第19話 仕込み作業2

 ヴァヴァは、イスイが手に入れた布を確認している。


「生地は少し厚めで、この地域でよくある草木染め。よもぎと玉ねぎ混ぜたような色だね。どのくらいの長さがあるもんかね、それぇ」


 バサッと布を床に広げ、どのくらいの大きさなのか確認をする。


「ガー坊、こっち来て寝てみてちょうだいな」

「は~い」


 ガー坊を仰向けに寝せ、大体の寸法で布が足りるのか測っている。


「袖はこの余り部分でいけるとして・・・ギリギリか?いや、ローブで対処するとして、ズボンは諦めるか」

「ヴァヴァさん、また調達に行きましょうか?」

「いや、イスイ、十分だよ。気にしなさんな。さて、このままガー坊を型紙代わりに採寸結果を当てはめてみようかねぇ」


 培養体の採寸した数値をガー坊の体型との差で印を付けていき、型を起こした。体、袖、頭を被せる部分と大まかに分け、余った部分で腰紐を作ることにする。


「ヴァヴァさんよ~、裁縫出来るの?」

「アタシが着ているローブは自作だぞ、ドリィ。歴代の大佐は王国既製品を嫌がって、巻かれた布を何本か置いていくだけだった」

「オレとイスイが、本部事務所で隊員服作成担当だった時期があるんすよ。手分けしません?」

「あら、驚いたねぇ、お前さんたち出来るのかい!そりゃ~、はかどるよ」


 ドリィが反王国本部事務所から裁ちばさみを借りてきて、大胆に裁断していく。しかし、無駄のない動きで広い布から切り分けられ、イスイと裁縫に取り掛かる。ヴァヴァは独りで作業と考えていたが、逆に二人に任せた方が早いようなので、ガー坊と一緒に作業を眺めている。ヴァヴァは思っていた。ドリィとイスイに催眠誘導と暗示をかけているが、この作業はどこまで無意識なのか?暗示と手伝いたいという本心が同じ方向だから、やってくれているのか?と。


 ヴァヴァは、ゆっくりと立ち上がり、作業台にある布製カバンを2つ取り出した。


「切れ端で構わないから布余ってるかねぇ?」

「余ってますよ。中途半端な大きさのものあるけど、何か使います?」

「カバンの内側に縫い付けて補強しようかなってね」

「買い物でも行くんすか?オレらが行くので大丈夫ですよ」

「そういうのはドリィたちに任せるが、非常用カバンっていつの時代も大事じゃないか。裁縫している姿を見て、作らねばと思い出したんじゃよ」

「その知恵と慎重さが、長寿の秘訣なんすねなら」

「やかましいわ」


 和気あいあいとしながら、作業をする。時間が経つのも忘れ、また一日が過ぎていく。ヴァヴァとガー坊が眠りにつく頃、ドリィとイスイは、夜通し裁縫作業を続けている。やることもないので丁度良いと当人たちは思っており、黙々と作業を続けた。

しかし、3時間毎にスッと立ち上がり、地下の隠し部屋に行き、培養液の交換は行なわれた。暗示効果は、しっかり続いている。


 朝になり、ヴァヴァが起きてくると、ローブ2着が出来上がっていた。


「お前さんたち、夜も裁縫やってたんかい?」

「えぇ、夜中って暇なんすよ。だから、作業があると助かります」

「難儀だねぇ」


 会話の途中で、ドリィがスッと立ち上がり、次にイスイが立ち上がる。培養液交換の時間だ。地下に向かって歩き出したので、ヴァヴァは完成したローブ等を持って一緒に下りていく。通路を通る2人を邪魔せぬようついていき、隠し部屋の培養体近くにいろいろと詰め込んだカバンを置き、その上にローブ、横に靴を置いた。

 それから、培養体の状態を確認する。定期的な培養液交換されているため、成長は遅いが腐りもせず無事なようだ。水晶を埋め込んだ場所も縫合傷跡すら無くなりキレイな肌をしている。それを確認した後、ヴァヴァは男性型培養体の左上腕部に赤みを

帯びた水晶を押さえつけ、細長い布で巻き付け固定した。女性型培養体には、紫色になった水晶を紐で固定し、首飾りとして掛けた。

 次にヴァヴァは実験室に移動し、薬瓶が置いてある棚を見ている。いくつかの薬瓶を取り出し、実験記録資料と照らし合わせ、3つの薬瓶を木桶に入れ、まとめて隠し部屋に持っていった。


「ふぅ。・・・どうなるんだろうね。あのエルドラド大佐だから、最悪を想定しないと」


 ヴァヴァは、ため息をついた後、1階に戻った。


 窓の外を眺めているガー坊に、ヴァヴァが声をかけた。


「ガー坊、こっちに来て座んなさいな」

「ぉっほ~」

「ガー坊にまじないいの装備をするから袖をまくって左腕を出してみなさい」


 左肩まで袖をまくったガー坊に対して、ヴァヴァは上腕部分に赤みを帯びた水晶を押さえつけ、細長い布で巻き付けた。しっかり巻き付けられた部分をヴァヴァは両手でしっかり包んで、そっと目を閉じ、囁いた。


「ヴァヴァさん、詠唱っすか?」

「ぁ~、これは病気に対して免疫を上げる呪いだよ」

「ガー坊に必要なんすか?」

「ドリィ、分かってないねぇ。培養体であるガー坊の抵抗力は未知数じゃろ?だから、魔道具で補助してやんだよ」

「へ~ぃ、すんません」


 それから、今出来る一通りの作業が終えたので、4人が同じ場所にいて談笑するゆっくりとした時間が流れる。言葉がうまく出ないガー坊ではあるが、身振り手振りで気持ちを表現し、3人を和ませた。


 イスイが夕食の準備に取り掛かっている時、皆が緊張した。いよいよ、その時が来てしまった。


 ドン!ドン!


 大きな音をたて扉を開け入ってくるエルドラド大佐は、ものすごく焦った表情をしていた。


「ヴァーさん、ヒポ様の状態が急変した。培養体をヒッポリー湖の祭壇まで運び、転移を頼む」

「・・・皆、聞いたかい?地下に行くよ!大佐は、先に祭壇に行ってあげな」

「あぁ、くれぐれも培養体を傷つけないよう、慎重に急いでくれ」


 エルドラド大佐は、先に出発した。

 おろおろしているガー坊に対して、ヴァヴァが指示を出す。


「ガー坊、いいかい?隠し通路を前やったように壁を作っておくれ。お前さんなら容易たやすいことだろ?」

「ふん、ふん」

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