第13話 肉体疲労

 採掘後、休憩を取っている時に、ヴァヴァが言った。


「この量を運べるのかい?アタシら2人がまた荷車に乗るわけじゃが」

「以前は、これ以上を運んでいました。荷車の底は鉄板補強もしてあるのでいけます」

「余裕っすよ」

「そうかい。食事が終わったら、早速帰るとしよう。この空間で松明を長い時間燃やしているから、ぼちぼち息苦しくなるだろう。昔の換気口は当てにならないからな」


「オレらが採掘してた時に、よく注意を受けてました。カナリアを連れていくの忘れた隊員がひどく叱られていたのを思い出します。別働隊は、毒気のある霧が噴出し、死傷者が出たことがあったんですよ」

「それなら、いい頃合いかもしれんな。ガー坊、あの水を塞いできてくれるかい?」

「ぁ~ぃ」


 ガー坊が地形操作で地下水が出る穴を塞ぎ、荷車まで戻ってきたところで、ドリィとイスイが周囲の壁にある松明を外し火を消して回る。そして、帰りの通路も全て松明を消しながら昇降機まで辿り着いた。


「上昇か。ガー坊、ちゃんと荷車に掴まっておくんだよ」


 上る前から、ガー坊は少し体が強ばっている。昇降機自体が苦手になったようだ。


「ぁんわぉぉんふぅぅ」


 ガー坊が、また妙な声を出しながら、昇降機の浮遊感を必死に耐えていた。


 鉱山入り口に戻ってくると、外は日暮れの時間となっていた。ドリィとイスイは、荷車の水晶を布で覆い、目立たぬようにした。同じ反王国側であっても、王国側で貴重な鉱石を売って現金を稼ぐ者がいるため、奪われては困るからだ。その布の上に座り直したヴァヴァは、帰り道、夕日がヒッポリー湖に映る景色を眺め、癒やされる。ガー坊は、初めての多くの体験から疲労したためすぐに眠りだした。


 かなりの重量となった帰りは、3時間かかって魔道具工房に無事到着した。


「この状態で荷車を外には置いとけないので、水晶を工房内に運び入れます。ヴァヴァさんとガー坊は休んでください」

「それなら、地下室の魔法陣部屋の隅っこに運んでくれないか?ただ、そこから入りきれないものは、地下廊下に置いてほしい」

「分かりました。オレらは、疲れてても、やっぱり眠れない付与なので、夜通しかかっても運び入れます」

「・・・全く難儀な体だねぇ(それは、ヒポの呪いで『隷属』って言うんだよ)」


 ヴァヴァとガー坊は睡眠を取り、ドリィとイスイは、採掘した水晶を深夜遅くまで地下室に運び入れ続けた。


 翌朝になったが、ヴァヴァとガー坊は起きてこない。ドリィとイスイは、様子を見ると深い眠りについたままだった。


「どうするよ?」

「いいんじゃない、疲れてるから寝かせておいてさ。オレらも、休めるし」

「確かに。眠る必要が無くなってから、快調とはならなくなったよな。たまに立ちくらみするし」

「ちょっと便乗して、ゆっくりさせてもらおうよ」


 ドリィとイスイは、軽く朝食を取り、ゆったりとした時間を過ごす。

 お昼前になって、ヴァヴァが起きてきた。


「ぁ゛~、体が痛い。久しぶりに、はしゃいだからかのぉ。って、ガー坊は、まだ寝てるのか」

「お目覚めになられましたか。ヴァヴァさん、全く起きる気配なかったですよ」


「そりゃ~、外に出て活動するのが何十年振りだったか。ん、もっと長いか?久しぶりの刺激は、高齢過ぎる体には疲労として跳ね返ってくる。もっと運動のような体の使い方をさせてくれればいいんじゃがな。エルドラド大佐になるまでの歴代の大佐たちは、しっかりと幽閉状態にして、監視の者とすら会話させない時期もあった。エルドラド大佐になってからは会話はあるが、魔道具工房として魔道具作成を命令してきよった。エルドラド大佐は、これまでの大佐とは違う。ヒポの付与を受けた人というより、ヒポの分身のようじゃ。・・・腹減ったな、食事にするか。これ、ガー坊!

そろそろ起きんか!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぉぉぉ、ぃぃたぃ」


 ガー坊は筋肉痛なのか、もそもそと体を揺り動かして、どうにか立ち上がり、用を足そうという動きに入った。


「ガー坊!そこ違う!外行くぞ!」


 ドリィがガー坊の腕を引っ張り、外のトイレに連れて行った。


 その後、ヴァヴァとガー坊は食事を取った。パンをかじりつつ、ドリィとイスイに対してヴァヴァは話し始めた。


「地下の培養体の性能を上げるために、加工した水晶を埋め込む作業をこの後行なう。二人には、その作業も手伝ってもらいたい」

「ふぁぁぁ~」

「なんじゃ、ドリィ。あくびで返事するとは、随分失礼な態度じゃな」

「失礼しました。先日の活動疲労が抜けていないので、思わず出てしまいました」


 垂れ下がったまぶたの隙間からギロッとドリィを睨むヴァヴァだが、同時に考えていた。廃坑まで往復だけでなくかなりの肉体疲労する労働条件があった後、睡眠による体力回復が出来ない二人。これなら、アタシの催眠誘導がより可能ではないか、と。


 ヴァヴァとガー坊の食事が済み、片付けた後、4人は地下室に下りていった。実験室を通り、魔法陣がある部屋に進んで、ヴァヴァが言った。


「昨日採掘した水晶は、あくまで塊。ガー坊の体には、ヒポの体内で濃縮された魔素の入った水晶の塊が心臓付近に入っている。今、成長させている培養体には、もっと純度を高めた水晶を臓器活性に使いたい。なので、採掘した水晶を粉砕して質の良いものをより分け、再結晶させ培養体に使いたい。目的は分かるか?」

「言いたいことは分かるけど、この水晶の塊から、どう抽出するんだ?皆で砕くのか?」

「いくら眠らなくてもいい二人でも、夜通し砕こうとして、ちょっと大きな塊になれば良い方。なかなかの硬度がある。そこで、この魔法陣部屋が活きてくる。魔法陣の力を用いて、高圧縮をかける。一旦は粉砕に集中し、寄り集めてそれから再結晶させる。この工程で必要になるのが、ガー坊の能力じゃ」


「ぉぉぉ、ぉ?ぼくぅ?」


「そうじゃ、ガー坊の鉱物を選別する能力に、アタシの重力魔法で同時に水晶を加工する。そこに魔法陣の魔法効果を増大させる効力を合わせれば、あっという間じゃろう」

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