第34話 城門前

 想定外なことに反王国隊員たちが、王国の城門に向かって行進をしている。その中にエルドラド大佐もいた。大佐の姿を見たモヒートが、過去に受けた恐怖を思い出して、ひどく緊張し、体が硬直してしまう。


 パンナがモヒートをなだめた時だった。エルドラド大佐が、二人がいる階段の方を少し顎を上げて見下ろし、ニヤッと微笑んだ。


「まぁ、今は放っておくさ。目的が別にあるんでね」

「大佐、どうされましたか?何か、いますか?」

「いんや~、どうもしないぞ。城門に行って、今日こそは国王と話をしたい。ただ、今日はいつもと違うからな、落ち着かないだけだ」


 そのまま、反王国隊員たちは、城門へ突き進む。まだ、身を潜めるパンナとモヒート。


「何用だ!立ち去れ!」


 城門から離れた場所にいる隊員たちに対して、大声で叫ぶ1人の衛兵。その声に反応して、衛兵たちが集まってきた。隊員たちが城門に揃う頃には、衛兵が8人になった。その姿は、国境の検問所と同様、顔をボロ布で隠している。ただ、装備をしており、胸当てと前腕部分にガントレットと思われる形状のもの。武器と思われる物は持っていない。

 接近すると隊員たちは、城門に対して半円形の陣で取り囲んだ。今回の隊員数は20名。陣形の中心を割って、エルドラド大佐が歩み寄った。


「我々、王国に対して反旗を翻す者たちは国王に対して面会を求める。これで何度目か分からないがな」

「国王は、忙しい!無理だ!帰れ!」

「ん~、その定型文は聞き飽きたし、もう少し、言葉を変えて言ってもらえないかな? なぁ!」

「帰れ!」


 エルドラド大佐は、衛兵に近付いた。女性型培養体になったとはいえ、大佐の身長は、隊員たちよりも高い。しかし、衛兵たちは、その大佐の身長よりもさらに高く、体の厚みも違う。その体格差を見比べ、大佐が言う。


「お前らは、以前の覆面たちとも違うよな。その鎧装備も収まらないくらいパツパツで固定金具が弾き飛びそうに見える。もっと兵士もいただろ?何故、いない?」

「何の話をしている、帰れ!」

「・・・そもそもの話、会話が理解できないんだろ?肉体強化で、脳が縮んだんじゃねぇのか!」


 エルドラド大佐は、目の前にいる衛兵のボロ布を強引に引っ張り取った。衛兵は、びくともせず直立している。


「なんだよ、その顔・・・豚じゃねぇか!でも、目は人か?どうなってんだ?」

「攻撃してきたな、侵略者!」


 衛兵は、エルドラド大佐の両肩を掴みかかった。すぐさま、大佐は股間を蹴り上げ、腰から落ちた衛兵の両耳を掴んだ。


「そういや、耳も人の位置じゃないな。ずいぶん上にあるもんだ」


 衛兵の顎を膝で蹴るエルドラド大佐。しかし、意識があり、また掴もうとしてくる衛兵に対して、大佐は少し下がり腰のひねりを加えた右の掌底打ちを放った。ようやく脳が揺れたようで、衛兵はひっくり返った。


「よ~し、隊員たちよ!こいつらは、首が相当丈夫だ。簡単には意識が飛ばない。関節と急所を狙え!さぁ、武器を取れぇ!」


 反王国の隊員たちは、硬い木と金属で作った細身の棍棒を取り出し、構えた。衛兵たちも、拳を隊員たちに向ける。装備であるガントレットが武器代わりにしていることが伺い知れる。


「これ、衛兵たちよ、待ちなさい」


 衛兵たちの後ろから、紫と紺色が混ざったようなローブを着た衛兵と同じくらいの背丈の姿が現れた。


「何事ですか?衛兵が倒れているじゃないですか、ほら、そこの二人、城壁内側の池に放り込んできなさい。目を覚ますでしょうから」


 衛兵二人が倒れた衛兵を担ぎ、城の敷地内に消えていった。


「さて、報告は受けております。王国に対して物申す反乱分子とか。おや、率いる者は男性のはず。代替わりしたのですか?」

「いや、オレが代表のエルドラド大佐だ。いろいろあって、この体で活動している。あんた、何者だ?」

「ワタクシ、王国の魔法使いを仰せつかっております、ズンビローと申すものです。お初にお目にかかります」


 ズンビローは、ローブの頭巾部分を後ろにずらし、薄暗くて見えなかった顔と頭部が露わになった。白髪に、やつれた表情見た目で年齢が分からず、薄気味悪い印象。


「ズンビローというのか、あんた、人って感じがしねぇな。爬虫類?トカゲ?によく似てんなぁ」

「あっはっはっはっはっは、お褒めに預かり光栄です!このような素晴らしい方が、なぜ王国に反抗し、暴力をふるうのですか」

「・・・褒めてねぇよ。オレたちが受けた冷遇と非礼に対して、国王には謝罪だけでなく、隊員たちの恩給、亡くなった隊員への弔い。要求することはもっとあった、昔はな。今は、王国に属する者たちを服従させる。ヒポ様にやったことに対してもな」

「ヒポ?あぁ、カバが湖の主として君臨し、従属していたとかいうのは、あなた方ですか。嘆かわしい存在ですよ、全く」

「お前、何て言った?」

「あの巨大に太り過ぎたカバに忠誠を誓う愚かな存在ということですよ。ワタクシのように原始再帰教団へ属しておれば、要らぬ迷いもなく、新たなる進化が約束されるのです。ところで、エルドラド大佐は培養体ですよね?純粋な人間ではない匂いがします」


「知ってるんだよな、そういうことを言うってことは。そうなると、アンタも既に培養体ってことだよなぁ?」

「えぇ、ワタクシは、もう数世代に渡って培養体に乗り換えております。我が教団の教えに則って、人の体で脱皮を繰り返すことで肉体を維持しております。もう少しで、完全なる不老不死を得てしまいそうです。魔法と錬金術、そして最も大事な教団の教えがあることで、我が体が教団への恩返しとなることでしょう」

「おぉ、すげぇ気持ち悪いな!培養体は、多種に渡るってことか。貴様のような転移を繰り返し、別種族を取り込む者、ヴァヴァのような転生先とした者。そして、オレのような転移と別物を取り込んで魔人となる者」

「なんですって?」

「おしゃべりは終わりだ。隊員たちよ、闘え!」

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