第23話 復活した二人

 培養体に転移したヴァヴァは、体の確認をしている。


「ヴァヴァ様、まだ体が馴染まないかもしれませんが、お時間がないのでは?どうしたらいいですか?」

「はっ、そうじゃ!大佐たちが戻る前に、やることがある。よし、ガー坊!この箱のそばに服とカバンを用意した、まず着替えるんじゃ」

「分かりました!」


 ヴァヴァとガー坊は、体を拭いて、下着をつけ、ローブをすっぽり被って着た。そして、靴を履き、状態を確かめる。


「立ってみると、身長は変わらないみたいだな。成長速度が同じか」

「えへへ、ヴァヴァ様と背丈一緒です」

「というよりも、ガー坊よ。"様"が付くのはなんでじゃ?」

「いろんなお世話をしてもらった記憶があるのです。敬意を表して"様"を付けます」

「なんと!記憶があるということは、いろいろ理解しておったのか。では、培養体以前の記憶はあるわけじゃな?」


「いえ、それは1枚1枚の絵のようなものは浮かぶのですが、自分じゃないような『誰が見てたの?』って思うのです」

「ほぅ、そこまで言えるのか。お前さんは、6人分の魂が入った培養体として存在していたんだよ」

「だからかぁ!話そうとしても、同時にいくつもの言葉があって、結局、言い表せない感覚しかなかったのです」

「今は、どうなんじゃ?頭は、言葉選びが働いておるのか?」

「たくさんの言葉がありますが、今言うべきものを選んでいる状態です」


「いろいろ確認したいことはあるが、今は場所を変えることにしよう。まずは、壁際にある瓶の蓋を開けておくれ」


 ガー坊は指示通り、3本の薬瓶の蓋を開けた。


「よし、荷物は装備しているな。木桶に3本の中身を全て入れる。ただし、息を止めてからな。入れ終わったら、実験室まで走って移動だ」

「了解です」


 ガー坊は、木桶に3本分の液体を入れ終わると、ヴァヴァと一緒に走っていく。


「さて、ド派手にいこう!実験室の薬瓶を壁に投げつけろ!」

「そぉぃ!」


 実験室の薬瓶をあちこちに投げまくる。薬瓶同士をぶつけて割り、反応を起こして、白いモヤが出た。


「おぉっと、やりすぎたか。よし、ガー坊、1階裏口から外に出て、逃げ出すぞ」

「了解っ!」


 鬱憤ばらしをやりすぎた二人は、魔道具工房の裏口から外に出て、大岩をよじ登り、身を隠しながら状況を把握する。


「・・・隊列を組んだ状態で動いてますね。何かしますか?」

「それは危険だぞ、ガー坊。エルドラド大佐は、あのヒポの魔力を吸収しおった。同じ培養体の存在ではない。あの体はすでに化け物。魔法攻撃も、こちらが培養体になったことで、どう変わったか不明じゃ。お互い、8~10歳くらいの体格っぽいからな、慎重にいくべきじゃ」

「分かりました」


 息を潜め、様子をうかがっていると、隊列は反王国本部事務所の方へ進んでいった。


「よし、静かに移動しよう。我々が倒れた場所を目指そう」


 ヒッポリー湖の祭壇に向かって慎重に下り坂を行く。下りなので、小走りのような速さになるが、培養体の体は息切れもせず心肺機能は問題なく動いている。ヴァヴァにとっては、緊迫した状況であっても自分の足で動けることに興奮して笑顔になっている。


 やがて、祭壇が見えてきた。近付くと、松明が放置してあり、灯りに照らされおびただしい血の量で残忍さが伺え、強制的に数時間前の記憶が呼び起こされる。


「アタシの杖が、そのままにしてある。ヤツらにしてみれば、どうでもいいことか」


 地面に刺さった杖を引き抜くと、近くには燃え尽きた跡が目に入る。


「これって、ボクたちだったりしますか?」

「そうじゃ、転移水晶にさらに仕掛けを入れておったので、ヤツらが何か利用しようとしても調べられないようにしたんじゃ。よく燃えおったな」

「ボクらだけが殺されたはずなのに、あっちに倒れてるのは誰なんでしょう・・・」


 ガー坊は、近くに倒れる遺体のそばに歩み寄ると、見覚えのある姿に膝から崩れた。


「ドリィ!イスイ! あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 感情むき出しにして泣き崩れたガー坊を見て、ヴァヴァは駆け寄り、共に泣いた。


「なんで、こんなことに!」

「・・・アタシらが受けた仕打ちに反旗をひるがえしてくれたのしれん。監視業務なのに、いつしか共同生活して何かと世話になってた」

「フスーッ、フスーッ」


 ガー坊が興奮し過ぎて、涙を流しながら歯を食いしばり、目の色が変化し始めていた。


「ガー坊!落ち着け!肉体が崩れるやもしれんぞ!」

「ん゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ガー坊は離れた位置から、湖から打ち上がり腐臭を放つヒポに向かって、拳を振り上げた。すると、ガー坊の地形操作が発動。ヒポの真下が急激に斜め上の角度で隆起し、大岩のようなヒポの体が跳ね上がるように飛び、巨体がヒッポリー湖中央に到達した。激しく上がる水しぶきと豪快な落下音が響いた。


 バシィィィッ!


 ヴァヴァは、ガー坊の頬をはたいた。


「今がどういう状況か考えろ!まだ慣れぬ体で動いている。冷静さを失って、無理な力を使い、この身が砕けたら、ドリィとイスイの亡骸を誰が葬ってあげられるんじゃ!あんな腐った化け物は自然の力に任せておけば、物好きな生物たちが分解してくれる」

「・・・ヴァヴァ様なら、感情を抑えられたのですか?あの二人がこんな姿になってるのですよ!」

「アタシならば、この場に詠唱途中だった流星を落として、王国・反王国、地域全てを巻き込んで、終わらせていたよ」

「ボクよりたち悪い」

「怒りを刻んでおるのは、お前さんだけじゃないってことだよ。・・・ちょっとどうした髪の毛!」

「え、髪の毛に何かくっついてますか?」


 ガー坊が髪の毛を手で払うと、バッサリ抜け落ち、額の生え際から頭頂部に髪の毛が残り、他の髪の毛が抜け落ちた。


「その鶏冠とさかのような髪型、緑色の目、アタシの師匠に似ており思い出すぞ。そんな話は後じゃ!さっきの湖面の音でバレたやもしれぬ。ガー坊、地形操作でドリィとイスイの遺体を後ろの大岩の根元に埋葬するぞ。その後に、アタシらの燃えた跡も一緒に埋葬してやってはくれぬか?」

「了解しました。早速行動に移ります!」

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