿が見えない。誰なのか姿が現れてこない、真っ暗な場所。
夢の中で、パンナは声をかけた。
「誰だい、アタシを呼んでいるのは?」
「・・・あぁ、バヴァ・ロア・・・生きていましたか」
「アタシの名前を知っているのかい?誰なんだい?」
「私は、スノゥ。スノゥ・ルマンド」
「スノゥ?・・・ひ、姫っ!」
パンナは、右腕を何かを掴もうとする動きをしながら、ガバッと上体を起こし目を覚ました。
「はぁ、はぁ、はぁ、あぁぁ、姫。このような夢を見るとは、ご存命なのだろうか・・・。姫は不老不死になられた。しかし、王国は人の気配がない。アタシ同様、不死とはいえ、首を斬られたり、心臓を貫かれれば、命は終わる。何事もなければ
永遠に生きられる。天変地異はもちろん、謀略に巻き込まれれば、そこで終わる。何故、あのような夢を・・・」
また横になり、シーツを被って小さくなり、眠りについた。
朝日が昇り、モヒートの仕掛けが反応して、バケツが地下階段を転げ落ちる。
「んぁぁぁ、おあようござぁます。あれ、もう起きておられたのですか?」
「おはよう。早く寝たからだろう、年寄りは起きるのも早いもんじゃ」
「培養体だと、幼き体での反応ではないのですか?」
「どうじゃろな。しかし、今日は、いつもと違う一日になるやもしれぬ。だから、早く目が覚めたのかもな」
「そうですよね。では、もう出掛けますか?」
「身支度は早めに、ドストルたち暁の民に見つかりたくない。おお、そうじゃ」
パンナは、カバンから取り出した物を見せた。
「モヒートよ、この高純度水晶のかけらを王国の城の方角に向かって、土壁に埋め込んではくれぬか?」
「はい、分かりました。おまじないですか?」
「そうじゃな、願掛けでもあり、目印にもなってくれればいいかな」
モヒートは、パンナの言葉通り、城がある北側の土壁に高純度水晶を地形操作を使って埋め込んだ。
「では、出発の準備をしよう」
パンナは、声をかけ、準備に入った。
まだ、朝靄が残る時間帯。パンナとモヒートは、白に近い明るめのローブを着て、外に出た。辺りは、視界が見づらい状況。目立たないというのは、好条件。あまり足音を立てぬよう庶民街を通り抜け、途中、後をつけられていないか、立ち止まったり
急に方向転換したり、動きを変えながら城に向かって進んでいく。
周囲が開けて見えるようになった時間、ようやく城門近くまで辿り着いた。
「ふぅ、やはり子供の体、歩幅が狭いのぉ。もう少し距離が稼げると思ったのじゃが」
「確かに違いますね」
「モヒートは・・・そうか、子供から高齢の者までが転生しておるから、その感覚も分かるんじゃな?」
「はい。誰ってのは分からないですが、感覚が、そう教えてくれます」
「走り抜けられるならば、城門前を遊んでいる感じで通ってしまえと思うが、う~ん」
「城門近くって、一段下がってたりしませんか?土手っぽい高さならば、我々の身長だと存在は分かるけど害はないって思われませんかね?」
「確かに、昔のままなら、城の防衛やらで盛土がしてあり、城は高く、他は低くある。では、その低い方に移動しようぞ」
建物に隠れながら、一段下がった道に向かう。適度に階段があり、城門へつながる道と、並行した低い道があった。二人は低い道を選び、国境の検問所を目指す。
途中、息を整えながら、どうにか国境まで辿り着いた。
「ちょっと疲れますね」
「あぁ、緊張感もあるからな。しかし、目の前に国境がある。階段を上がり、あの門まで行こう。状況次第では闘ってでも突破する」
「了解です」
二人は、国境へ通づる道に戻り、国境の門にある検問所に近付いた。
「昔の記憶だと、ちゃんとした建物があって身分証明するんだが、朽ちた建物になっておるな。意味をなしておらぬようじゃ。しかし、いかにも怪しげな姿が4つ見える。慎重に行こうぞ」
「なんか、大きな人たちですね」
決して走らず、歩いて接近する。ある程度、近付いた所で声をかけられた。その姿は、ボロ布で顔を隠し、マントを纏って体を見せない姿の門番が4人いる。
「何用だ」
「私たちは、さらわれて、この王国に連れられて来ました。なので、自分の国に帰りたいので、ここから出たいのです」
「どういう理由であれ、国外には行けぬ。立ち去れ」
パンナは、無条件に国外に出さない状況と4人の佇まいを見て、一旦引くことにした。
国境の門から離れた所で、モヒートが言う。
「異様ですね、あの4人。人間っぽくない」
「そうじゃな。2人なら、強引にやったかもしれぬが、4人じゃと、モヒートとの連携でも潰されただろう」
「地下、掘りますか?」
「先程の国境の門辺りは、岩盤が硬く、そもそもが山じゃ。貫通させるには日数がかかりすぎる」
「なるほど。では、作戦会議も兼ねて、どこか安全な場所で朝食でも取りますか?」
「そうじゃな、ひとまず城門まで戻ろうか」
二人は階段を下り、城に向かって一段下の道を戻り始めた。
ザッザッザッザッ
城門に近付いて来た時、一定間隔の音が聞こえてきた。
「モヒート!階段近くにしゃがんで隠れろ!」
パンナは、モヒートにあまり大声にならない程度の叫びで注意した。二人は、階段の
「よーし、そのまま直進!隊列組んだまま、城門前に行く」
同じ服装の団体が行進している。その光景を見て、二人はひそひそと話した。
「なんじゃ、反王国が集まってきておる。それなりの人数じゃぞ。あぁ、あの背の高い黒髪女性・・・エルドラド大佐もいる。しっかり化粧しておる。反王国には女性隊員も、もちろんいるからな。美しく仕上げれば、魅了し、隊員たちの統率も、より高められる」
「んぐぐ、うぅぅぅ」
「モヒートよ、今は『ガー坊』ではない。過去の記憶で苦しいかもしれんが、今は抵抗できる。余計な緊張は解きなさい」
「はい、パンナ様」
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